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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜六章〜
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予定の崩れ #1

「心配…………? 何が心配なのさ? 」

何に対して心配することがあるのか。それが、心愛には分からなかった。それにプラスして、薫が、一体どうしてそんなに弱気になっているのか。それが、どうしても分からない。

「分からない…………」

「分からない……? 自分でも…………? 」

「うん…………」

大方、薫がそう思うのも分からなくはない。だけど、何故、幼馴染という点で皆より護と長くいる薫が、そこまで弱気になる必要があるのか。

自分達よりも、はるかに護との接点は多いのだ。

そう考えれば、こちら側の方が大変。その一線を越えなければ、護を勝ち取ることが出来ないからだ。

護に対して、幼馴染以上に仲良く、互いのことを分かることが出来れば、薫より上にいくことが出来る。

そこが大変なのだ。

「薫が心配する必要があるの? 」

「え…………? 」

「多くは言わないよ? 薫は、皆より護との付き合いが長いんだよ? 」

「そうだけど」

「言うなれば、あたし達の方が不安だよ? 本当に護に選んでもらえるのかなって……………………」

「そうだよね……。ごめん」

「謝らなくて良いよ。だからこそ、あたしらは頑張ってるんだから」


「ま、護君…………」

少し、本の少しだけ勇気を出して、護を呼んでみる。

「な、何…………? 」

その勇気に気づいたのか、護はいつもより緊迫した表情で言葉を返してくれる。

「したいことが………………」

葵の口から発せられた言葉を途切れさせるように、一つの音が鳴った。携帯の着信音だ。それも、葵のだ。

「す、すいません……」

「お、おぅ……。気にするな」

……こんな時に……。

少しばかりゲンナリしながら、葵は、ノートの横に置いていた携帯を開いて耳に当てる。

「もしもし…………? 」

「あ、葵ですか? 私、ランです」

誰から電話が来たのかを確認せずに電話を取ったので、ランから電話がかかってきたということに驚く。

「ラン………………? どうしたんですか? 」

「突然ごめんなさい。今、葵の家の前にいるんですけど、ララ来てますか? 」

……私の家の前に……? どうして……?

「来てないですけど…………」

「そうですか。急に電話してごめんさないです」

「気にしないで。あ、どうして私の家の前に……? 」

「ララのことだから、勉強教えてもらおうとして葵の家に来てると思ったんです」

「勉強。テスト前ですからね」

「はい」

「家の中に…………、入る? 暑いし 」

「大丈夫。葵も勉強でしょう? 邪魔はしない」

……邪魔はしない……?

少しばかり、ランの言葉にひっかかる。まぁ、別に気にしないことにする。

「私の家の前まで来てるんですよね? 」

「あ、うん」

「なら、入って。ここまで来てるわけですから」

「良いんですか? 葵」

「はい」

ここでランが帰ったとしても、後に、ララが来ることになるだろう。そうであるならば、ここでランを家に呼んだとしても影響はない。ただ、護と二人きりでいられなくなるという弊害はあるものの。

ララとランなら、夜になったら帰ってくれるだろう。それなら、その後に二人きりになれる。その時間まで待てば良いのだ。

……はぁ……。

きっちりと、ずっと二人きりになれるように立てていた計画。こんなにも、容易く計画が崩れてしまうとは思っていなかった。

……仕方ないことです……。

こうなってしまった以上、護と二人でいたいものだが、諦めるしかない。

「じゃ、お願いします」

「すぐ行きますから、待っていてください」

「はい。分かりました」

電話を終える。

「誰からだったんだ…………? 」

「…………ランからです」

「ラン……? 」

少し驚いた表情を浮かべている護。当たり前だ。未だに、自分も驚いている。

「はい。家の前にいるらしいんで、ちょっと、行ってきます」

「お、おぅ」

葵の驚きは、ランが家の前にいるということではない。いや、それもあるのだが、理由はそれ一つだけではない。

護と一緒にいる時間が減るというのに、そこまでそれを残念だとは思っていない。

護への想いは強いままだ。だからこそだろうか。後で取り返せば良いのだ、とちょっとだけ思える。

……夜頑張ります……。


ランは、門の前に立って、葵が来るのを待つ。

葵は、自分を家に誘ってくれた。せっかくここまで来たのに帰るのはあれだ、と。

……うーん……?

