久し振りのハンドボール #5
「自分でもちょっとびっくりしてる…………」
薫は言葉を続けた。本当に、能力は落ちていると思っていた。だが、予想を良い意味で裏切ってくれた。
「そっかそっか……」
咲の言葉を最後にして、薫達三人は更衣室に戻った。
「薫さん」
胡桃は、隣にいる薫に話しかける。薫は、タオルで汗を拭いていた。ちょっとしか動いていないとしても、夏で閉め切った体育館で動けば、自然と汗は垂れてくる。
たとえ、あまりにも広い敷地面積を誇っているとしても、さすがに体育館に冷房器具は設置されていない。
「どうしたの? 」
「宮永さんに…………連絡しましたか? 」
「今からするところ」
「ん? 護がどうかしたの? 」
宮永、という言葉に反応したのか、咲は薫に乗りかかるようにして聞いてくる。
「護を呼ぼうと思って」
「ここに? 」
「はい。あたしが言ったんです」
実際は自分から頼んだわけではないが、薫にそう言わせたのは自分。だから、自分から言ったのと同じ。
「護は昔から手伝ってくれてたし、丁度良いと思ってね」
「でも、護も予定あるんじゃない? 」
薫も思っていたこと。咲も同じことを考えた。
……宮永さんは人気者ですね……。
薫も咲も護のことが好き。なら、一緒にいたいと思うはずだ。それなのに、自分の気持ちを静めて護のことを最優先に考えている。
「それは、あたしも思ったよ? でも、お昼までだしさ、護も来てくれるかなって。ね、胡桃? 」
「あ、はい」
そう。何も、まるまる一日護を拘束しようというわけではない。お昼までの数時間、護と一緒にいられるのなら、その方が断然に良い。
「そっか。来てくれると良いね、護。久しぶりに護のプレーも見てみたいし」
「うん」
……そっか……。
二人は久し振りになるのだ。でも、胡桃は護のプレーはそれほど見ていない。実践形式で教えてくれた時くらいしか、護がボールを持ってコートを走っている姿を見たことがない。
一度でも護の本気を見れれば、この護に対する憧れの気持ちはさらに大きくなる、と胡桃は思っていた。
……大丈夫、だよね……。
汗で少し湿ったタオルを鞄の中に直し、かわりに携帯を取り出す。
「あたしと胡桃は、部屋出るね? その方が電話しやすいでしょ? 」
「ありがと」
「いいのいいの。じゃ、胡桃。シュート練習しよっか? 」
「あ、はい……。分かりました」
出ていってもらう必要はこれっぽっちもなかったが、わざわざ気を使ってくれたのだ。相手の好意は、素直に受け取っておくべきだろう。
早くしないと他の部員達も来てしまうので、薫はすぐに護に電話をした。