表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜サイドストーリー〜
149/384

葵と護と薫と #3

俺が見ている先で、葵は、何かをせっせと潰している。さっき、ジャガイモを持っているのを見たから、茹で終わったそれを潰しているのだろう。

朝ご飯を作ってくれている葵と、それの完成を待っている俺。他の人がこの状況を見たなら、新婚夫婦かよ? と突っ込んでくれることだろう。いや、そう突っ込んでくれないと、こっちが恥ずかしくなってくる。

あぁ、もう。そんなことを考えてると、本当に恥ずかしくなってきた。やめだやめだ。

としても、この手持ち無沙汰な状態。何もすることが無い。部屋の壁を見るか、料理をしている葵のエプロン姿を見るか、この二つしかすることが無い。

で、まぁ、部屋の壁を見ていても虚しくなるから葵を見ていたわけで、こういう感情を持ったわけである。

「護君、もうすぐですから」

「おぅ…………。分かった」

ジャガイモを潰し終えたらしい葵は、それをボールの中に入れて混ぜている。混ぜ終わったら、これをパンの上に乗せてトースターか何かでチンすれば完成だろう。

うん。待ち遠しい。早く食べたい。葵の手作りを食べれるからか、腹の虫もさっきから大いに活動中だ。


……少し、多かったでしょうか……。

六枚の食パンをそれぞれ四等分にしたわけだから、合計で二四個のポテトサラダトーストが出来上がった。

そこまで一つ一つの大きさが大きいわけではないのだが、二人で食べるには少し多いかもしれない。

一気に全てを焼くことが出来なかったので、二回に分けて焼き終える。

「護君、おまたせしました」

完成したトーストをお皿の上に綺麗に並べ、護が待つ部屋の方の机の上に置く。

「おぉ…………。美味しそうな匂いがする。やっぱに、葵は料理上手なんだな」

「ありがとうございます。でも本当は、私、あまり料理したことないんですよ? 」

「え? そうなのか? 」

「はい。中学の時の調理実習の授業とか、昨日今日みたいに親が家を離れる時だけですから、十数回だけです」

「へぇ。知らなかった」

母がとても料理をするのが好きだから、自分の腕が母には及ばないところから、母がいるときは作らないのだ。

「でも、これからは………………料理一杯作ってみようかと思います」

「どうしてだ? 」

「秘密ですっ」

料理を作る、といっても、護のために料理を作る。ただ、それだけがしたいだけ。護に自分のことをもっと意識してもらうために。

「秘密……………………? 」

「はい。気づく時がくると思いますから」

「んん…………? 」

男を落とすにはまず胃袋を掴め、とよく言われる。昨日の晩ご飯ではそんなに掴めなかったと思うし、今作ったものでも、どれほど掴めるかが分からない。

だから、これまで以上に料理を頑張ってみようと思えた。


葵が作ってくれたポテトサラダトーストをお腹いっぱい食べて、再度葵の部屋に戻る。

時間は八時半。勉強、というやらないといけないことがあるわけだが、昨日も結構頑張ってやったし、朝からやる気はあまり起きない。

まぁ、暇だということだ。

机を間に挟んで、俺と葵は向かい合って座っている。

俺も葵も、自分から口を開こうとはしない。こういう時って、案外何を話せば良いのかが分からなくなったりする。朝ご飯を食べているときはあんなに話していたんだけど。

……ん……?

いや、葵は何かを話したそうにしているな。何回か、俺に目線を合わせてきてるし。

さて、どうするべきか。ここは、俺が何か話題を提供するべきなのだろう。

今日の夜には、佳奈の家で七夕パーティーが開かれるわけだが、昨日のうちに色んなこと話したし、今さら改めて話し合うことなんてないだろう。

うむむむ。どうしようか。

「あ…………あの……。護君…………」

「ん? 」

やっと、無言だった空間に声が響いた。うん、良かった。何を話すべきか結構迷っていたし、こういう無言の時間はあまり好きではない。

「七夕パーティーまで…………まだかなり時間ありますから………………、どこか、出かけますか? 」

「そうだな…………」

葵のことだから、また勉強でもしようと言い出すのかと思ったが、そういうことではないらしい。うん。気分展開は必要だ。まぁ、昨日から気分展開ばかりしているような気がしないでもないが……うん、気にしないことにしよう。

「たとえば…………、葵はどこに行きたいんだ? 」

「え…………? あ、そうですね………………」

考えていなかったのか……。まぁ、俺もそういう時あるしな。俺の反応を見てから考えようとしていたのかもしれない。

「佳奈先輩の家は風見駅まで行けば良いんですよね」

「うん」

「なら、その周辺に行ってみるのも良いかもしれませんね。私土地勘分からないですけど…………」

「そうだな…………」

俺だって土地勘があるわけではない。ただ、佳奈の家にも一回行ったし、風見植物園にも行ったし、その時のことを思い出せば、少しばかり案内は出来るかもしれません。いや……難しいか……。

「どうします…………? 」

「まぁ……………………。あ」

ブザー音だ。俺と葵との会話を途切れさせるように鳴った。俺の携帯だ。マナーモードにしているから、メールなのか電話なのか分からない。電話かもしれないから、早く出た方が良いだろう。

「悪い。葵」

「いえ。電話だったら困りますから」

悪い、ともう一回だけ葵に謝って、俺は携帯を開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