でも、そう返事をした時、葵はいっしゅん何か戸惑っていたような気がした。

もしかしたら、何かマズイことをしてしまつまたのかもしれない。まぁ、それも自分の取り越し苦労なのかもしれない。

「ランーーーーっ!! 」

待っていると、少し遠くから自分を呼ぶ聞き慣れた声が聞こえた。その声のする方に振り返ると、そこにはララがいた。

「ララ…………? 」

「どうしたの? ラン? こんなところで」

「それは私のセリフ。」

「え……? 」

「やっぱり迷ってたんですか? 」

「ま、まぁね………………」

えへへ、と笑いながら、ララは言う。

「やっぱり……」

「ここ、葵の家だよね? 」

「はい。家の中にいれてもらえるとのことです」

「ランが頼んでくれたの? 」

「いえ、葵から。私は帰るって言ったんだけど…………」

「そうなの? まぁ、ありがと。暑くて暑くて……」

パタパタと、ララは、胸元を開けて、そこに風を入れる。

「ララ。はしたないですよ」

「誰もいないんだからさ、良いじゃんよー」



「お待たせしました……。あ、あれ……? 」

葵は、急いでランを迎えに行った。急ぐ必要は無かったのかもしれないが、すぐに行くと言ってしまった手前、そうしないとならない。

「おっはよー。葵」

ララの元気な声が、葵の耳に届く。

……もう着いたのですか……。

ララが来ることは理解していたのだが、こんなにも早くくるとは思っていなかった。

電話を切ってからここに来るまで、数十秒ほど。ランと電話している時は、まだララは来ていなかったようだったから、この間に来たとあうことになる。タイミングが良いのだろうか。何かを示し合わせたようなタイミングである。

「はい、おはようございます」

いつも通りの自分、平生の自分で、ララに対応する。

「さ、入ってください。暑かったですから」


「お茶入れますから、先に部屋で待っていてください」

自分の部屋の前まで案内してくれた葵は、そう声を作った。

「うん、ありがと」

「別に……。気にさないでください」

ララとランは、正反対の言葉を返す。

「ふふ……」

葵が笑った。ララの目にはそう見えた。

しかし。

……ん……?

その笑顔に、ララは何か違和感を感じた。今のララに、それが何かを知ることは出来なかった。

「ララとランは、本当に正反対ですね」

「うん、よく言われる」

「じゃ、持ってきますね」

再度そう言って、葵は、自分達の元から離れた。

「ねぇ、ラン」

先に部屋の中に入ろうとするランを止めるように、ララは、ランに向かって声を飛ばした。

「はい? 」

「葵、何かあったのかな…………? 」

「…………? どうしてそう思うんです? 」

「いやぁ……、理由は無いんだけどさ……」

「私はそうは見えなかったよ? 」

「そうかなぁ……………………」

「そんなことより、ララは勉強を気にしなさい」

「う………………」

「私と葵がいるからには、きっちりしてもらいますからね? 」

「は、はぁい…………」

ランから、言葉とともに勉強しないと分かってます? 、という威圧感を感じられた。


「お………………? 」

「あ……………………」

「わ………………」

葵がランを連れて戻ってきたものだと思ったが、ララも一緒にいた。驚いた。葵はララが来るなんとことは言っていなかった。

三人とも、素っ頓狂な声をあげてしまう。

「護じゃん。どうしたのさ」

「護さん……? どうしてここに…………? 」

二人から、同じ意味を成す言葉が飛んでくる。

「べ、勉強だよ。勉強……。二人は何を…………、って、ここに来たわけだから、勉強だわな」

「うん」

「はい、そうです」


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