表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜サイドストーリー〜
163/384

葵とハンドボールレッスン #5

……理由、か……。

理由。ハンドボールをしようと思った理由。思えば、薫はこれまでそんなことを気にしたことがなかった。

何でやり始めたのか。今更思い出せない。おそらく、何となく始めたからだろう。護と一緒に出来るものなら、何でも良かったのかもしれない。

だから、今もこうして続けてこられたのだろう。護にハンドボールをしている姿はかっこいいと言ってもらえるのだろう。

ハンドボールをやってきて正解だった。

……楽しんでやれる……。

護の言ったことは間違っていない。護とやるハンドボールは楽しかった。一緒にやる機会は減ってしまってはいるが、こういう時、やっぱり護をハンドボールに誘って良かったと思える。

思えば、昔から、護が好きだった。だから、護を誘った。

護を好きになった理由。それも聞かれると、詳しく答えることは出来ない。だって、ずっと一緒にいたのだ。

気がつけば好きになっていた。気が付けば想いを寄せていた。好きになった理由なんてない。知らず識らずの内に、護に惹かれていた。

昔から、護は何も変わっちゃいない。無論、それは護の行動理念のことだ。

他人のことを第一に考えて、見返りを全く求めない。自分のことを気にせず、他人を助けようとする。

漢字一字で護を表すのなら、確実に「優」。これは、誰にも反論はさせない。いや、護のことを好きなら、皆、同じことを思っているだろう。

だからこそ、護に惹かれるのだろう。自分達には出来ないことだから。それを簡単に出来てしまう護を凄いと思う。

「そう思えば、何でハンドやり始めたとか、気にしたことなかったな」

「そうだねぇ。気にならなかったしねぇ。薫がかっこよかった始めた、なんて薫本人の前で言うのは恥ずかしいから」

……言ってる言ってる……。

ありがとう、と薫は心の中で咲へ感謝の気持ちを述べる。そう思ってもらえて嬉しい。護にもそう思ってもらえている。

「俺と結構似てるな。咲は」

「そうなの? やっぱり薫はかっこいいよね。まぁ、可愛いところもあるけど」

「は、恥ずかしいからそんなこと言わないでよ……」

「葵ちゃんも薫の可愛いところ、色々知ってたりする? 」

「わ、私ですか………………っ? 」

「いや、そんなこと考えなくていいよ。本当に……恥ずかしいから、そういうことはあたしがいないところで話して」


……薫の可愛いところ……。

会話の中に混ざりたかったから、話を振られたから良かった。しかし、薫の可愛いところ。これまでに考えたことはなかった。

「そうですね………………」

「葵。真剣に考えなくても…………」

話すようになって、互いの気持ちを知ってから、まだそれほどの時間は経っていない。だから、知らないことの方が多い。当たり前のことだ。

「さぁさぁ、葵ちゃん。何か無いの? 」

「言うのはやめます。薫が恥ずかしがってますから」

「えぇ…………」

あるといえばある。だけど言わない。だって、薫が嫌がっているように見えるから。

護ならこういう時、絶対に言わない。他人が嫌がってることは絶対に言わない。だから、葵はそれを見習ってみたのだ。護に近づくために。

「まぁ、この場で言うのもあれだしねぇ………………。うん、分かった。じゃ、練習再開しよっか? 」

「そうですね」

「ありがと。葵」

「いえいえ」


さて、練習再開。今度はシュート練習。

まぁ、またしても俺が教えることになる。葵は薫のシュートの姿がかっこいいと言ったのだから薫がメインで教えれば良いと思ったのだが、どうしても俺が教えるらしい。

「また、お願いします。護君」

「おぅ」

もちろん、シュートはハンドボールの醍醐味である。というか、点を取ることを目的とするスポーツなら、当たり前である。

ドリブルやパスなどのオフェンス面は、攻撃に繋げるためにある。シュートをするというものは、やっぱりかっこいいものである。だから俺は攻撃を主とする、ライトバックもしくはレフトバックのポジションについているのだ。

で、シュートの威力というものは、精神面が関わってくる。迷いなく、狙った場所に打つことが必要なのだ。シュートをするタイミングでどこに打とうかなんて迷っていたら、威力が落ちてしまう。そうならないように、基礎練習をしなければならはいのだ。

「どのシュートを練習しようか……………………」

試合で一番使うシュートは、やはりジャンプシュートだろう。ディフェンスの上から打つことが出来るから。

でも、このシュートは飛ばないといけない。ジャンプシュートなんて名前がついてるのだから当たり前だ。

この時に空中でフォームがぶれないよう、意識しないといけない。さっき練習やり始めたばかりだから、葵にきちんとしたフォームを教えていない。それに、腹筋、背筋の力が弱いと上体がぶれてしまうから、体幹の強化も心がけないといけない。

「なぁ、葵………………」

「どうしましたか? 」

「これまでに、腹筋とか背筋とか……、筋トレしたことある? 」

「あまりありませんね……………………」

……ですよねぇ……。

何回も繰り返して葵には申し訳ないが、葵がそういったことを自主的にやるとは思えない。苦手なことだからだ。勉強ならちょっと出来なかったら頑張るだろうが、運動のことになるとそうもいかないだろう。

「迫力は欠けるけど、やっぱりステップシュートの練習で良いんじゃないの? 」

「やっぱりそうだよな」

ステップシュートも基本の形である。俺自身は、あんまり使わない。

「葵がかっこいいって思ってくれたやつは…………後で見せるだけでもいいんじゃない? やるのはちょっと厳しいだろうし…………。それで良い? 葵」

「はい。それでも構いません」

「なら、ステップシュートの練習だな」




……ステップシュート、ですか……。

名前を聞いただけでは、どういう風にやるシュートなのかは分からない。でも、さっきまでの練習で薫達がやっていたシュートでないということだけは分かる。それに薫は、迫力が欠ける、とも言っていた。

