恋の宣戦布告 #1
「説明…………? 」
ランの言葉に、ララは首を傾げた。
「はい。葵に嘘をつくのは、いけないことです」
……まぁ、それはそうだけど……。
「じゃ、ラン? 自分の気持ちに嘘はついて良いの? 」
「……ララは、本当に護さんのこと…………」
「まだ、分かんないよ……。ただ、ちょっと奪ってみたいかなって思ってる…………」
「勝てるんですか? 葵や他の人達に…………」
「どうだろうね。でも…………」
「でも? 」
「やってみないと分からないよね? 勝つか負けるかなんてことはさ」
「それでも…………、他の皆と同じ立ち位置に、私達はまだいませんよ? 」
「それなら、同じ場所に立てば良いんだよ」
「それは、告白するということですか? 」
「まぁ、そうなるかもね。宣戦布告だね、宣戦布告」
ララとランは、俺に聞かれないようにするためか、さっきまで葵がいた場所に座って、こそこそと話をしている。
そういう風にしているということは、俺に聞かれたくない話をしているのだろう。
気にならないと言えば嘘になるが、だからといって、聞き耳を立てるわけにもいかない。
それにしても、ランがここに来ると聞いた時、結構驚いた。袋を開けてみるとララもいたもんだから、余計にだ。
明日の夜、花火をすることが決まって、二人きりでいれる時間が減ったから、俺は、葵がそのことについて少し悲しんでいるもんだと思っていた。
もともと、俺と葵だけで勉強会という名目でここにいるからだ。
花火の件は仕方ないとしても、ララとランの場合は違う。断ろうと思えば断ることが出来たはずなのだ。そうであるのにも関わらず、葵は、ララ達を家に招き入れた。
葵のことだから、何か策があるのかもしれない。まぁ、それが何なのかは分からないけど。
「宣戦布告ですか」
「うん」
「まぁ、そこはララに任せます」
「ん、分かった。話はこれで終わり? 」
「はい」
……ふぁ……。
ララの中には強い想いがある。ランは、今の会話でそう思った。
護のことを好きにならないということを決めた時、少しばかりララは反対していたから、いずれこうなるかもしれないと思っていた。
だから、そこまでこのララの想いに驚いていない。
好きな気持ちがあったとしても、それが叶うかどうかは分からない。
特に、皆より後から好きになった場合。護の彼女になれる可能性は、ぐっと減る。それでも、ララは頑張ろうとしている。ランの目にはそう映った。
それがどういう結果になるのかは、分からない。
……頑張って、ララ……。
無論、自分は応援する立場に立つ。自ら、その恋の中には入らない。勝てないだろうし、そういう恋をしている人達を見る方が、何かと好きだから。
「ラン、ララ、護君。お待たせしました」
……あれ……?
冷たいお茶を持って部屋の中に入った葵は、ララとランの雰囲気に違和感を感じた。
ランな何故か申し訳なさそうな顔をしているし、ララは何かを考えているような顔をしている。
護と一緒の部屋にさせていたのが、少々悪かったのかもしれない。
雰囲気から察するに、何かがあったような感じがする。ララと護との距離が近くなっている。物理的ではなく。
自分と護とのノートの間に、持ってきたコップを置く。
「少し、遅かったな」
「そうですか? 」
「うん。僕もそう思ってた」
護の意見にララが頷く。
まぁ、少しのんびりしていた節はある。だけど、そんなに時間をかけていたつもりは全くない。
護のために冷やしておいたお茶を注いだだけだからだ。
無意識のうちに、ララとランに、護と長く話す機会を与えてしまったのかもしれない。
「ありがとうございます。葵」
ララより先にコップを手に取ったランは、護の左隣に座った。
「ありがとね。葵」
ララは、ランの逆の位置に座る。
……まぁ、仕方ないですね……。
自分の座る場所は護の前と決まていたから、必然的に、護の隣にララとランが座ることになる。四角の机だから、実質的に隣というわけではないんだけど。
「勉強しましょうか」
何も持ってきてなかったはずのララとランの手元。ララの手元には化学の問題集やらが。ランの手元には国語の教科書やらがあった。
護が、二人に貸したのだろう。
「おぅ」
「うん」
「はい」
……宣戦布告か……。
ランにそう言ってみたものの、ランは何をしたら良いのか分からない。
……恋の宣戦布告だよね……。
もう、護との絆がそこそこ築かれている葵達の間に、割って入ろうとしているのだ。
この構図だけを見れば、圧倒的に自分が不利である。ここから逆転して、護の彼女になるのは難しいかもしれない。いや、かなり難しいといえるだろう。
だとしても。
……諦めるわけにはいかないんだよねぇ……。
好きという気持ちは、まだ全然葵達に比べると浅いものだろう。しかし、一度、皆から護を奪いたいと思ってしまった以上、この想いを変えることは出来ない。
そのために、護を奪い取るために、何が出来るのかを考える。
……告白とかかな、やっぱり……。
葵、心愛、薫の三人が、もうすでに護に告白していることを知っている。告白をすれば、いまよりも距離を縮めることが出来る。
……あと……。
青春部の存在。たとえ、葵達に勝ったとしても、護を奪い取ることは出来ない。青春部にいる人達にも勝たないといけないのだ。
だけど、まだ青春部にどんな女の子がいるのかを、ララは知らない。何回か話を聞いたことはあるが、それだけのことでは分からない。実際に見てみないと。
……そうなれば……。
青春部に入ってみるのも良いかも、とララは思ってみたりした。