七夕に想いを #4
「これで、全員だな」
「そうだね」
佳奈と杏。二人で手分けして、青春部全員に七夕パーティーをしようということを伝えた。テスト前でもあるが、全員が参加してくれることだろう、と佳奈は思っていた。
……そうなれば……。
問題は、どこでパーティーをするか。青春部全員で八人。
「葵から、友達誘って良いですか? だって」
「何人だ? 」
「二人みたいだね」
これで十人。
「あ、後。悠樹も一人友達良い? って」
十一人。
「遥も誘うか? 」
「そうだねぇ。最近は喋って無かったし。良いかも」
「分かった」
十二人。
これほどの人数になった。なら。
「ここの家ですることになるな」
「そうだね。咲夜さんに伝えておいて」
「了解した」
「咲夜? 時間あるか? 」
自分の部屋の中でぼーっとしていた咲夜に、扉の外からの佳奈の声が届いた。
「佳奈お嬢様……? 」
すぐに姿勢を正し、部屋の中に佳奈を招きいれる。
「どうかしましたか? 」
「明日、七夕パーティーをしようと思ってるんだが……、この家でやっても良いか? 」
「パーティー? 結局、するんですね。分かりました」
「結局………………? 」
……あ、失言です……。
「聞いていたんです。杏様と佳奈お嬢様の話を」
「なるほどな」
「ごめんなさい。聞き耳を立ててしまって」
「気にするな。で、大丈夫か? 」
「はい。大丈夫です」
これで、予定も埋まった。この家を使うということは、青春部の全員が集まることになるのだろう。
そう思うだけで、絶対楽しくなるだろうと思う。
「私も…………参加しても良いですか? 」
「無論だ」
「ありがとうございます」
七夕パーティーは明日。これから明日のための準備をしよう。
「夜だけ、ですか……? 」
「あぁ、そうなるな」
「お食事はどうなさいますか? 」
「まぁ、バーベキューとかで良いと思うな。人数多いし」
「分かりました」
多人数でのバーベキューなんて、初めて。楽しみすぎて、無意識のうちに顔が綻んでしまう。それほど、佳奈の話を聞いて楽しみにしている。
どれほど楽しく出来るか。バーベキューをするといっても、自分の腕にかかっている部分もある。
……頑張りましょうか……。
また、佳奈からメールが来た。後でどこでやるか場所が決まったら連絡するとメールに書いてあったから、それについてのメールだろう。
「佳奈の家か…………」
まぁ、こうなるだろうとは思っていた。青春部だけでも八人。そしてこの場にいるララとラン。悠樹の友達である麻依さんも含めると十一人になる。
この大人数でやるというなら、やはり佳奈の家しか無いだろう。咲夜さんも何かしら手伝ってくれるだろうから、楽しくなること間違い無しだ。
本当なら、葵と二人だけでいるはずだった今日と明日。当初の予定とは大幅にズレてしまっている。
葵が賛同していることではあるが、後で、何か埋め合わせとかしておいたほうが良いかもしれない。
……分かりません……。
葵の誘いを了承したランであったが、腑に落ちないところがいくつかあった。
葵は護と二人でいたいはずだ。それなのに、その思いとは逆の行動を取っている。
今日、自分達を家に招いてくれたのは、明日の七夕で取り返しが付くからだと思っていた。
だが、葵は、大人数が集まる七夕パーティーに参加の意を示した。そうなれば、葵は、ますます護と二人きりになることが出来なくなる。
「葵」
「どうしましたか? ラン」
「お手洗いに行きたいのですが…………、場所、教えてもらって良いですか? 」
これは口実だ。葵の真意を確かめる必要がある。
「分かりました」
スッと葵が立ち上がったのを見て、ランもそれに倣った。
「じゃ、ついてきてください」
「はい」
……お……?