仕方のないこと。自分が苦手なのだから。葵がスポーツ全般を苦手としていなければ、ハンドボールをちょっとでもやったことがあったなら、薫達がやっていたようなシュートを練習することが出来ただろう。

「お願いします。護君」

「任された」

護が葵の側についてくれ、薫と咲は一定の距離を取って離れている。

ゴールは全て使われているから、ゴールキーパーとして立っている咲がシュートを止められなければシュートが成功となる。

「じゃ、まず俺がやってみるから、横で見ていてもらえるか? 」

「はい」


葵が真剣な眼差しで俺を見ている。

「咲、ちゃんと止めてくれよ? 」

中学生の皆が試合をしているコートの側でやっている。もしかしたら、そっちの方にボールが流れてしまうかもしれない。邪魔はしたくない。

「当たり前だよ。あたしが止められないと思ってる? ただのステップシュートだよ? 」

「それもそうだな」

基本の基本だから必ずといっていいほど練習するシュート技ではあるが、試合で使えばほぼ止められる。葵には悪いけど。

でも、葵はハンドボール部にはいるわけではない。今を楽しめればそれで良い。それだけで良いのだ。

「まずは左足からの踏み込み」

葵も右利きだから、俺から同じ視点で教えることが出来る。結構楽できる。

んで、まぁ、このシュートの時に走ってシュートを打てばランニングシュートになるわけだが、葵には普通のステップシュートでいいだろう。葵は走るのも苦手だ。走るのに別の動作を加えると駄目になるような気がする。

「やってみるからな? 」

「はい」

左足から一歩を踏み込んでいき、その後は交互にステップを踏む。そして、三歩目(左足が前に来た時)でシュートを放つ。

体をしっかりひねりながら力を蓄え、ボールを手から離す時にその力をボールに伝える。

口で説明せずに、まずやってみる。物事に対しての吸収力、葵はそれについては凄い。すぐに身につける。勉強ではそうだ。

まぁ、苦手でもそれに関しては大丈夫だと思う。

オーバースローから、ステップシュートを咲にむけて放つ。

とりあえず、咲の腰の辺りの右側を狙ってみる。腰横がシュートの狙い目だったりするのだ。

「やっぱり簡単すぎるね」

当たり前だが、簡単に止められてしまう。ゆっくりとボールが俺に戻ってくる。

「これなら葵も出来るんじゃない? 」

咲の横で見ていた薫が、葵にそう声をかける。

「そう…………ですね。護君。別のパターンも見せてもらえますか? 」


護は簡単にやってみせた。本当に簡単なのだろう。それは、見るだけでも分かる。何かが応用されている雰囲気もない。

見た感じ、葵でも出来そう。でも、やってみないと分からない。簡単なことでも出来ないかもしれない。これは勉強ではないのだ。運動、スポーツなのだ。勉強とは勝手が違う。

「これなら葵も出来るんじゃない? 」

「そう…………ですね。護君。別のパターンも見せてもらえますか? 」

試合ではあまり使わないらしいが、使うタイミングがあるからこそ練習するのだろう。なら、オーバースロー以外でのシュート方法もあるはずだ。

「そうだよな。これだけじゃ、物足りないし」

口には出さないが、葵もそう思ってる。

そこまで出来るようにならなくてもいいのだ。物足りないのはそうであるが、今さっき護が見せてくれたやつを普通にできるようになれればいいのだ。

だって、見てるだけでいい。見てるだけで満足できる。

少し練習した。もっとやりたいが、出来ないものだってある。そういうものは、見てるだけでいいのだ。


「じゃ、薫」

「ん? どしたの? ディフェンス? 」

「うん。頼んでいいか? 」

「ん。了解。立ってるだけで良いの? 」

「そうだな……。一応……、構えだけはしてもらえるか? そのほうが打ちやすいし」

「分かった」

ゴールキーパーとシューターとの一対一の場面でシュートを打つ時。その間にディフェンダーがいてシュートを打つ時。その二つの種類がある。

やっぱり一対一のほうが方が打ちやすいわけではあるが、試合の時に簡単にそうなるわけではない。だから、相手のディフェンダーをかわしてシュートを打つ時もある。

正直、ディフェンダーを間に挟む方がキーパーはボールを見にくくなるから、そっちの方が決まりやすかったりもする。まぁ、俺がそう思うだけで、皆がそう思ってるかは分からないが。

「護。シュートしてもオッケーだよ」

俺から見て右側、いわゆる利き手側に、薫が構える。

この立ち位置だって基本。こういう位置に立たれると、シュートを打ち辛くなる。まぁ、慣れたらどうってことはなかったりするんだけどね。

葵が別のパターンを見せて欲しいと言ったから、それをやる。

えっと、普通のオーバースローの他には三種類くらいかな。横からディフェンダーをかわすように打つサイドシュート。下から打つアンダーシュート。ディフェンダーの上を越えるように打つループシュート。

「あんまり変なシュートはしないでよ? 護」

「分かってる。試合の邪魔になるようなシュートは打たないから」

基本的にはタテの回転をボールにかけるわけだが、ちょっとやり方を変えたら他の回転もかけられるようになる……のだろうか。

あ、なるか。邪魔にならんようにやってみてもいいか。コートがある方とは逆のほうこうに回転をかければいい。

うん、そうしよう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