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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜六章〜
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Love Shower #2

「あ………………」

「おっと………………」

買うものも買ったのでレジに向かった時、レジに並んでいる人達の最後尾に、見知った人がいた。

「咲夜さん。こんばんは」

「はい、こんばんは」

咲夜さんは、いつもと同じようににっこりと微笑んでくれる。

いつもと違う点は、執事服を着ていないところだけだろうか。執事服の時はクールな印象を受けていたが、今日の咲夜さんの服装を見ていると、可愛くてキュートな印象を受ける。

「ま、護様。今日の私の服…………どうですか? 」

「何か、新鮮です…………。こういう咲夜さんを初めてみたので」

こういう質問をされた時、どういった言葉を返せば良いのか、どう返すのが良いのか、未だに分からない。まぁ、こういうのには答えが無いのだろうけど。

「まぁ、私、基本はあの服を着てますから」

「そうなんですか? 」

「はい。それほど私服を持ってるわけではないのです」

咲夜さんの私服姿を見たら、どんな服でも新鮮に感じてしまうだろう。やっぱり、最初に会った時の、あの執事服のイメージが高いから。

「護君…………。こちらの方は……? 」

ヤバい。葵のことを放ったらかして、咲夜さんと話し込んでしまっていた。少しふくれていらっしゃる葵さん。後で機嫌を取り返しておかなければ。

「あぁ。この方は、不知火咲夜さん。佳奈のメイドさんで……」

「メイド? 佳奈先輩の? 」

まぁ、当然、不思議に思うだろう。現実にメイドさんがいるなんて思ってもいなかった。でも、咲夜さんは、メイドというより執事さんではあるが。

「紹介が遅れました。佳奈お嬢様のメイドをしております、不知火咲夜と申します。以後、お見知り置きを」

「は、はい…………! えっと……、御上葵です」

「あなたが葵様でしたか。佳奈お嬢様から、よく話は聞いてます。明日の七夕パーティー。よろしくお願いしますね」

「あ、わ……。こ、こちらこそ……、お邪魔しちゃって」

葵の受け答えはいつもと変わってないようにも見えるが、少しわたわたしている。うむ、こんな葵を見るのも初めてだ。

「気にしないでください。こちらだって、楽しみですからね」

「よ、よろしくお願いします……! 」

「はい」

気が付けば、会計の順番が咲夜さんまで回ってきている。レジの係りの人はまだ新人なのか、困ったような顔でこちらを見ている。

「咲夜さん。レジ空きましたよ」

「あ……。ありがとうございます。護様」

軽く、会釈をしてくれる。

「いえいえ」




「あの方が葵様ですか…………」

先に会計を終えた咲夜は、護達に礼をして別れた。

その後、すぐに帰るのもあれだったので、車を取って、デパートの入口で、護達がデパートから出てくるのを待っている。

車のフロントガラスを開けて、入り口を見る。もう少ししたら、そこから護が出てくることだろう。

……ふむ……。

御上葵。青春部のメンバーの一人で、護のことを好きなん女の子の内の一人。それくらいのことは、咲夜も知っている。

佳奈からではなく杏から、護は何人もの女の子から告白されていることを聞いている。高校に入ってからなら葵が最初に告白をした、とも聞いている。

……佳奈お嬢様は知っているのでしょうか……。

佳奈から、そういった類の話は聞いたことがない。

勿論、佳奈も護のことが好きだろう。そうでなければ、あの熱を出した時、あそこまで護の側にいようとはしなかったはずだ。

そのことを知っていながらも、まだ告白をしていない。咲夜には、そういう風に写っていた。自分の主が。

葵と一緒にいる護は楽しそうにしているが、その顔は、佳奈と話している時の顔と同じものだった。なら、佳奈と葵は同じ立ち位置に立っているということだろう。

……いや……。

青春部の全員が、同じ立場にいるのかもしれない。告白されてようが、されていないとしても、護は選べないのかもしれない。

……護様は優しい方ですからね……。

誰かと護が付き合えば、必然的に残った人は負けることになる。だから、選べないでいるのかもしれない。

今の、皆との関係を壊したくないのかもしれない。

……当たり前のことですよね……。

実際、青春部の全員が集まって過ごしているところを見たことは無い。だから、どれだけ大切なものかは分からない。けど、護を見ていると、その関係を保っていきたいと思っているのは分かる。

