テスト勉強の前日
「そろそろテスト一週間前になるけれど……みんな勉強してる?」
「「「…………っ!」」」
心愛、薫、成美先輩が、そのテストという言葉に反応した。
心愛があまり勉強が得意でもないのは知っていたが、成美先輩もなのか……。ちなみに、薫は得意科目と苦手科目の差が激しい。
かくいう俺は……、みんなの想像に任せよう。
「それでた。明日から部活が休みになるわけで、しかも土曜日」
「みんなで集まって勉強しよう、というわけですか」
「そう。護はよくわかってるじゃないか」
でも、それなら先輩達の邪魔をしかねない。部長達三年生、高坂先輩達二年生に教えてもらえるのなら、これほど心強いことは無いが、邪魔をすることは控えたい。
「今、私達の邪魔になるとか考えたでしょ?」
心を読まれた。
「そんなことは気にしなくて良いんだよ。それに、勉強は楽しくしたほうが覚えやすいと思うんだよね。だから、ね?」
「部長がそういうなら俺達は良いんですけど」
俺は、薫、心愛、葵の三人を見ながら言う。
「場所とかはどうするんですか?テスト週間に入るとここの部屋は使えないと思うんですが……」
葵がこう口を開いた。テスト週間に入ると、部室への入室が禁止になるのを俺は思い出した。この部屋に関しては部室という感じは全くしないが、一応、青春部の部室である。
「それなんだよね。こんなに大人数じゃファミレスとかは使えないし、佳奈の家も駄目なんだよね?」
「あぁ。ちょっと家はな」
「それなら、私の家……、使いますか?」
葵が控え目に手を挙げた。
「え!? 良いの?」
部長は身を乗り上げつつ、葵に問う。葵は少し、部長のテンションに困っている。
「親に聞いてみないとなんとも言えないですけど……、多分いけると思いますよ」
「それならそういう話で進めても良いかな?」
「えぇ。連絡は後で皆にしますので」
「分かった。じゃ、今日はこの辺で終わりにしようか。明日の為に、分からないところをピックアップしておくと良いよ。そのほうが私達も教えやすいからね」
(葵の家か……)
〇
机に向かって、教科書やノート達との戦いを繰り広げていると、メールがきた。
葵からだった。
「家、使えることになりました。私の家の場所分かりますか?」
「いや、分からんな。教えてくれるとありがたい」
メールはすぐ返ってきた。
「護君達の家から一番近い駅から、四つ先の御崎駅に集合にしますので」
「了解!」
メールを終え、俺はもう一度机に向かった。
それから数時間後、今度はメールでは無く、電話がきた。
「もしもし?」
「俺だ。羚だ」
羚からだった。
「どうした? お前が電話してくるなんて珍しいな」
「まぁな。明日なんだけどさ、暇か? もし暇なら勉強教えて欲しいんだが」
「明日か? 明日は無理だな。青春部の皆と勉強することになってる」
羚の声のトーンは分かりやすいほどにあがった。
「え!? マジか!? 」
「マジだが……、そんなに分かりやすい反応をしなくても良いだろう……?」
うっかり口に出してしまった。
「だって、織原先輩や、麻枝先輩とかに勉強教えてもらえるのだろう?」
「そうだな」
「先輩達、かなり出来るらしいぞ。勉強」
「そうなのか。なら羚、お前も来るか?」
遅刻魔であり、授業中もよく寝ている羚が、勉強が得意なわけがない。よく質問をされる。
「いや。良いよ。お前から話を聞ければ俺はそれだけで満足だ」
「それなら、日曜。一緒に勉強するか?」
「日曜か? ちょっと待ってくれ」
羚は予定を確認しに行った。「母さん。日曜って用事あったっけ?」という声が聞こえてくる。
「朝だけならオーケーだ。昼は、家族で飯食べに行くからそれまでに帰って来いって言われたが」
「それなら、昼までだな」
「じゃ、日曜。頼んだぞ」
「おぅ。頼まれた」
(まぁ)
人に教えられるほど自分で理解しているかが少し怪しいが、大丈夫だろう。
俺は。明日がどんな勉強会になるのだろうと思いながらベッドに入ったのだった。