遥の七夕事情
佳奈と杏が七夕パーティーの準備を着々と進めていたころ、生徒会副会長で図書委員長でもある黛 遥は、学校にいた。テスト前だから、学校で勉強しようというわけだ。
本来、休日には開館していない図書室だが、遥が開けて欲しいと言えば開く。静かな場所で勉強がしたかったのだ。
「にゃ………………!? 」
遥は突然の出来事に驚きの声をあげた。スカートのポケットに入れていた携帯が、急に震え出したからだ。
勉強を一時中断し、ポケットから携帯を取り出して、急ぎ足で図書室から出た。図書室での携帯の使用は禁止されている。図書委員長である遥が、それを破るわけにもいけない。
携帯を開く。
……ん……?
知らない番号からの電話だった。でも、出ないわけにはいかない。電話をして来た側は、自分に用があってかけてきてるのだから。
「もしもし………………? 」
「あ、遥? 私、私。杏だけど」
「杏さん……? あたしの番号をどこで…………? 」
電話番号を教えてはいない。
「佳奈から教えてもらってね。勉強してた? 」
「あ、はい」
「なら、邪魔しちゃったかな? 」
「いえいえ。そんなことはないです。休憩したいと思ってましたから……」
これは本音である。昼頃にここに来てずっと勉強していたから、疲れが少し溜まっていたのだ。
「あるがと。で、話があるんだけど…………」
「話ですか………………? 」
「そそ。明日って、七夕じゃん? 」
「あぁ。そうでしたね……」
すっかり忘れていた。テストのことばかりに気を取られていたからであろうか。
「その感じじゃ……、忘れてた? 」
「あはは、忘れてました……。その七夕が、どうしたんですか? 」
「青春部の皆で七夕パーティーをしようと思ってね。遥もどうかなぁ、って」
「パーティーですか…………」
杏は、「青春部の皆で」と言った。なら、そこには、確実に護がいることになる。
しばらくの間、護と話す機会が無かった。あの時感じることが出来た優しさを、もう一回感じたい。遥はそう思っていた。
「護もいるし、来るでしょ? 」
見透かされている。
……杏さんは知ってるし……。
「行きたいですけど、どこでやるんですか? 結構、多い人数になりますよね…………? 」
多い人数になるなら、護の隣に自分が入る隙がない。そうなるなら、あまり意味が無いのかもしれない。
「だね。遥を入れると、十二人」
「そんなにですか…………」
でも、護の隣にいられないとしても、護の存在を感じられるのなら、そこに行く意味はあるのかもしれない。
「だから、集合は佳奈の家になるね」
「なるほど…………」
遥自身、佳奈の家に行ったことはない。でも、途轍もなく広いということは知っている。だからこその、納得だ。
「どう? 来る? 」
「はい。お邪魔でなければ」