七夕に想いを #3
……ほぅ、成美から誘ってきたか……。
皆を誘いたい気持ちはあったものの、誘わなかった。と杏は言っていた。だから、佳奈は、杏が自分から行動を起こすことは無いと思っていた。
しかし。
「どうしよっか…………? 」
成美からのメールを見て、杏は迷っている。
ここで杏が成美の案に乗るなら、他の青春部の皆にも声をかけることになるのだろう。必然的に、そこに護もいることになる。
「私は賛成だ」
「そっか…………。なら、皆も誘うことになるね……」
「そうだろう。私達だけで楽しんでもあれだしな」
「だね。じゃ………………」
迷ってる風に見えていたが、杏はすぐに成美に送るメールを打っている。ということは、それほど迷っていなかったのだろうか。
佳奈は、杏のことをずっと見てきて思ったことが一つある。
自分が見てきた限りでは、杏は護と出会ってから、青春部単位で動く時、護を基準として物事を考えているような気がしてならないのだ。
無論、護のことが好きだから、そういう行動をしているのであろう。杏を見ていると、そうとしか思えない時がたまにある。
佳奈も、護のことが好きだ。杏の気持ちを、他の皆の想いを知っているが、この想いを変えることは出来ない。
看病をしてもらった時。少し傾きかけていた想いは、完全にその時に惹きこまれることになつた。咲夜も一緒に、看病をしてくれた。
……杏が頑張るなら、私も頑張らないとな……。
「どれどれぇ………………」
杏からのメールを受け取った成美は、またフローリングにゴロゴロとしながら、そのメールを確認した。
「杏先輩、何て……? 」
「七夕パーティー、賛成だって」
杏からのメールには、賛成の意が記されていた。
「やるなら全員で、だって」
「そうだよね。皆誘ったほうが面白いしね。私達で、皆に連絡する? 」
「いや、杏先輩がやってくれるんだって」
「そうなの? 」
「うん。じゃ、連絡来るの待ってよっか」
「…………わ」
「メール………………」
図書館で勉強している心愛と薫の携帯が同時に震えた。
マナーモードではあったが、二人は周りをキョロキョロと見渡しながら、携帯を開いた。
「七夕パーティー……? 」
「薫にも、そのメールがきたの? 」
「うん。杏先輩から。心愛も? 」
「あたしは佳奈先輩から。二人は一緒にいるみたい」
「で、心愛はどうする? 」
「行くに決まってるじゃない。護も来るわけでしょ? 」
「まぁね」
「もちろん、テスト前だけど、薫も行くでしょ? 」
「当たり前」
心愛と薫の思いは、同じなようだ。
ランと俺がつくったほんのり甘くてしょっぱいラスク。ララと葵が作った抹茶クッキーを食べ終えた後。二階ではなく、一階で勉強しようということになった。
クーラーで涼むのも良いが、一階の和室で自然の風で涼しむのも良いんじゃない。そんなランの案でこうすることになったのだ。
せっせと荷物を二階から一階におろし、勉強に勤しむ。
少しの休憩を挟みお腹も少し満たされたから、これでまた勉強に集中することになるのだが、さっきのお菓子作りで、俺の勉強する気は、どこかにふらふらと旅立ってしまったようだ。
所謂、面倒くさいわけだ。
そんな俺とは裏腹に、ララとラン、葵の三人は、勉強に集中しているようだ。
勿論、葵とランは勉強が出来るイメージがあるが、ランには悪いがそんなイメージはない。
ララは、俺が貸した化学の問題を頑張って解いている。苦手だと言っていたが、ララを見ている限り、そんな印象はあまり受けない。
「護。ルーズリーフ、もう一枚僕にちょうだい」
「分かった」
問題を解いたルーズリーフを俺にひらひらと見せながら、ララはそう言う。赤色で直しているところがあるが、それはほんのちょっとだけなので、大方理解出来ているのだろう。俺かもしくは葵が教えなくても大丈夫かもしれない。
「ほい」
鞄の中から一枚ルーズリーフを取り出し、ララに手渡す。
「ありがと」
ララも頑張っているのだから、俺だってやらないといけない。ぼーっとしてる場合ではない。見ている限りララの集中力は凄いものがあるし、もしかしたら抜かされる可能性だってある。苦手ではないが、俺だってほれほど出来るわけではない。
「護」
また、ララが俺の名前を呼んでくる。
「何だ……? 」
「携帯鳴ってるよ」
「マジか」
マナーモードにしていたから聞こえていなかったのだろうか。鞄の中から携帯を出してみると、ララの言う通り、メールがきていた。佳奈からである。
「私もメールきました。杏先輩から」
同じようなタイミングで、葵の元にもメールが届いた。
……七夕パーティー……?
