葵と護と薫と #5
……へぇ、葵ちゃんと……。
薫の言葉から、今護と葵が一緒にいるということが分かった。昨日から、護は葵の家に泊まっていたのだ。
……修羅場になるかな……?
薫は、葵がここにくることを承諾した。薫が何を思ってそうしたのかは分からないが、何か、恋の戦いが始まったりするのかもしれない。
でも、そうなった場合、咲は胡桃と一緒にそれをニヤニヤしながら見ておこうと思う。
だって、もう自分はそこに混じることは出来ないから。
あの卒業式の時から、時間は経ってしまっている。その間に、護は色んな女の子と出会って仲良くなってしまっている。
いくら、中学の時は薫と並んでいたとしても、今はもう違うのだ。
「葵ちゃんが来るんだね」
「うん。そうね」
「葵さん? 」
当たり前だが、胡桃は葵のことを知らない。誰? と気になるのは当然だろう。
「あたしと薫、そして護のお友達」
「へぇ。そうなんですか……」
……変わったねぇ、葵ちゃんも……。
家が隣だったから、それなりに知っている。護と薫が互いのことをよく知っているような、そんな感じである。
昔は、自分から男の子を誘って家に泊めるような、そんな行動力のある子ではなかった。かなりおとなしい子で、よく自分が振り回したりしていたのだ。
昔の葵を知ってるから、より変わったのだと思える。
……護が変えたんだよね……。
高校に入ってからの葵は、中学の時の葵と全然違う。やっぱり、大きな理由は護なのだろう。護を好きになったから、自分を変えようと思ったのだろう。
だって、そうしないと、護の側にはいられないからだ。青春部なんてものがあり、護を好きな娘がたくさんいる。今までの自分では無理だと思ったのだろう。
その葵の行動は、良い方向に進んでいるのだろう。薫が余裕な顔をしていないということは、そういうことなのだ。
「大変だねぇ。薫も」
「大変……? まぁ、そうね。護の側に居続けるのは大変」
「あのー。葵さんも、宮永さんのことが好き…………なんですか? 」
「察しがいいね。胡桃は。護はモテモテだからねー」
「はぁ…………」
「さ、護も来ること決まったし。どうする? もう一回やっとく? 」
「そうね。どう胡桃は」
「今度は抜いてみたいですから、やりましょう」
「護君。携帯、お返しします」
薫との電話も終わったので、護に返す。予定がまたしても変わってしまったが、まぁ仕方のないこと。護と二人でいる時間が減ってしまうのは嫌なことだが、一緒にいられなくなるわけではない。ずっと隣りにいないが、護のかっこいい姿を見ることが出来る。それだけでも、十分。
「良かったのか? 」
「えぇ。楽しいと思いますし。見ているだけでも。護君のかっこいいプレーも見れますし」
「そ、そんなに強くないぞ…………? 俺は。ちゃんと部活でやってたわけではないし、薫と比べたらはるかに劣る」
「そんなこと気にしませんよ。薫にも言いましたが、一回見てみたかったんです。薫と護君のプレーを」
「あんまり期待しないでくれよ? 結構動けなくなってるだろうし」
「そうですか? 」
しばらくやつていなかったとしても、一度身体に染み付いた行動はそう簡単に抜けるものではない。それに、護の身体能力は高いものだ。四月末の体力テストで知っている。
「後………………」
「ん? 」
「私、御崎中学から高校に入ったわけではないですし、御崎中学に行ってみたいという思いもあります。護君と薫と咲ちゃんが過ごしていたところを」
「あぁ、そっか。葵は普通に入学試験受けてきたんだもんな」
「はい」
そう。生まれた時からずっとこの御崎市に住んでいた。今の家でずっと過ごしてきている。でも、小学校、中学校は、他県に通っていたのだった。
それには理由があったりするのだが、今話すことではない。
「羚も試験受けた、つて言ってたんだけど、結構難しかったんじゃないのか? 」
「まぁ、それなりに難しかったです」
でも、簡単だった。だって、あの時の自分は勉強しかしていなかったから。他のことにはあまり興味が無かった。興味を持とうとは思えなかった。
「それに、吉田君もだったんですか。基本的には中学から上がってくる人が多いって聞きましたが、以外と外から受けてくる人も多いのかもしれませんね」
「そうかもな。そろそろ、行くか? 中学に」
「待たせては悪いですしね。あ…………、護君。体操服とかどうするんですか? 取りに戻らないと駄目ですよね? 」
「あぁ、そうだった。ハンドボールするつもりは無かったしな」
「護君の家に戻る時間もありますし、早くしましょうか。私もついていきます」
「分かった」
自分だけ先に向かうのは何故か嫌だった。護といられる時間を少しでも増やしたかった。護の家の中には入れないかもしれないが、別にそこは問題ではない。
「いきましょうか。護君」
護に一度微笑みかけてから葵は部屋の扉を開けて、出る準備をする。
「おぅ」