時雨と氷雨の七夕事情
「しぃ」
悠樹がいない高坂家。自分達の部屋ではなく悠樹の部屋で、時雨と氷雨は勉強していた。
「どうしたの? ひぃ姉」
勿論、時雨と氷雨は双子である。しかし、氷雨の方が先に産まれているから、時雨は、ひぃ姉、と呼ぶ。
「晩ご飯どうする? 」
……そっか……。
「今日、ゆぅ姉帰ってこないんだっけ? 」
「うん。だから、私達で晩ご飯作らないと。それに買い物も」
「もう行く…………? 」
部屋に飾られている時計を見ると、時計の針は四時を指していた。買い物に行かないといけないのなら、時間的にもそろそろ行動を始めないといけない。
「その方が良いかも」
やっていた勉強をストップして、買い物をする準備を始める。
……何作ろうかな……。
部屋を涼しくしてくれていたクーラーの電源を落とし、氷雨は、時雨に続くように悠樹の部屋を出た。
……護さんと勉強してるのかな……。
朝、家を出る時、悠樹はどこに出かけるのは教えてくれなかった。教えてくれたのは、今日は帰ってこれないということと、勉強してくる。この二点だけだった。
……やっぱり違うか……。
護さんとは勉強していない、と氷雨は考える。
氷雨は、悠樹が護のことを好きだということを知っている。護のことを話す時、悠樹の顔がいつもより楽しそうに、嬉しそうにしているということを知っている。
だから違うと考える。本当に護と勉強するために家を出たのなら、もっと楽しそうな顔をしていたはずだ。
……まぁ、でも……。
明日は七夕だ。なら、悠樹は確実に護と過ごそうとするだろう。
「ひぃ姉? 何ボーッとしてるの? 」
「あ、ごめんごめん…………」
エコバッグと左手に、リビングに置いてあったと思われる母の財布を持った時雨が、目の前に立って聞いてくる。
「早く行こ? 」
「うん」
七夕に護と会う。なら、その場には、悠樹の他に青春部の皆もいることになるのだろう。
……ゆぅ姉の出番はあるのかな……。
氷雨は、護のことを好きな女の子が多いことを知っている。だから、そう思ってしまう。
七夕はとても特別な日だ。なら、他の女の子も行動を起こしてくるはずだ。護の隣にいるためにはどうするべきか。悠樹も含め、そう考えているはずなのだ。
なら、そこは壮絶な修羅場になる可能性がある。
だからこそ、そうなってしまった時、悠樹に出番はあるのか、心配になってしまうのだ。
でも。
……頑張って、ゆぅ姉……。
氷雨には、その恋が叶うように応援すること以外、することはないのだ。