真弓の七夕事情
心愛と薫が勉強している御崎市の図書館。その図書館に、同じ高校の別の女の子がいた。
「ふぇ……………………」
その少女は、溜まった疲れをため息として、ドッと吐き出した。
狩野真弓は、この二人と同じように勉強をしていた。
本当なら、真弓はこのような場所で勉強をするつもりは無かった。
何となく思い立ったので、護に勉強を教えつつ自分も勉強しよう、とそう思っていたのだ。
だけど、護の家に行ったら、護はいなかった。護の母が言うには、友達の家で勉強していて、今日は帰ってこないというわけだった。帰らない。それは、その友達の家に泊まるということを意味する。
……誰の家に泊まってるのかなぁ……。
護の母は、友達と言っていたが、青春部の誰かの家に泊まることになるのだろう。女の子と男の子が一つ屋根の下。母がそれに反対をしなかったということは、そうなっていることを知らなかったわけだ。護が女の子の家に泊まりに行く、それを知っていたら、絶対に止めてたはずだ。
「どうしよっかなぁ………………」
携帯を開けた真弓は、護にメールしようかどうかを迷っている。
勿論、送るメールの内容は明日のことについてだ。
七夕。一年に一回しか訪れない。特別な日だ。
護と二人だけで過ごしたいわけてはない。ただ、真弓は、青春部の皆と楽しそうにしている護を見ていたいのだ。
そのためには、自分から青春部の輪に入って行かなければならない。少しばかり、皆の邪魔になることをしないといけない。
それをすることについて、憚られるのだ。
……まぁ……。
でも、その場に行きたい。その気持ちはある。なら、その気持ちを優先させよう。ちょっとくらいのことなら、青春部の皆も気にしないと思う。
護に七夕のことについてのメールを送ってから数分後。ようやくメールが返ってきた。返ってくるまでの間勉強しようと思っていたが、案外楽しみにしている自分がいて、勉強に身が入らなかった。
「どれどれ…………」
護からのメールには、佳奈の家で七夕パーティーをするということが書かれていた。
「なるほど…………」
佳奈の家でするということは、それなりの人数が集まることになるのだろう。十人くらいは集まるのだろうか。
真弓は、すぐさま、護に参加の意を示したメールを送った。
今度はすぐにメールが返ってきた。
"佳奈に伝えておきます" と、メールには書かれていた。佳奈の賛成が得られたら、自分も参加出来ることになる。
……参加確定だね……。
たとえ人数が多かろうと、佳奈は真弓の頼みを断らない。真弓は、そう思っていた。
「楽しみだねぇ………」
ここが図書館であることを考慮しつつ、真弓は小さい声で呟いた。