朝ごはん
テスト勉強、当日。
まだ五月の下旬だというのに、太陽は律儀にも、俺達をさんさんと照らしてくれている。雨が降って中止とかになったら元も子もないので良かったが、それにしても晴れすぎだ。少しではあったが、外に出るのが億劫になった。
俺の隣を歩いている薫と心愛は、太陽の元気良さに比例するかのようにこれでもか、と言わんばかりに元気だった。
朝からこの調子なので仕方が無いかもしれない。
時は二時間前ほどに遡る。
〇
「護。起きて」
俺を呼ぶ声が聞こえる。母さんか? まだ寝かしてくれ。
「護。護ってば!」
寝かしてくれと言っただろう? 俺はまだ寝ていたいんだ。
ではおやすみなさい。
「護! 起きなさいよ」
まだ諦めていないらしく、俺の体を揺すってくる。だんだんと意識が戻ってくる。その時ふっと、俺の頬を髪が掠めた。
(ん?)
母さんではないな。母さんの髪の毛は短い。そして、同等の理由で薫でもない。
もう一度髪が頬を掠めた時、微かにシャンプーの匂いが鼻腔を擽った。
(これは心愛の匂い…………)
心愛……!?
はっ、と目を開けると俺を起こそうとしていた心愛と目が合う。
「にゃっ!?」
心愛は余程びっくりしたのか、後ろに飛ぶかのごとく、俺から目線を外した。
「なんで心愛がここにいるんだ?」
「か、薫に頼まれただけ!」
薫は頬を赤らめつつ答える。
なぜそこで赤くなるんだ……。
「薫? 薫も来てるのか?」
「うん。下で朝ごはん作ってる」
へぇ。薫が朝ごはんを作ってると……。
「いや。待て。どうしてまだ六時なのにここにいるんだ。集合時間は八時半だったはずだけど」
「別にいいじゃない! 護はそんなことを気にしなくても良いから、早く着替えて下に降りてきてよね」
と言うと心愛は俺の返答も待たずに、下へと降りてしまった。
あんまりのんびりしているとまた心愛が呼びにくるので、早々と着替え、薫と心愛が待つリビングへと降りた。
リビングに降りると、机の上には俺にとっては豪勢な朝ごはんが揃っていた。
味噌汁やスクランブルエッグなどなど。物心ついた時から朝ごはんはパンだった俺にとって、こういう朝ごはんを食べれるとは思ってなかった。一度は頼もうとは思ったものの、朝から忙しく仕事に出掛ける両親を見ると、その忙しさを増やすようなことは憚れた。
朝から、薫や心愛が料理をする姿を見れることは、なんとも微笑ましいものだった。ここに葵が混ざると、どういった光景になるのだろうか、と思った。
せっせと箸やコップを並べ終わった心愛が、こちらに気付いた。
「あっ! 護! もう準備出来てるから、顔を洗ってきて」
「おぅ。分かった」
俺は踵を返し、廊下の先にある洗面所へと向かった。
〇
リビングへと戻るともう準備も終わっていた。
「準備くらいは俺がやったのに」
「それくらいはあたし達がやるよ。護のお母さんにもそう言われたからね」
そういえば、母さんの姿が見当たらない。
「母さんは? もう仕事行った?」
「うん。護が寝ている間にね」
俺は机の上に並べられた朝食を見ながら、
「薫と心愛がつくったのか?」
「うん。そうだよ」
「ま、まぁね」
「そうか。じゃ、早く食べようか」
よく見ると俺のお皿の上には、スクランブルエッグが二つ並んでいた。恐らく、二人が一つずつ作ったのだろう。
俺がその右側のスクランブルエッグに箸を伸ばすと、薫がこっちを見てきた。
「ん? どうした? そんなに見られると食べ辛いんだけど……」
「あっ、ごめん……。やっぱり気になってね。前から作っていたけど、ね?」
俺はスクランブルエッグを口に運んだ。
「うん。美味しいよ。いつも通りの味。こっちのは心愛のだよね」
「う、うん。始めて作ったから味は保障出来ないけど」
「良いよ。作ってくれただけでも嬉しいからね」
心愛のも口に運ぶ。
薫のに比べると差が出てしまうが、始めてなら良いだろう。俺も昔、中学の頃、薫に教えてもらったことはあったけど、ここまで良くで来た記憶は無い。
「うん。始めて作ったとは思えない」
「そ、そんなことないよ。薫の教え方が上手いだけだよ」
薫のほうに目を向けると、
「心愛の吸収が速いんだよ。護はここまで出来なかったから」
あまり昔のことを掘り起こさないでくれ。恥ずかしくなってくる。