葵の想い
「一つ……、お願い……、しても良いですか……? 」
今、この状況下において、二人きりでいることの出来るこの時間において、自分が何を出来るか考える。
今日と明日の夜まで。時間にしてみれば、まだまだかなりの時間が残っている。
しかし、楽しいと思っていると、時間の速度が早くなってしまうように感じる。それは、葵が身を以って体験したことだ。
水着を選んでもらっていた時も、すぐに時間は過ぎていってしまったし、今日だってそうだ。護が来るまでの時間は、一分一秒が長く感じられた。だけど、護が来て、一緒に勉強している時などはそうでは無かった。
あっという間に、時間が過ぎていってしまっているのだ。
「お願いごと…………? 」
「はい」
護の言葉に頷いた葵は、近かった距離をこれでもかというほどに詰めて、護の肩の上に、自分の頭を、トンと乗せた。
「葵………………? 」
この状態だから、護の顔は見れない。が、おそらく、困惑した表情を浮かべていることだろう。
葵だって、何故、今自分が今こうしているのかが分からない。ただ、そうしたいという衝動に駆られただけなのだ。
「ご飯を食べた後は…………、休憩が必要です……。だから…………、しばらくの間……、こうしていて良いですか…………? 」
「お、おぅ…………。分かった」
一歩先の関係へ。
それについては、ここ最近、強く強く想うようになってきた。だが。
……私はこの関係性が好きです……。
今を、壊したくない。自分が告白することによって、起こる変化が怖いのかもしれない。
もし、付き合うことになれば、護のことを好きでいる他の青春部のメンバーとの関係性が壊れてしまうかもしれない。
もし、振られてしまうことになってしまったら、それ以降、護とどう接していけば良いのか分からなくなってしまうかもしれない。
どっちに転んだとしても、関係性が壊れてしまうかもしれない。それだけは、避けたい。
だから、葵は、もう一回告白することなく、護からの返事を待っているのだ。護が誰かを選んだのなら、それに皆は納得するはずだからだ。
……だけど……。
自分のことを第一に考えてもらうために、もう一度告白するのは、アリなのかもしれない。
葵が近くにいる。少し早くなっている葵の息遣いも感じられるほどの距離に、葵がいる。
俺の肩の上に葵が自分の頭を預けてから、葵は何も話さない。話したいことがあるというのに、何か、迷っているようにも見える。
ここは、俺が口火を切れば良いのかもしれない。だけど、今、葵にかける言葉が見つからない。
無論、葵の気持ちは知っている。だからこそ分からないのかもしれない。自分がどうするべきなのかを。