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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜六章〜
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七夕に想いを #1

「七夕ですか………………」

珍しく自室にいる咲夜は、明日に迫る行事のことを声に出して確認してみる。

明日、七月七日は七夕である。

そもそも七夕とはお盆行事の一環でもあり、精霊棚とその幡を安置するのが七日の日の夕方であることから、「七夕」となったという。

元々は中国の風習で、それが奈良時代に伝わり、元からあった日本の棚機津女(たなばたつめ)の伝説と合わさって生まれた言葉であるらしい。

佳奈の部屋で、佳奈と杏が一緒に勉強しているが、杏がいることだろうから、七夕の話になっていても何ら驚かない。

もしかしたら、自分に何かを頼んでくるかもしれないとも思える。

「護様は何してるのでしょうか……」

ふと、気になる男の子がいる。一度、佳奈が家に連れてきた男の子だ。

佳奈のことだから、もしかしたら何かをしようと誘っているかもしれない。テスト前でもあるから、誘ってないかもしれい。まだ確認を取っていないから、正しいことは分からない。

「確かめてみましょうか…………」

楽しいことなら、護とも一緒に楽しみたい。護がいるなら、もっと楽しくなる。そんな確信みたいなものが、咲夜の中にはあった。

護のことが好きだというわけではない。自分は大人だ。護と年が離れて過ぎている。ただ、佳奈が護といるととても楽しそうにしている、そんな姿を見るのが好きなのだ。

「佳奈お嬢様の部屋にでもいきますか…………」


「ねぇねぇ、佳奈」

「どうしたの? 杏」

時間は三時を回った頃。さっきまで勉強に集中していたはずの杏が、急に名前を呼んできた。

明らか、勉強に関係ない話を持ち出そうとしている。杏の集中が切れたしるしだ。

「明日、七夕だよね? 」

「あぁ、そうだな……。それがどうかしたのか? 」

「護達に、集まって何かやろう、って言うのを忘れたなぁと思って」

……なるほど、そういうことか……。

杏が自分自身で言っている通り、ここ一週間、杏が七夕に関する話題を出すことは無かった。

知っていたが言わなかっただけだと思っていたが、どうやら、七夕のことを忘れていたらしい。

「珍しいな。杏がこういう行事のことを忘れるなんて」

「忘れていたわけではないんだけどねぇ」

「なら、何で言わなかったんだ? 言えば皆賛成してくれたと思うぞ? 」

「それも分かってたんだけど、何かねぇ………………」

「ん………………? 」

何かを遠慮している。佳奈の目にはそう映った。

だけど、何に遠慮しているのかは分からない。

今まで、杏がこういう態度をしめしたことは無かった。どんな無茶苦茶なことを言ったとしても、護を始め、青春部の皆はついてきてくれからだ。

杏の思い付きで、青春部の行動が決まったりする。

そんな杏が、ここ一週間は、自分から何かをしようとは言わなかった。何かを企んでいるという可能性も無きにしも非ずだが、杏が静かにしていると、昔から杏のことを知っている佳奈にとっては、それが嵐の前の静けさだと思ってしまうのだ。




……はぁ……。

佳奈の隣で、杏はため息をつく。自分自身に対するため息だ。

さっき、七夕のことを忘れてたとも言ったし、忘れていないとも言った。

佳奈の言う通り、こういった行事があるのにも関わらず、自分から何も言い出さなかった。そういうのは、これが初めてかもしれない。

……七夕……か……。

一年に一度、織姫と彦星とが出会うことが出来る。ロマンティックな日である。

だから、隣にいてほしい人がいる。

……護……。

護と一緒に過ごしたいと思っていながら、護に声をかけることが出来なかった。自分が行動に起こせなかったから、他の青春部の部員が、護と一緒にいる可能性が高い。

杏にとって、皆にとって、それほど重要なイベントでもある。

それであるのにも関わらず、護に声をかけなかった。

杏には、一つの考えがあった。それは、今使うものではない。使うべきタイミングは、もう少し後にある。

……夏休みだね……。

期末テストが終わって一週間もすれば、すぐに夏休みになる。その時になれば、いつも通り、護と一緒にいることが出来るだろう。

勿論、護のことは好き。

これは自分から気づいたわけではなく、護の家に泊まった時、遥によって気付かされた事だ。

いや、気付いていなかったわけではない。

杏と護との間には、二歳の年の差がある。三月になれば、もう学校で護と会えなくなる。

もう、この好きだという気持ちを鎮めることは出来ない。

しかし、この二年の差は大きい。

もし護と付き合えたとしても、護にはまだ高校生活が残っているのだから、会える回数は極端に減ってしまうことになる。まだ高校生活があるということは、護はまだまだ色んな女の子と出会うわけになる。

