席決め
再び放課後。
俺、薫、葵、心愛の四人で青春部への部室へと向かっていた。 これからこの日常が続くのかと思うと、自然と気分はあがってくる。男とはそういうものである。
「それでね、さっきの話なんだけど……」
三人はまた、俺を放ったらかして、話をし始めた。そういう三人を見ているだけでも気分は落ち着くし、なにより楽しい。
部室の扉をノックする。
「はーい」
中から、織原部長の声が聞こえる。
中に入ると、新しい机が四つあった。おそらく部長たちが用意したのだろう。
「部長達が、俺たちの机を用意してくれたんですか……?」
「そうだよ。昼休みに葵から入部届けをもらったらからね。さっきまで準備してたんだ」
胸を張る部長を、麻枝先輩が止めた。
「別に、お前が運んだわけではないだろう。運んだのは私と、成美、渚、悠樹だ」
「いいじゃん。そんなことは気にしない。気にしない」
「俺達に言ってくれれば自分達で運んだんですけど……」
俺は、昼休みが暇だったことを思い出し、そう告げる。
「新入部員だからね。そんなことはさせられないよ。それより席だね。場所どうする?」
「どこでも良いですよ」
「そう思ってない人が、約三人いるんだけど」
部長は俺の横にいた薫達を指差して言った。
「そうみたいですね……」
俺は薫達、三人に目をやりながら。
「それならじゃんけんとかで決めるべきですよね」
「いやいや。ここは提案があるのだよ」
部長は得意気に制服のポケットから、一枚の紙を取り出した。
「あみだくじ、ですか?」
「そうそう。こうやって選んだ方が良いと思ってね」
「そうだとは思いますが……」
なにか部長の策略を感じる。
「やりましょうか…………」
俺は部長から、その紙を受け取り、八本の線の内一つを選び自分の名前を書いた。
(ん? 八本?)
「部長。これ、一本たりなくないですか?」
「ん? それでいいんだよ。私の席はあそこだから」
と言い、九つある内の一つの机を指す。
「だって、部長といえば真ん中に座るものでしょ」
部長さんは一人ずつ順番に紙を渡していく。
〇
結果。
俺を基準にして、決まった席を教えよう。
四つの机が二列に並び、その向こう側に部長の席。
ドアから見て、左側の席を俺は引き当てた。そこの左から二つ目の席。俺の右側には高坂先輩。左側は成美先輩で、その次が麻枝先輩。俺の対面に渚先輩。高坂先輩の対面に心愛。成美先輩の対面に葵。麻枝先輩の対面に薫という席順になった。
薫達三人は、自分達が引いてしまった席を恨めしそうに見ながら、席に座っていた。
俺としても、薫の隣か前の席が良かったという思いがあったが、薫とは一番遠くなってしまった。
成美先輩が耳打ちをしてきた。
「なんか不服そうな顔をしてるけど」
それに対し、俺も小声で返す。
「そんなことは無いですよ。ただ……」
「ただ?」
「いや、やっぱり言わないでおきますよ」
「つまんないな〜」
「今は教えませんよ。いづれ教えますから」
「今は? ってどういうことかな? 護君?」
成美先輩は小悪魔的な笑みを浮かべながら聞いてくる。
「いづれ、教えますから……」
と言い、俺は半ば成美先輩との会話を打ち切ったのだった。