ララは護に気づかれないように、ニヤリと笑みを浮かべた。
自分が意図せずとも、護と二人きりになることが出来た。
……五分くらいは戻ってこないよね……。
ランはお手洗いに行きたいと言って、葵を連れ出した。長くなろうとも、それくらいの時間で戻ってくるだろう。もし、ランがトイレではなく、別の理由で嘘をついて葵と一緒に部屋から出た、というなら違ってくるが。
……まぁ、そんなことは置いといて……。
今、この部屋には自分と護の二人しかいない。二人きりになるチャンスはしばらくの間無いと思っていなかったから、ラッキー、とララは考える。
……さてと……。
恋の勝負の土俵に上がろうとするなら、ここで一発、何かをする必要がある。
……どうすっかなぁ……。
自分の利点を生かす攻撃が必要だ。そうしないと、護の心を捕まえることは出来ない。
ここでしくじることは許されない。皆に追いつき追い越すことが、最終目標なのだ。こんなところで躓いていたら、先のことが心配になる。
……護……。
「ねぇ、護」
「ん? 何か教えて欲しいとこでもあるのか? 」
「まぁ、そういうことかな……」
そうララが言うと、護はシャープペンシルを机の上に置いて、自分の右側に来てくれる。
……護の方から……。
自分から護に近づいていこうと思っていたが、護から来てくれた。
「どこが分からないんだ? 」
かなり近い距離から、護はそう聞いてくる。
護の顔がすぐ近くにある。意識すればするほど、他の人から護を奪いたくなってくる。
「えっとね………………」
教えて欲しいのは、勉強のことではない。教えて欲しいことは別にあるのだ。
「僕にさ………………、恋ってものを教えてよ」
「さてと………………」
一階に降りた時、前を歩いていた葵が急に足を止めた。
「…………葵? 」
「何か、私に聞きたいことがあるんじゃないんですか? 」
……気付かれてたんですね……。
「はい。護さんのことです……」
「そうだろうと思ってました」
「葵は……護さんのことが好きなんですよね……? 」
「えぇ」
「なら……っ! どうして……わざと自分から護さんといれる時間を減らすようなことをするんですか…………? 」
柄にも無く、大きい声を出してしまった。
「私には、葵がそうする理由が分かりません…………」
もし、自分が葵の立場なら、護のことが好きなら、そういうことはしない。わざわざ護と二人でいれる時間を減らしたくないからだ。他の人に護を取られたくないと思うらだ。
「どうして………………ですか……。私にもよく分かりません」
「…………え? 」
「護君とはずっと一緒にいたいです。だけど、色々あるんですっ! 勿論、青春部の皆は、それぞれが護君のことを好きだということを知っています」
「皆といる方が自分の素を出せる、ということですか? 」
「そうかもしれません」
「分かりました。私は応援してますから、頑張ってください」
「ありがとうございます。あ、ラン」
「はい? 」
「ランは、護君のこと好きにはならないですよね? 」
「当たり前じゃないですか。皆の想いを知ってますから、私は、好きにはなりません」
邪魔はしたくない。だから、ランは、護のことが好きな人全員を応援する。それが、自分が出来ることだから。
……あ、ララはどうしてるんでしょうか……。
今気付いたが、自分と葵がここにいるということは、護とララは二人きりになっているわけだ。
知らず知らずの内に、ララにチャンスをあたえていたのだ。
……どうしてるんでしょうか……。
まだ部屋を出てからそれほど時間は経っていない。もう少し、時間を潰しても良いかもしれないが、この場で時間を浪費させる手立てがない。
「戻りましょうか」
「わ、分かりました」
ドン、と。
ララは、護の返答を聞く前に護を押し倒していた。
「ラ、ララ………………っ!? 」
ララは、護の上に覆いかぶさる。これでもか、というほどに、ララは自身の身体を護に押し付ける。
護の速くなった鼓動が、ララの耳朶に直接響いてくる。
無論、くっついているからか、お互いの体温はどんどん高くなっていた。
ララは、自分の顔が真っ赤になっていることを実感していた。これからしようとしていることも思えば、そうなるのも自然なのだろうか。
「ねぇ…………。護…………」
顔をあげて護の目を見つめたララは、甘い声で護の名を呼んだ。
ただただ、護は驚いたような表情をしている。いきなり女の子から押し倒されたのだ。いくら護といえども、そんな経験は無いだろう。ララが初めて、ということになる。
「まもるぅ…………。僕ね………………」
ゆっくりと、ララは護ににじり寄る。ララと護るの身長は十センチほどしか変わらないから、すぐに、ララは護の顔を視界の真ん中に捉えた。
「僕さぁ……、護のこと大好きなんだ………………。知ってた……? 」
そう口にしながら、ララは、護の唇を自分の唇で塞いだ。
「ん………………っ!? 」
護の顔に浮かんでいた驚きの色が、さっきよりも濃くなる。
「んふ……、ちゅ………………ん…………む…………ん………………」
ララは護を求める。ただ、ララはそれだけのことがしたかった。
「…………れる…………ちゅっ………はぁ…………むちゅ……………っちゅ……」
護の舌を探し当て、ララは、それに自身の舌を絡める。
護の温かさを感じられる。護の優しさを感じられる。
……護、大好きだよぉ……。
「はぁはぁはぁ………………」
「………………ララ」
時間にしては数十秒ほどだっただろうか。ララには、もっと短い時間に感じられた。
「…………護のこと、大好き……。青春部の皆とか………………その人達の気持ちもしってる…………。だけど、そこに僕を加えてほしい…………。僕も……、護のことが大好きだってことを知って欲しい…………。大好きだから……、僕のことも考えてほしい………………」
もう一回、ララは護にキスをする。
「……んちゆ………………ふちゅ…………ん………………」
今度はすぐに、ララは護から離れた。
……まだ帰ってこない、か……。
もう一回、護に抱きつく。まだ戻ってこないのなら、自分の時間はまだある。足音が聞こえてくるまでが、自分に与えられた時間だ。
「僕、ほんとに、護のこと大好き………………。大好きだから…………。これで、皆と…………同じ場所に立てたかな…………」
そうなれば、勝ち目はある。皆から、護を奪い取ることが出来る。それが出来れば良いのだ。
何故なら、これほどの幸せはないだろうから。