Love Shower #1
「それじゃ、私達はそろそろ帰りましょうか。ね? ララ」
「だね」
もう五時くらいになったのだろう。外を見てる限りではそんな時間になったとは思えないが、部屋に飾られている時計を見れば、そうなっていることがすぐに分かる。
……そろそろ、だね……。
まず、今回の目標は達成出来た。告白も出来たし、それ以上のことも出来た。なら、今日、やり残したことは何も無い。
……バレてないしね……。
葵とランが帰ってきてから護から離れようと思っていたのだが、護の携帯が鳴ったために、二人が帰ってくるちょっと前に護と離れることになってしまった。
誰からのメールかなんてことの言及はしなかったが、明日にある七夕パーティーに関するメールだってことくらい、すぐに分かった。
「また明日ね。護、葵」
「おぅ。また」
「はい、また明日です」
「ありがとうございました。葵」
「いえ。こっちも楽しかったですし。また、一緒にお菓子作りましょう」
「はい」
少々帰るのは名残惜しいが、また明日会える。なら、その時まで、楽しみはとっておくほうが良い。
……楽しみ……。
ララとランが帰ってから数十分後。俺達も、勉強をやめることにした。今日は結構勉強したし、まだやり足りない部分は、明日にやれば良い。明日も葵と勉強出来るのだから。
……この後はどうしましょうか……。
ララとランが帰ってくれたから、やっと護と二人きりになることが出来た。ずっと二人きりでいるはずだったが、思はぬ事情でそれが出来なかった。
でも、この後は、明日の七夕パーティーの時間になるまで、たっぷりと護といれる時間がある。
さっき自分が勉強をやめようと言ったから、護は、すでに鞄の中に勉強道具を詰めはじめている。
そんなに大きくない鞄であるが、今日の夜と明日に着る服くらいは入っているだろう。
自分から、護に、家に泊まって、と言ってはいないが、二日間一緒に勉強しようと言ってあるから、そのつもりで来てくれているはずだ。
「護君」
「どうした? 」
「晩ご飯……、どうしますか……? 」
作るということになるのなら、時間的にそろそろ作り始めてもいい頃合いだ。
「二人で作る……? それともどこかで食べる? 」
「作るなら、恐らく買い物に行かないとダメかもしれません」
「葵はどっちが良い? 俺は作っても良いと思ってる。その方が楽しそうだし」
「なら、そうしましょう」
護がそう言ってくれるのなら、葵はそれに従うまでてある。絶対に楽しくなるだろうから。
車を出した咲夜は、何と無く、買い物をするためだけに御崎駅に来ていた。近くにも大きめのスーパーはある。だけど、買いたいものが無い、となってしまった時困るから、わざわざ、ここまで遠出をしてきたのだ。
スーパーの屋上にある駐車場に少しばかり目立つ黒い車を止めて、咲夜は、御崎デパートの中に入った。
咲夜が屋上からデパート内に入った時、一階の入り口から、葵と護もこの中に入って行った。
「…………凄いですね」
「あぁ、そうだな……」
デパート内に入るや否や、葵は感嘆の声をあげた。俺は、その葵の言葉に同意する。
葵が少しばかりは驚いてるのも無理もない。
明日が七夕だからであろう。デパート内は、七夕一色であった。一応、今俺達がいるのは食品売り場だが、勿論、上の階もあるわけで、服とかも売ってるだろうし、もしかしたら、着物とかも売ってるかもしれない。
「七夕ですからね。やっぱりこうなってると思ってました」
「へぇ。そうなんだ…………」
「はい。このデパートは、毎年この時はこういう催しをするんです」
「それにしては、かなり驚いていたようだけど……? 」
「あ、お母さんとかから聞いたことがあるだけで、七夕の時期にここに来るの始めてなんです」
「なるほど…………」
喋りながら歩いていたので、レジを通り過ぎた時に、葵は何気なしにカゴを手にとってくれた。このカゴには、今から食材が入れられていくのだろう。そんなに重くならないとは思うが。
「カゴは俺が持つわ」
「ありがとうございます」
葵の微笑みを受けてから、葵からカゴを受け取る。そして、葵の隣に並ぶ。
「どんなの作る? 」
案外隣に並んで歩くのは他の人の邪魔になりやすいようで、葵との距離は、肩と肩がくっつきそうになるほどに、近づいていた。
「七夕ですから、やっぱり思い付くのは、素麺ですね」
「素麺か……」
「でも、夕食を作るわけですから、素麺じゃ、物足りないかもしれません」
「そうかもな」
素麺に合う献立があれば良いのだが、俺はあいにくそんなものは知らない。あんまり気にしたことがないからだ。
「護君は、里芋………………好きですか? 」
「里芋……? 」
「はい。里芋です。昨日、少し調べていたのですが、里芋の煮付けとかも合いそうかも、と思ったんです」
なるほど。食べてみないと合うかどうかなんて分からないが、葵の話を聞く限りは大丈夫だと思う。なんだって、葵の手料理なわけだし。
「里芋は……、嫌いですか………………? 」
俺の顔をのぞきこむようにして、葵が聞いてくる。
「あ、いや……。そうじゃないよ。食べてみたいなぁ、って思ったんだ。葵が作る里芋の煮付けをさ」
……私の作った……。
話の流れ的に、護は「里芋の煮付け」と限定していたが、葵が作った料理を食べたい、と考えることも出来る。
「ありがとうございます。護君。なら、それも献立にいれましょう」
「おぅよ」
どんな晩ご飯にするか、大方決まってきた。
勿論、ここのデパートについては護より葵の方が知っているから、先導するように、護の隣を歩く。
護が楽しみにしてくれているのなら、里芋の煮付けも頑張って美味しく作りたい。
でも、メインは素麺になる。ただの素麺を食べるわけにはいかない。それなりに、工夫を加えないといけない。その方が、護に楽しんでもらえるだろうから。
……どんな感じにしましょう……。
元々、素麺はさっぱりとしているものだ。だから、工夫を凝らすのも、さっぱり系がいいだろう。夏だから、重くなるものは少し避けたい。
「あ、護君。そこの梅干しを取ってもらえませんか? 」
「お、分かった」
葵の隣から離れた護は梅干しをカゴの中に入れると、すぐに隣に戻ってきてくれる。
「梅干し、何に使うんだ…………? 」
「素麺に使います」
「素麺に……? 梅干しをか……? 」
「はい」
「そっか……」
「楽しみにしていてくださいね。美味しくしてみせますから」
「うん。楽しみにしてる」
……おや……?
わざわざ遠出をしてきたデパートで、咲夜は、見知った男の子と、知らない女の子の姿を発見した。勿論、見知った男の子というのは、護のことだ。
……護様と…………誰でしょうか……。
護と仲睦まじく話をしているところから、青春部のメンバーだというのとは分かる。
佳奈から、明日のために青春部全員の名前と、ほかに参加してくれる人の名前は聞いたし、覚えた。だけど、名前しか覚えていないから、一回姿を見て確認するまで、誰が誰なのかを判別することは出来ない。
……後で声をかけましょうか……。
護達も買い物をしている。自分も買い物をしている。だから、必然的に、後でもう一回出会う可能性が高い。なら、今ここで声をかける必要性はない。
……二人の邪魔をするわけにもいきませんし……。
買いたいものが今護達がいるほうにあるのだが、咲夜は、くるっと身を翻した。
あの二人の間に割って入るほど、咲夜は無神経ではない。
……さて、先に買えるものを買っておきましょうか……。




