雪菜の七夕事情
携帯を自分の部屋に置いていたことを思い出した雪菜は、すぐに携帯を取りに戻った。
「まーくん…………」
明らかに雪菜は不利だ。それくらいのことは分かっている。昔から知ってる間柄といっても片手で数えられるくらいしか会っていないし、それが雪菜にとって有利に働くわけではない。
本当に護のことが好きなのであれば、積極的にいかなければならない。護の周りにいる女の子は、雪菜を待ってくれたりはしないのだ。どんどん先に行ってしまう。だから、頑張って追いつかなければならない。たとえ、追いつくまでに時間がかかったとしてもだ。
「あ、電話しないと」
メールでも良いかも、とさっきは思っていたが、雪菜はその考えを改める。電話の方が声も聞けるし、その方が良い。メールより護のことを近くで感じることが出来る。
「……………………でない」
一コール、二コール、三コール、四コール。どれだけコールを重ねようとも、電話が繋がる気配は一向にない。
「ご飯………………かな」
電話に出ない、ありきたりな理由をつけて考えてみる。時間も時間だから、その可能性も考えられるということだけだ。
「はぁ………………」
七夕パーティー。以前話してくれた青春部の皆でやることになるのだろう。なら、早い内に連絡を通して、相手にも伝えてもらわなければならない。時間が経てば経つほど頼み辛くなってしまう。自分がそこに入る余地が、より無くなってしまう。
……嫌……。
それだけは嫌だ。たとえ自分を選んでもらえなかったとしても、護の中に自分の存在が無くなるのは嫌だ。ずっとで無くて良い、少しでも良い。雪菜のことを想っていて欲しい。
「あ、わ………………」
携帯がいきなり震えた。
「まーくん………………? 」
「悪いな。さっきは出れなくて」
「ううん…………。私こそゴメン。タイミングが悪かった……」
「俺が悪かった。ちょっと風呂入っててさ」
「お風呂…………? 」
普通なら疑問には思わない。しかし、今回は別だ。沙耶は、護は用事があると言っていた。なら、自分の家にいない可能性が高い。他の女の子の家にいるかもしれない。
「あ……いや、何でもない…………。で、何か用があるんじゃないのか? 」
「う、うん……。まーくん、明日…………のことなんだけど……」
「明日? どうかしたのか? 」
「沙耶さんから聞いたんだけど……、七夕だから、青春部の皆で集まったり………………するんだよね……」
「……そうだけど、姉ちゃんから聞いたのか? 」
「う、うん……」
「姉ちゃんに教えてはいないんだけど…………。それに、決まったのは数時間前だし」
「そうなの………………? 」
なら、沙耶は予想をしていたということになる。そして、その予想は見事的中している。沙耶にとって、護のことは何でもお見通し、ってことなのだろうか。
「まぁ、いっか。で、雪ちゃんも来たい? 」
「うん……。楽しそうだから」
「じゃ、掛け合ってみるよ。まぁ、普通にオッケー出してもらえると思う」
「ありがと…………」
「雪ちゃんの良いからだと遠いが、大丈夫か? 風見駅まで来てもらうことになるし」
……風見駅……。
「ん、大丈夫」
「じゃ、時間とか決まったら、連絡するわ」
「ありがと」