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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜サイドストーリー〜
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久し振りのハンドボール #1

「よいしょっと………………」

七月七日。佳奈の家で開かれる七夕パーティーは夜から。それまで時間が空いていることになる。だから、薫は、咲の案に乗って久し振りにハンドボールをすることになった。

体育の授業で使う体操服、お茶、タオル、などを詰めた鞄を肩にかけ、薫は家を出た。


「暑いわね………………」

家の外に出ると、太陽がアスファルトを温めて生じた熱気と蝉の大合唱が、薫を包む。

薫が向おうとしているのは御崎中学校。杏の妹、胡桃(くるみ)が所属しているハンドボール部に、咲と一緒に顔を出すことになっている。薫も咲も、数ヶ月前まではこの部活に入っていたのだ。だから、後輩の中にはそれなりに仲が良い子もいる。

自転車の前かごに鞄を入れ、薫は出発する。

御崎中学校は、御崎高校のすぐ近くにある。というか、御崎小学校、御崎中学校、御崎高校、御崎大学が、一緒の敷地内に存在する。

約三七万平方メートル。東京ドーム八個分ほどの広さがあるのだ。無論、この四つの中で一番大きい敷地を持っているのは御崎大学なわけで、その敷地内には、コンビニやカフェ、その他諸々があり、一つの小さい街みたいになっている。

「中に入るのは久しぶりね…………」

同じ敷地内にあるわけだから、毎日のように中学を卒業した後も、その前を通っていた。しかし、中に入るとなると話は違ってくる。

「薫さん………………っ! 」

「胡桃……? しばらく見ない間に身長伸びたわね」

「はい……っ」

薫は自転車から降りて、胡桃の横に並ぶ。

「あ、薫さん…………」

「どうしたの…………? 」

「咲さんから聞きました。ハンドボール部やめたって………………」

「まぁ……ね」

部活を辞める時、少なからず周りからの反対はあった。それでも、薫は護達と一緒に青春部に入ることにしたのだ。

ハンドボールは好きだし、やっていて楽しいし時間を忘れさせられる。でも、護といる方が楽しいと思ったのだ。

青春部で過ごしてきて、あの時の選択は間違ってなかった、と薫は思っている。

「どうして……やめたんですか……? 薫さん、とても強かったのに………………」

「やめた理由…………聞きたい? しょうもない理由だよ…………? 」

「教えて……ください」

「そっか……。えっとね、護って男の子覚えてる……? 」

「宮永さん……ですよね。覚えてます。宮永さんにも何回か教えてもらいましたから」

「そういえば、そうだったね」

護の面倒見の良さは、誰とも比較出来ないものだった。

中学において、ハンドボール部は、男子よりも女子の方が数も多く、そのレベルにも雲泥の差があった。そして、活動日も女子の方が多かった。

そうだったからかもしれないが、薫や咲が一言頼めば、女子の方の部活に顔を出してくれることが多かった。

護は優しい。自分に不利益なことであったとしても、自分が手伝うことが相手にとって助けになることなら、手伝ってくれる。

常に他人のことを考えながら行動することが出来る。だから、薫は護に惹かれたのだ。

「宮永さんと一緒にいたいから、ハンドボール部をやめたってことですか………………? 」

「まぁ、ね……」

「何で………………っ、ですか………………っ!? 」

……何で、か……。

そんなの、理由は一つしか無い。ずっと護と一緒にいたいから。

薫がハンドボール部に入ったままだったら、護と一緒にいられる時間が減ってしまう。心愛と葵に、その時間を取られてしまうことになる。

結果、青春部に入ることになり、より護と二人きりになれる時間は減ってしまったかもしれない。皆護のことが好きだからのんびりはしてられないが、行動する時は基本的に青春部での行動になるから、皆の行動に気を配ることが出来る。皆と護について話が出来る。

薫はこっちの方を選んだのだ。

「護のことが好きだから」

「たったそれだけのことで………………っ、やめたんですか……っ」

「護のことを悪く言ったら怒るよ? 胡桃

くるみ

。杏先輩の妹だから、護の話聞いたりするでしょ? 」

「ですけど……………………っ!! 」

「護の良さは、胡桃にも分かるはずだよ……? 」

好きな男の子と一緒にいたいがために、部活をやめた。はたからみれば、そんなもの理由にはならないだろう。御崎市の中でもトップクラスのレベルを誇っている薫なら尚更だろう。

勿論、胡桃は自分の実力を知ってくれている。だからこそ、こう言ってくれているのだろう。

「薫さんにとって、宮永さんは………………それほど大切な存在ってことですか……? 」

「うん」

胡桃の目を見つめて、薫はそう言った。これだけは、はっきりと言える。護に対するこの想いは、護が大好きだという気持ちは、絶対に嘘ではないからだ。

「すいません…………。あたし、何も知らないのに……」

「いいのいいの、気にしないで」

二人は、再び体育館に向って足を伸ばす。

「あ、薫さん………………」

「どうしたの……? 」

「宮永さんは……、来ないんですか? 」

「誘ってないからね、来ないよ? 」

「そうですか……………………」

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