予定の崩れ #2
……どうしてかな……。
葵は自分達を家の中に招き入れてくれた。それについては、そうしてもらえて嬉しかったから問題ない。
ただ、一つだけランには分からないことがあった。どうして、自分達を入れてくれたのか、だ。
この部屋に護がいるということは、葵と護は二人で勉強していたということになる。
そんな二人にとって、今ここにいる自分たちは邪魔な存在になるかもしれない。いや、確実に邪魔者だ。
勿論、ランとララは、葵が護のことを好きだ、ということを知っている。だからこそ、何で自分達を呼んだのかが分からないのだ。わざわざ、護と二人きりでいれる時間を減らした理由が分からないのだ。
いくら、ランが家の前にいたとしても、追い返すことは容易に出来たはずだ。
それなのに、葵はそうしなかった。
……何故……。
もしかしたら、何か葵には策があるかもしれない。それに加え、葵には、自分達二人は護のことを好きにならない、ということを告げている。
無論、好きにならないというのは、異性としてだ。何故か、葵を含め、心愛と薫も護のことが好きだということを知っているからだ。
もしかしたら、好きになってしまうかもしれない。でも、簡単に諦めることが出来る。最近転校してきたばかりの自分達は勝てないことを分かっているから。
「あっついねぇ。護」
「そうだな、今の時間は特にだろ」
護がいたことに少々驚きながら、ララは、護のすぐ隣に腰をおろした。
この状況を見て、葵と護が二人で勉強していたことはすぐに分かった。となれば、葵は、護の対面に座ることになる。そこに置いてあるノートには葵の字が書いてあるから、間違いないだろう。
そういうことなら、ここ、今自分が座っている場所は空いているということになる。護の隣が空いているということになる。
……まぁ、でも……。
葵が護のことを好きだということを知っているから、この場所に座るというのは、少し躊躇われる。
……少しくらいは良いよね……。
葵がここに戻ってくるまでの少しの間くらいなら、ここにいても良いと思う。バレないのだから。
……好きにはなれないからねぇ……。
護と接している葵達を見ていると護の良さは伝わってくるし、葵達から話しを聞くこともある。
だからこそ、ララはランと決めたのだ。護のことを絶対に好きにならないと。
……決めたけど、難しいねぇ……。
好きになったとしても、勝つことは出来ない。それはもう、はっきりと分かることだ。
……羚も、だし……。
ララは、少し羚に惹かれていた節もあった。護に惹かれながらも。
その想いは、両方とも叶わない。
「数学やってたの? 」
護のノートをちらっと見ると、xやyやらの文字が並んでいた。
「おぅ。そういえば、ララは苦手だっけ、数学」
「苦手だね…………」
「でも、ランはそうでもないよな? 」
「はい。得意、というわけでもないですけど」
「僕達、結構正反対だから」
「あぁ……。何か分かる気がするな……」
ララのその言葉に、護はうんうんと頷いている。
得意な教科とか服の趣味とか、本当にランとは逆である。
唯一、重なったことがあるものがある。それ以外は、本当に合わないのだ。
「双子なんですけどね」
と、ランも苦笑しながら言ってくる。
「さっき葵にも言われたしね」
「そうですね」
ララとランが話している間、護は二人を交互に見ていた。
「どうしたんですか? 護さん」
その護の動作に、ランが気付いた。
「二人はさ、勉強しにきたんだよな? 」
「うん」
「はい」
「じゃぁ、勉強道具は………………? 」
「「あ……………………」」
ララとランの言葉が重なる。
……忘れてた……。
すっかり忘れていた。勉強を教えてもらおうと思っていたのは確かである。だから、こうして葵の家を訪ねたのだ。
そんなに急いで家を出た覚えは無いのだが、何故忘れてしまったのだろうか。
「忘れてましたね」
「だね」
そういう答えが返ってくると分かっていただろう護も、少しだけポカンとしている。
「どうすんだ…………? 」
「護。他の教科も持ってきてるでしょ? 」
少し護に身体を寄せながら言う。
「まぁ、持ってきてるけど……」
「どれどれ」
護が鞄を開けて中をのぞき始めたので、ララは、護の横から同じようにのぞき込んだ。護との距離を近く保ったままで。
……な……っ!
こんなに暑い日だし、葵もそうだったが、ララも結構露出度の高い服を着ている。ワンピース型のキャミソールだけしか着ていなく、そのララの輝かしい二の腕やら太ももやらが、俺の目を刺激する。
それだけなら、まだ、我慢できる。夏だから、仕方ないと思える。
しかし……。
「ん? どうかしたの? 護? 」
「い、いや……。何でもない…………」
俺は慌てて、ララから目を逸らす。危ない危ない。もうちょっとで、女の子の見てはいけないものを見てしまうところだった。
心愛や悠樹よりも小さいものをお持ちなララであったが、いかんせん、俺は男子なので、こんなに無防備なすがたを見せられてしまうと、自然にそこに目線がいってしまう。男の性だ。
「か、化学で良いか……? 」
「化学……? 苦手だよぉ…………」
「そうだっけか? なら、ランは出来るよな? 」
これ以上見ていると、何やらアブノーマルな趣味に目覚めてしまいそうなので、ランに話題を振った。
「はい、出来ますよ」
「だよな。ランは何か苦手なものあるのか? 」
「そうですねぇ……。国語がちょっと苦手ですね……」
「簡単じゃん。国語なんて。化学に比べたらさ」
当たり前のように、ララが俺の腕にくっつきながら言ってくる。何だろうか。さっきから、段々とララとの距離が近くなってきてるような気がする。物理的に。




