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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜六章〜
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七夕前夜 #2

しょうがは使う時はあるが、わさびは使ったことがない。いつもとは違う味を楽しむために、わさびを使ってみても良いかもしれない。

「俺が出す。冷蔵庫の中に入ってるだろ? 」

出来ることは率先してやるべきだ。うん。

「ありがとうございます。護君」

葵の礼を背中で受けながら、俺は、冷蔵庫の中からチューブ型のしょうがとかわさびを取り出す。

もう完成である。あぁ、お腹が空いてきた。夜に素麺を食べるのは初めてだが、そんなに悪いものではないだろう。


出来た素麺、麺つゆ、二人分のお椀を乗せたお盆を、机の上に置く。

「あ、お箸…………取ってきますね」

この家に三人で暮らしている。葵、母、父の三人だ。だから、男性用の黒色等といったお箸もある。

だけど、ここは。

……私と一緒のピンク色で……。

そうすれば、少しのあいだ護とお揃いになる。距離が、もっと近付いたようなそんな気になる。

「護君。ピンク色でも良いですか? 」

「あぁ、別にどの色でも」

食べるだけだから、正直色は関係ないだろう。でも、葵はこの小さなことだとしても、葵はそうしたかったのだ。

護にピンク色のお箸を手渡し、エプロン姿のままで護の向かい側に座る。本当なら隣に座りたいものだが、二人しかいないこの状況で隣に座れば少し不自然である。だから、仕方が無いのである。

「少し…………遅くなってしまいましたね」

「だな」

もう八時になろうとしている。食べ終えて後片付けまで含めると九時くらいまではかかるかもしれない。


葵と護が二人きりで晩ご飯を食べ始めた時、悠樹と麻依はもうすでに食べ終えており、二人は麻依の部屋にいた。

「麻依ちゃん」

「どうしたの? 悠樹ちゃん……」

「付き合わせちゃって、ゴメン」

七夕パーティーはどんどんと規模が大きくなっていき、佳奈の家ですることになった。麻依は、青春部の皆との接点がそれほどあるわけではない。そこに付き合わせてしまうのは少し申し訳ない、と思ってしまう。

「良いの。楽しめると思うし」

「うん。そこは大丈夫。絶対楽しい」

「ありがと」

絶対に楽しくなる。それだけは、始まる前からでも分かることだ。だって、青春部の皆がいるし、それに付随するようにそれぞれの友達が何人かいる。絶対、楽しくないわけがないからだ。

悠樹には、別に楽しみにしていることがあった。

それは、どれだけ護の側にいることが出来るか。どれだけ護の気持ちを自分に引き込むか。



杏が一度家に戻っている間、佳奈は一人きりの時間を得ていた。

……明日……。

佳奈は考える。明日のことを。

成美が提案してきたものを自分の家で実行することになった。たくさん集まるのだから、この家を使うのが良いのは確かだ。

それに、また、護が家に来てくれる。護が家に来るのは明日で二回目になる。

最初に来てもらったのは植物園に行ったその帰りだった。

……真弓には感謝だな……。

真弓が取り計らってくれたおかげで、あの日は護を家に呼ぶことが出来た。

結局、高熱を出してしまい護に迷惑をかけることになったが、それは佳奈に対して好都合だったのかもしれない。

……だって……。

護が看病してくれたおかげで、護への想いを再確認することが出来たからだ。それまではフワフワとしていた気持ちだったが、この時に確実なものになった。佳奈はそう思っていた。

勿論、あんなに高熱を出したのは初めてだったし、父以外の男の人に看病をしてもらったのもこれが初めてだった。初めてなことが重なって、余計に護の存在を近くに感じたかったのかもしれない。

……負けられないな……。

いや、負けたくないのは全員だな、と佳奈は付け足す。

男の子を好きになったのもこれが初めて。こんな気持ちは後にも先にもないものだろうと佳奈は思っていた。護ほど好きになることが出来る男の子はいないと。

そう思うほど、佳奈の気持ちは護に傾いていた。

……どうなるか、だな……。

明日の七夕パーティー。護と二人でやるものではない。そこにはたくさんの恋敵(ライバル)がいる。そんな中で、どれだけ護の隣にいることが出来るか。それが、明日の鍵になる。

佳奈は、まだ護に自分の想いを伝えていない。だから、伝えるその時までに、護と近付いておく必要があるのだ。

……出来るのか、私に……。

絶対、絶対に、叶えたい恋だ。だが、叶えられるかなんてことは分からない。でも、叶えたい。そのための努力をしていかなければならないだろう。

……明日が始まりの日だ……。

明日、もし自分から何かアクションを起こせなかったら、今後自分にはチャンスは巡ってこないだろう。そうでなくてもチャンスは少ないのだ。

明日の七夕パーティーは、こちらの意図しない形で降ってきたチャンスだ。これを活用しないわけにはいかない。

明日からもっと頑張ろう、と佳奈は思った。自分が出来る精一杯のことを頑張ろうと。


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