護と胡桃とハンドボール #2
クラス委員長としての繋がりがあったから、今こうして護と楽しく日々を過ごすことが出来る。
おそらく、同じクラスだっただけでは、ここまで仲がよくなることはなかっただろう。
……運が良かったです……。
そう考えるのがしっくりとくる。葵はずっと毎年毎年クラス委員長をしていた。護も、毎年というわけではなかったが結構していたという。そういう偶然があって、話すようになったのだ。
しかし、もう偶然は訪れない。自分から積極的にいかなければ、護の隣にいることは難しいのだ。
だから、今もこうしてここまでついてきている。元々、昨日と今日の二日は護と二人でいる予定であったのもある。葵は見てるだけであっても楽しめると思ったのだ。
「あ、御上さん」
「どうしたんですか? 」
準備運動も終わったのだろう。練習の準備が始まってる中、こっちまで戻ってきた藍が声をかけてくれる。
「練習、参加してみたりしますか? 宮永さんとかに頼んだら教えてくれると思うんですけど……」
「あぁ…………」
苦手ではあるが、やってみてもいいかな、と思ってた。この後練習が始まってそれを見ていたら、参加してみたくなってくるだろう。
「持ってきてないんですよ。体操服」
「そうですか…………。それなら……仕方ないですね」
「はい。私のことは気にしないでください。藍も久し振りに護君に教えてもらえるんですから、邪魔はしません」
「あ、ありがとうございます」
護は、同級生にも後輩にも先輩にも好かれる。あまり、のんびりはしてられない。でも、今日はそんなに心配する必要はない。
護とこの女子ハンドボール部の部員との関係を、葵は知らない。だけど、胡桃の護に向けられる視線も藍が護に向ける視線も、"憧れ"の要素が強い。
「それじゃ。そろそろ、戻りますね」
「はい。頑張ってきてください」
「あれ………………? 」
練習に使うボールとハンドボール用のゴールをもう一個体育館倉庫から出し、今すぐ練習を始められるようにする。
咲は、ゴールを出すのを手伝ってくれた護に声をかける。
「ね、護、護」
ツンツン、と肩をたたく。
「どうした? 」
「葵ちゃんは見てるだけなの? 一緒にやる方が楽しいと思うんだけど」
葵が苦手なのは知っている。だけど、ここには自分も含め、教えられる人材が揃っている。咲、薫、護のレベルは、普通の高校一年のレベルを遥かに超えているから。この中学のハンドボール部だって、高校生を打ち負かすほどの力を持っている。
「あぁ、でも、葵。体操服とかジャージとか持ってきてないぞ? もとから見るだけのつもりらしいし」
「そうなの? もったいないなぁ……」
「まぁ、葵はあまり得意じゃないしな。怪我とかしても困るし」
「うーん…………。まぁ、それもそうだねぇ」
「でも、暇だろうし、一回休憩挟んだ後、聞いてみても良いかもな」
「そだね。うん、そうする」
「咲さーん! 護さーん! そろそろ始めますよー!! 」
ゴールとゴールのちょうど真ん中に皆が集まっている。自分たちがいないと、練習は始まらない。
「行こっか」
「おぅ」
……ふぅ……。
練習開始である。
護、薫、咲の三人をリーダーにして、部員たちはそれぞれ分かれる。
薫か咲のもとに集まったメンバーは、シュートを基本に練習。護のもとに集まったメンバーは、オフェンスとディフェンスを基本に練習。
もちろん、胡桃は、護を選んでいる。当たり前だ。自分のことを思い出してもらうためにはそれしか選択肢はない。
しかし、すぐに行動に出るわけにはいかない。すぐにでも思い出してもらいたいが、周りの目がある。自分勝手な行動は出来ない。
「さてと………………。まず、学年順に分かれてもらっていい? 」
それぞれの力を測るためだろう。護達三人の話によると、練習の後に試合をするらしい。それのメンバー決めにもするのだろう。
その試合に出るためにも頑張らなければならない。試合に出れるのは七人。時間の関係もあるから、作れるチーム数は六個くらい。途中交代とかもあるかもしれないが、それが無い場合、数十人ほど、試合に出れないメンバーが出てくる。
もし出れないとなれば、自分の本気を護に見せられなくなってしまう。それだけは嫌だ。
「丁度全部偶数になるのか………………」
三年生が十二人。二年生が六人。一年生が二人。
薫と咲は数ヶ月前までこの部活に入っていたのだから、もちろん、護より人が集まっている。直接的に二人を知ってる三年生、二年生はもちろん、二人を名前でしか知らない一年生も多くあっちに集まっている。むしろ、それは胡桃にとってありがたいこと。人数が少ないほど、より自分を見てもらえるチャンスが増える。
……未來
みく
ちゃんか……。
護のところに集まった一年生は、自分と未來だけ。クラスも違うからそんなに話す機会はないが、これを気に仲を深めてみてもいいかもしれない。
「じゃ、それぞれで、普通の部活でやってるような練習をしてくれるか? 一応、皆がどれくらい出来るかみたいからさ」
「分かりました」
全員の声を合わせて、護の言葉に頷く。
……どうすっかなぁ……。
むろん、単純に見てるわけにはいけない。ここは出来てるから伸ばしていくべきだ、とか、そこは直したほうがいいとか、そういうことも言っていかなければならない。それが、俺の今回の仕事だ。
他人に教えるのはあまり得意ではない。でも、やるしかない。
俺の元に集まってくれた部員は二十人。もうちょい少ないかな、と思っていたが、案外集まってもらえて嬉しい。何回も教えにきていたわけではあるが、やっぱり薫と咲の力の方が上だし、皆も一番それを見てきてるはずだ。
それなのに、俺を選んでくれた。なら、頑張らないといけないな。皆の期待にも応えたい。
三年生と二年生の名前は全部覚えていたし良かった。まぁ、忘れていたとしても体操服の胸のあたりには苗字が刺繍してあるから、大丈夫だった。
一年生は二人。一人はさっきここに来るときに途中であった未來ちゃん。で、もう一人は織原さん。
……織原……?
杏先輩と同じ苗字。杏先輩の妹かな。まぁ、そうじゃないかもしれない。
それに、あのツインテールの姿。見覚えがある。どこかであったことあるかな。それとも、どっかでハンドボールを教えたりしたかもしれない。