佳奈からのメールには、そのことが書かれていた。明日七夕だから、皆で集まって何かしないか。とのことだった。
しかし、葵との約束がある。それに伴い悠樹との約束もある。
こればかりは俺だけでは決められない。
「七夕パーティーするみたいですね。護君」
……どうして……。
どうして、こんなタイミングで杏からの誘いが来るのか。何もする気が無いのだと思っていた杏から誘いが来るのか。それが、葵には理解出来なかった。
「葵にもそのメールが来てるのか? 」
護にそのことを言ってみると、少し驚いた表情をしながら、自分にも同じ内容のメールが来たことを教えてくれる。
「はい。そうです」
元々護と二人だけで一緒にいるはずだったのに、もうその予定は崩れ去ってしまっている。悠樹とその友達との四人だけで七夕を過ごすのであれば、問題は少ないだろう。ちょっと頑張れば、その中でも二人きりになることが出来ると思っていた。
しかし、杏からのメールによると、青春部の皆でやるらしい。
そうなれば、護と二人きりになれる確率は極端に少なくなる。皆が護と二人きりになろうとするだろうから、余計にそういうことになるだろう。
そうなると、困ってしまう。
この勉強会、そして明日に迫る七夕。本来ならずっと護といるはずだったのだ。
……はぁ……。
誰にも、護といようとしていることを悟られないようにしようと思っていた。逆に、それが駄目だったのかもしれない。勉強をするだけで、予定がないと思われていたのかもしれない。
……はぁ……。
再度、心の中だけでため息をついた。
この杏からの頼みを断るわけにはいかない。断ってしまえば、護もそして悠樹も断ることになるのだから、不審に思われる。
……仕方ないです……。
「護君はどうしますか? 私はこの案に賛成ですけど」
「まぁ、葵がそう言うなら。皆でやったほうが、より楽しくなるかもしれないからな」
「はい。じゃ、そうメールしておきましょう」
携帯を開いて、杏に参加の意を知らせようとすると、ララが声をかけてきた。ララの方を見ることなく、メールを打ちながら、その声に耳を傾ける。
「七夕パーティーするの? 」
「はい。そうですね」
「青春部の皆で…………? 」
「はい」
「そっか………………」
ララは参加したいと思っているのだろう。そんな思いがヒシヒシと伝わってくる。
「参加しますか……? 」
「え……………………? 」
「七夕パーティー。参加したいんじゃないんですか? 」
「良いの…………? 」
「そっちの方が、楽しくなると思いますから。ランも来ますよね? 」
「私も行っていい、と言うのなら、参加したいです」
「分かりました。そう連絡しておきます」
「ありがとうございます。葵」
「ありがとね。葵」
無論、麻依と二人で静かに勉強している悠樹のもとにも、メールが届いていた。
「悠樹ちゃん。メール来てる……」
「この問題解いてから、見る」
「分かった」
誰からメールが来たのか気になっていたが、後ちょっとで今やっている数学の問題が解き終わりそうなので、そっちを先に片付けることにする。
「…………終わった」
気になって集中出来そうにも無かったので、サッサと問題を解いて、自分のふでばこの隣に置いていた携帯を手に取る。
……杏先輩から……。
杏からのメール内容を確認しようとすると、もう一通メールが届いた。今度は、葵からだ。
……?……。
同じようなタイミングでやってきたメール。メールを開かなくても、悠樹は、どちらからも似たようなメールが来ているのだろう、と思っていた。
「やっぱり………………」
悠樹の予想は的中した。杏からのメールも、葵からのメールも、明日の七夕に関するものだった。
……七夕パーティー……。
一緒に勉強している麻依と、そして葵と護との四人でしようと思っていた七夕パーティー。葵がそのことについて承諾しているということは、悠樹を了解の意を示さないとならない。
……人数が増える……。
本当なら、護と二人だけで楽しみたい。そんな思いが、悠樹の中にはあった。四人だけであるなら、二人きりになれるチャンスくらい簡単に作れる。そう思っていた。
……でも……。
青春部の全員。そして、そこに麻依も参加することになる。最低で、八人の女の子と護とがその場に集まることになる。誰かが友達やらを誘えば、もっと増えることになる。
そうなれば、二人きりにはなれない。麻依と葵だけなら出し抜けたかもしれない。だけど、他の青春部の皆は無理だ。
……はぁ……。
柄にもなく、悠樹はため息をついてしまう。予定が少し崩れてしまったからだ。
……まぁ……。
護もそこにいるのだから、楽しくなるのは間違いない。二人きりになれないとしても、隣にいることくらいなら出来る。
「麻依ちゃん。七夕の話なんだけど…………」
「青春部からのお誘い…………? 」
「うん。麻依ちゃんとの約束もあるから、一緒に参加しよう? 」
「それ、私も言って大丈夫なの? 」
「大丈夫。うちの部長は、細かいこと気にしないから……」
「なら、ありがと」
「ん。伝えておく…………」