佳奈も含め、それは全員が思っているだろう。だから、告白が出来なかったり、告白をしても、護はその答えを保留にしているのだろう。

少なくとも、杏はそう言っていた。この関係は壊れないと分かっていても、怖いから、告白しても返事を自分からは聞けない、と。

「さぁ、どうなるでしょう……」

咲夜はボソっと声に出してみる。

明日の七夕パーティー。護のことが好きな女の子が沢山集まることになる。

パーティー全体も面白くなりそうだが、その絶対に起こるであろう修羅場も面白くなるかもしれない。

……護様はどうするのでしょう……。




「護様。葵様。お待ちしておりました」

買い物を終えデパートを出ると、咲夜さんが待ってくれていた。黒い車の窓からひょっこりと、咲夜さんが顔を出している。

「咲夜さん……? 待っていてくれたんですか? 」

「はい。そうです」

何か聞きたいことでもあったのだろうか。まぁ、女の子と二人で買い物とかしていたわけだし、咲夜さんも気にならないわけがない。

「送ります。葵様の家まで」

「いえいえ……! そんな…………申し訳ないです」

俺より先に、葵が慌てたように声を出した。

「しかし、雨、降りそうですよ? 」

咲夜さんにつられて空を見上げてみると、どんよりとした雲が広がっていた。朝は暑い暑い言っていて、快晴だったはずなんだが。

まぁ、明日七夕だし、それに合わせるように雨が降り始めようとしているのかもしれない。何故かは知らないが、七夕の日って雨が多いし。

「すぐ帰れますし…………、そんな……咲夜さんの手を煩わせるわけには…………」

「雨に降られて、明日参加出来なくなったりされたら、私だって困ります」

葵、咲夜さんのどちらとも食い下がっている。どちらも、譲ろうとはしない。

「葵、ここはありがたく載せてもらおうぜ」

「護君……」

そうこうしている内にも段々と雨が降りそうになってきていて、俺達の脇を通り過ぎて行く人達は心持ち急いでいるようにも見える。

「それじゃ…………お願いしても良いですか? 咲夜さん」

「はい」


「ほら、降ってきました」

咲夜さんの車に乗り込んですぐ、雨が降ってきた。後少しもすれば葵の家に到着するが、すでに雨は土砂降りだ。咲夜さんに乗っていなかったら、今頃びしょびしょに濡れて、咲夜さんの言う通り明日の七夕パーティーに参加出来なく出来なくなっていたかもしれない。結構楽しみにしているし、咲夜さんには感謝感謝である。

「本当にありがとうございます」

葵は、さっきから何度も咲夜さんに礼を言っている。

「いえ。こちら側としましても、葵様と話すことが出来て嬉しいですから」

「ありがとうございます。それにしても…………、様付けで呼ばれるのは…………少しこそばゆいです」

うん。俺も最初はそう思っていた。今は慣れてしまっているが。

「皆さん、そう仰いますね。護様はもう慣れました? 」

「えぇ」

「あ、そこ右です」

「分かりました」

そろそろ葵の家に着く。咲夜さんの車に乗っていられる時間も後少しだ。



「ありがとうございました。咲夜さん」

車から降りると、俺と葵は、二人で咲夜さんに頭を下げた。

「いえ、早く家の中に入ってください。濡れますから」

咲夜さんの言う通り、こうして礼をしている間にも、俺達の身体は雨によって濡らされている。

葵の家に家の中に入るにはこの門の向こうに行かなくてはならないし、玄関からじゃお礼の言葉が届かないと思ったから、濡れることを構わずにこうしているのだ。

「本当に、ありがとうございます。さ、護君。入りますよ。これ以上濡れたら、咲夜さんに送ってもらった意味が無くなっちゃいますから」

「そうだな。それでは、また明日です。咲夜さん」

「はい。楽しみにお待ちしておりますね」

フロントガラスが閉じられエンジンがかかった音がすると、俺達はすくに家の中に入った。


「結局……濡れましたね…………」

「悪いな」

「いえ……。謝らないでください」

雨に打たれていたのはものの数十秒くらいの間だったが、俺達の身体はかなりびしょびしょになっていた。車に乗っている間に雨はずっと強くなっていたし、まぁ、これくらいは仕方ないと考えられる。

「タ、タオル……取ってきますから…………、護君はここで待っていてください」

「分かった」

急ぎ足で、葵がこの場から離れて行く。

「結構濡れたな…………」

靴の中にまで雨が染み込んでいる。というか、本当に身体のあちこちが雨で濡れている。それは、葵だって同じだ。

こうして葵がタオルを取ってきてくれるのを待っている間にも、俺が今立っている玄関には水が滴り落ちている。後で掃除とかした方が良いだろう。

「護君……! 持ってました」

「サンキュ」

葵は、律儀にもタオルを手渡してくれる。

……うーむ……。

以前にも思ったことだが、女の子が雨に濡れてずぶ濡れになっている姿というのは、結構目に毒である。だって雨で濡れて透けてるわけだし、意図しなくても、あんなものやこんなものが目に入ってしまう。

「どうかしましたか…………? 護君」

「い、いや…………。なんでも無い」

「そうですか……? 」

危ない危ない。気付かれるところだった。いや、自分の事だからすでに気付いているかもしれない。

「護君」

「どうした? 」

「先にお風呂に入っちゃってください」

「いや、葵が先に入れよ」

「遠慮しないでください。これくらいじゃ、私は風邪なんて引きませんから」

「俺だって引かねぇよ。ここはお前の家なんだからさ。葵が先だ」

「ですが…………、護君びしょびしょですし」

「それは葵もだ」

葵は引き下がろうとしない。

「どうしても先に入ってくれないんですか……? 」

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