迷い人
どれくらいの時間が経っただろう。一分くらいなのか十分くらいなのか。はたまた、もっと経っているのか。
そんな時間の間、葵は、ずっと護に寄り添っていた。
扇風機から送られて来る風が、二人を涼しくしてくれる。しかし、葵は、暑いと感じていた。
そう感じるのであれば、護から離れれば良いのかもしれない。しかし、それは嫌だった。この護の温もりをずっと感じていたい、とそう思うからだ。
「ま、護君…………」
「ん……? 」
何度目かの問いかけに、護は優しく言葉を返してくれる。そうだからこそ、葵は、護に声をかけたのかもしれない。
「そろそろ……、勉強…………、再開しますか? 」
「あぁ。その方が良いかもしれないな」
「じゃぁ、そうしましょうか」
「了解」
護の了承の言葉を聞いたので、少し名残惜しかったが、護から離れた。
……後でやろうと思えば……いくらでも……。
自分の部屋に戻り、昼ご飯を食べる前に閉じたノートを再度開いて、勉強に集中しようとする。
しかし、一度傾いてしまった護への思いは、そう簡単には勉強に集中させてくれない。
何度も、何度も考えていたことだが、今は護と二人きり。何でもすることが出来るのだ。
護の方をちらっと見る。
「どうかしたのか…………? 」
目が合った。
「い、いえ…………。気にしないでください」
「そ、そうか……? 」
葵は慌てて、護からノートにへと目先を変える。
……はぁ……。
勇気が無い、と。葵は自分のことを思う。
本当に、今、この家には自分と護の二人しかいないのだから、何でも出来る。キスでも、何でも、自分に勇気さえあれば、することが出来るのだ。
しかし、今の自分にはそれが無い。もしかしたら、護にも無いのかもしれない。
……なら……。
一つ試してみたいことがある。葵は心に決めた。
「迷った………………」
少しばかり入り組んだこの住宅街に、一人の女の子の姿があった。銀髪の髪色からも、この少女の土地勘が、あまり無いということも分かる。
「案内してもらったはずなんだけどなぁ…………」
ぐるっと周りを見渡しながら、その少女は、はぁ、とため息をもらす。
「この辺りだっけ………………」
流れてくる汗を手で吹きながら、目的地の家を探す。
本当なら、事前に連絡して、迎えに来てもらうはずだった。だけど、そう話す機会がなかったのだ。
……仕方なかったんだけどねぇ……。
引っ越し後の色々とか、何やらで、とても時間を取ることが出来なかったのだ。そんなこんなで、勉強することもあまり出来なかった。
だから、こうして汗を流しながら、勉強を教えてくれるだろう相手の家を探しているのだ。
「メールアドレスも知らないし…………」
一ヶ月ほど前、この街を案内してもらった時に聞いておけば良かった、と後悔する。その時の時間が楽し過ぎて、すっかり忘れていたのだ。
「はぁ………………」
少女は再び、ため息をついた。