……遥に言われたっけ……。

諦めるな。何度も何度も、自分に言い聞かせる。

諦めなければ、事は良い方に進んでいってくれる。杏は、そう思っている。

「佳奈………………? 」

「どうしたんだ……? 」

「夏休みになったらさ……」

「また、勉強一緒にするのか? 」

……違うよ……。

苦笑しながら、杏は言葉を続ける。

「それもしなきゃだけどさ………………。あぁ、やっぱいいや……」

「そこまで溜めて、言わないのか? 」

言おうと、ここで佳奈に宣言することによって、自分の決意を固めようと思っていた。

しかし、言おうとすると、やっぱり。その言葉は自分の喉を通ってくれはしない。

「ごめん。時が来たら言うよ」

「まぁ、杏がそこまで言うなら強要はしないけど」

「ありがと……。じゃ、勉強、戻ろっか」

「あぁ、分かった……」




「護様を誘うのはやめておきましょうか……」

佳奈の部屋の前にいた咲夜は、仕方ないといった感じで声を出した。

少しだけ開けていた佳奈の部屋の扉を、ゆっくりと、音も立てないようにしめる。

……杏様も、色々考えているのでしょう……。

杏が護のことを誘っていないということは、恐らく、何か考えがあってのことなんだろう。

そういうことであるならば、自分は誘わない。杏がしなかったことを、佳奈がしなかったことを、自分がする必要性はない。

「さて…………」

これからどうしましょうか、と咲夜は自分に問う。

佳奈の予定が無いなら、自分の予定も無い。無理に予定を作る必要も無いし、久しぶりにゆっくりと休日を過ごしてみても良いのかもしれない。


「お姉ちゃん」

成美の部屋。ベットの上ではなくフローリングの床に寝転がっている成美に、渚の声がかかる。

……あぁ、床が冷たい……。

元々冷たいものが、クーラーの風によってより冷やされて、寝転がっていると、より身体を涼しくすることが出来る。勿論こんなことをしていると、勉強なんてもののヤル気は削がれてくる。

「お姉ちゃんってばぁ……」

また、自分を呼ぶ声が聞こえる。

「どうしたの? 渚〜? 」

仰向けの姿勢からうつ伏せに身体の姿勢を変えて、足をバタバタさせながら渚に声を返す。

「勉強しようよ。テスト前だよ……? 」

「面倒くさい…………。それに、まだテストまで五日もあるさぁ……」

勉強しないといけない。それは十分に理解している。しかし、ヤル気が出ない。

「五日しかないよ? 」

「大丈夫、大丈夫。前日とかになったら教えてもらうから。渚に」

「私……? 大丈夫だけど…………」

「うんうん。それじゃ、勉強頑張ってね。私はしばらくゴロゴロしているからさ」

「はぁ………………」

ため息をつくと、渚はすぐに勉強に戻った。

……護も勉強してるのかな……。

勉強に集中しようと思っても、護のことが気になってしまって、勉強どころではなくなってしまう。

六月の初旬に水着を買ってから、あんまり長く長く護と話す時間が無かった。

そう感じているのは、成美だけではないだろう。渚も悠樹も杏も佳奈も心愛も薫も葵も、そう思っているはずだ。

……でも……。

葵は違うかもしれない。

何故かそういう風に思ってしまう。

七月に入ってから、テスト一週間前に入っているから、皆と青春部の部室では会っていない。

六月のテスト前部活最後の日。

何故か、葵の表情がいつもより違うかった。その時は何も思っていなかったが、今になったら少し分かったような気がする。

……葵は護といるのかな……。

護の隣にいないからなのか、成美はそう思った。

テスト前だから、お互いに護といる時間は減ってきているのは当たり前だ。

でも、葵は頭が回る。勉強も出来れば、その場その場に応じて、一番良いと思う行動を取ることが出来る。

そんな葵であるならば、護を誘うことは簡単なことなのであろう。

成美の考えが正しいとするならば、今葵は、護と二人でいることだろう。勉強をするという名目で、一緒にいれるわけだ。

実際、テスト前だからといって、葵が勉強をしているとは限らない。隣に護がいるのなら、勉強に集中出来ていない可能性がある。

葵が、護のことを好きな女の子が、ただ一緒に勉強をしたいという理由だけで、護と二人きりになるわけがない。

何か、別の理由があったりするのだろう。

もう夏休みに入る。青春部の活動は夏休みもあるから、護と会える機会が減るわけではない。だとしても、この辺りで、護の気をさらに惹くことが出来れば、他の人より有利な立場に立てる。

……ふぅん……。

葵と護が二人でいる。この事柄が正しいかどうかは分からないが、もしこれが本当だとするならば、こちらとて、そろそろ本気を出さなければならない。

今のところ、護が誰を選ぶかなんて分からない。護だって、それは分かっていないだろう。誰かを好きになれば、残った人を切り捨てることになる。恐らく、護はそれを考えて、自分の思考をストップしているのだと考えられる。

これは成美の個人的な考え。しかし、護は優しいから、そう思っていると考えるのが妥当なのである。

……告白以上の何かを……。

葵、心愛、薫、悠樹。護に告白をした女の子は、自分が知り得る限り、自分を含めて五人である。

自分が知っていないだけで、渚、佳奈、杏の三人が、護に告白をしている可能性もある。

そうなれば、青春部にいる女の子の七分の五が、もしくは全員が、護に告白をしたということになる。

幼馴染という点だけを、護と一緒にいた時間だけに注目して見るのであれば、明らかに薫が有利である。

しかし、告白。この点だけを考えるのであれば、皆が立っている土俵は同じということになる。

もう一度護に告白をするだけでは、護の心を動かすことは出来ないだろう。いや、ちょっとくらいなら動かせるかもしれない。しかし、それでは駄目なのだ。大きく、自分の方向に心を動かさなければならない。

……先を越されるわけにはいかないよね……。

告白以上の何かをしたところで、他の人に先にやられてしまえば無駄になる。焦ってはいけない。それは重々に分かっていることではあったが、護のことを考えれば考えるほど、早くしなければ、という衝動に駆られそうになる。

……あ、そういえば……。

成美は、ある一つのことを思い出した。

「ねぇ、渚」

うつ伏せだったその姿勢を直し、渚と同じように机の前に座る。

「お姉ちゃん…………? 」

「そういえばさぁ、明日、七夕だよね? 」

……あるじゃんか、チャンスが……。


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