七夕に想いを #2
「七夕……だけど、それがどうかしたの? お姉ちゃん」
「渚。七夕がどんな日なのか分かってる? 」
「織姫と彦星が、年に一回出会う日…………? 」
それはそうだ。しかし、今大事なのは、そんなことではない。もっと他のことにある。
「違う。願いごとを書く日だよね。自分の叶えたい願いをさ」
「あ、そっか…………」
その成美の言葉で、渚も思い出したようである。
「もち、私達には叶えたい願いがあるよね? 」
……叶えたい願い……。
考えてみれば、願いごとの一つや二つはある。
ここで考えられる願いは、護についての願いだ。
渚は、自分以外の青春部の皆が護を好きでいる、ということを知ってる。
そういうことに疎い渚であるが、これくらいのことなら分かる。皆の表情を見ていると、すぐに分かる。簡単すぎるくらいに。
無論、自分だって、護のことはそれなりに気になる。これが、好きという気持ちに繋がるかどうかは分からないが、いずれ護の優しさに触れた時、この気持ちが変わるのだろうと思っている。
護が優しいというのは、すでに理解している。しかし、まだ渚は、自分だけにその護からの優しさを向けられたことがない。
……護君、か……。
「ある、けど………………」
一瞬の間があつて、渚が答えた。
……ん……?
何かを考えていたから、答えるまでに時間が生じたのだろう。
何を考えていたのか。そこまでは成美には分からない。双子ではあるが、自分達ではそこまで似ているところは無い、と思っている。
「じゃ、その叶えたい願いを短冊にでも書こうよ」
「お姉ちゃん。短冊ないと思うよ? それに、その短冊を飾る笹も…………」
「そっか………………」
願いごとを書くくらいなら、特別に今日にやる必要はない。笹に飾ることに、何かしらの意味を感じるからた。
まぁ、織姫と彦星に願いを届けるといっても、その願いを叶えるのは自分だ。願いごとを記すことによって、自分を奮い立たせるのだ。
……護……。
勿論、自分が叶えたい願いことは決まっている。その願いことを叶えるためには、この七夕を活用するしかない。
「杏先輩とかの家に行ったりしたら、あるかもしれないけど……」
少しばかり悪いと思ったのか、渚が恐る恐る案を出してくる。
「杏先輩か…………」
「くしゅん…………っ! 」
突然、杏が似つかない可愛らしいくしゃみをした。
……あ、集中切れた……。
勉強に戻っていた二人。特に、杏の集中が、自分のくしゃみによって切れてしまった。
「風邪でも引いたか? 」
「大丈夫。私が風邪を引かないこと、佳奈は知ってるでしょ? 」
「まぁ、そうだが…………」
何故か、佳奈は歯切れが悪そうに答えた。
風邪を引いたことが無い、と言っても、体調が優れないことくらいならある。特に、最近は特にあるかもしれはい。
……護のせいかなぁ……。
護に出会うまで、杏は、男の子のことを好きになるなんてことが全く無かった。惹かれた男の子は、護が初めてということになる。
だから、分からないことが多々あったりする。周りからはそういった経験が多くある様に見られがちだが、そんなことは一切無いのだ。
護に出会った頃から、護のことが好きだったわけではない。
護といる、葵、心愛、薫、を見ていて、自分は好きにならないだろうと思っていた。
けど、実際、護のことを好きになってしまっている。
そこに何があって護に惹かれてしまったのか。それは覚えていない。自然
、、
と惹かれていった。この言葉が、一番しっくりと当てはまる。
「まぁ、誰かが私のこと噂してたりするんじゃない? 」
「杏のことだからそうかもしれないな」
それで佳奈との話を終えて、また勉強に戻る。
が。
「わ、メールだ……」
その瞬間、ふでばこの横に置いていた携帯が、メールの着信が入ったことを教えてくれる。
「誰からだ? 」
「えっとね………………。成美からだね」
「成美から? 何か珍しいな」
「うん。私に成美からのメールが来るのは、これでまだ両手で数えられるくらいかも」
「杏はあまりメールしないからな。で、何て? 」
メールの返信を遅らせるわけにもいかないので、すぐにメールの内容を確認した。
「明日予定はありますか? だって」
内容は、短く簡潔なものだった。
「予定は無いな。強いて言うなら、私と一緒に勉強するくらいだ」
「じゃぁ、無いってことで」
佳奈の言葉を受けながら、"無いよ。どうしたの? "と、メールを返した。
「返ってきた」
メールを送って数十秒後。すぐに返信がきた。
「"なら、七夕パーティーみたいなのしませんか? " だって」