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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜六章〜
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二人きりでの勉強会 #2

「わ………………」

花火をする約束をし、再び勉強に戻った二人のやる気を削ぐように、一つの音が生まれた。葵が勉強していたノートの横に置いていた携帯からだ。

その携帯は、葵に、メールの着信が入ったことを知らせてくれる。

「すいません」

護に断りをいれてから、葵は携帯を開いた。

……杏先輩からかな……?

そう思いながらメールの差出人を見ると、麻依からだった。

芹沢麻依。

葵の家の近くに住んでいて、一つ上の先輩だ。幼馴染ということもあり、昔から一緒に遊ぶことが多かった。妹の千歌、姉の唯とを含めてだ。

なかなか趣味やら何やらが合わなかった四人だったが、今日までその関係は続いている。

葵が青春部に入ったこと、それと色々なことが重なり合って、遊ぶ機会は減ってしまっているが……。

「………………え? 」

麻依からのメールを見た葵は、少し驚きの表情を浮かべる。

「どうかしたのか? 」

「いえ…………」

メールの内容は、明日、一緒に花火しない? というものだった。さっき、護と約束をしたばかりの事案だ。

護と二人きりになることが出来ない。もうそれは、メールが来てしまった以上断われないから、仕方ないと諦めるしかないかもしれない。

しかし、葵が驚いたのはその部分ではない。メールの最後、悠樹もいるからという文字に驚いたのだ。

麻依は、自分だけを誘ってくれている。でも、護と一緒にいようと決めたから、護の隣にいたいから、護を連れていかないわけにはいかない。

そうすると、護と悠樹とが会うことになる。今は葵の番。今日と明日。ずっと護といたいと、そう心に決めたこの思いは、そうやすやすと変えられるものではない。

……どうしましょうか……。

これが杏からのメールであったならば、良かったのかもしれない。杏がもしそう提案していたなら、青春部の皆で花火をすることになるからだ。

だけど、今は違う。

葵がこの麻依からのメールにOKしたら、明日の夜、護、葵、悠樹、麻依の四人で花火をすることになる。

人数が多い方が楽しいのは、重々分かっている。でも、今日と明日の二日間だけは護といたいのだ。先月から考えて、成功したと思っていた計画が、明日の夜においてだけ崩れようとしている。

まぁ、でも、そこだけの数時間だけなら、そんなに影響はないのかもしれない。

……仕方ないですね……。

護と二人きりで花火は出来ないが、護と花火はすることが出来る。なら、それまでの時間、どのように護との時間を過ごすか。それを考えた方が良い。

「護君」

色々な思いを心の中で巡らせながら、護に呼び掛けた。

「ん? どうした? 」

「さっき、花火をするって約束したじゃないですか」

「あぁ。もしかして、杏先輩からメールきたのか? 」

「いえ。私の幼馴染の麻依さんからです」

「じゃ、その三人でやるってこと? 」

「悠樹先輩も来るようなので、四人になります」

「悠樹も…………? 」

「はい」

「まぁ、人が多いほうが楽しいだろうしな。俺はOKだぞ」

「分かりました。そう伝えておきます」

……やっぱりそう言いますよね、護君は……。

そういう答えが返ってくることは、容易に想像出来たが、護が自分といることよりも悠樹といることを選んだような気がして、少しだけ嫌な気分がした。

「あ、花火するのって明日だよな? 」

「そうですけど……。どうかしたんですか? 」

「いや。それなら、今日は葵とずっといられるわけだなぁって思ってさ」

「護君………………」

護の頬は、恥ずかしさからか少し赤くなっていた。

「せっかく、葵が俺と…………、二人でいたいって言ってくれたわけだからさ。それに、二人で勉強しようとも約束したからな」

「護君…………っ! 」

「さ………、勉強戻るぞ」

「はい……っ」

……やっぱり私、護君が好きです……。

葵は、より強く強く、護のことを想った。


「返ってきた………………」

葵にメールを送ってから十分くらいが経っただろうか。やっと葵からメールが返ってきた。

「葵もくるの…………? 」

「そうだね……。後」

一瞬、麻依は言葉を詰まらせた。注意して麻依の話を聞いていないと分からないほどのちょっと時間だったが、それに、悠樹は気付いた。

「護君が来るって……。よく、悠樹ちゃんが話してくれる……、男の子だよね……? 」

「うん」

……護が来る……?

護に会いたいと想っていたから、護が来るということは、願ったり叶ったりだ。だが、一つの疑問が浮かぶ。

麻依は、葵にメールを送った。護の名前を知ってはいるが、護のメールアドレスを麻依は知らない。

それなのに、何故、護に花火をするという情報が届いたのか。考えられる理由は一つしかない。

葵の近くに護がいる。どちらかの家にいるという可能性が高い。

悠樹は思い出してみる。でも、葵は、そんな素振りを全く見せてはいなかったと思う。自分が気づかなかったうちに、葵は秘密裏に計画をしていたということになる。護と二人きりになろうとしていたことになる。

……邪魔をした……?

そういうつもりは全く無かったが、奇しくも、葵の計画を、花火をしている間の時間だけ潰してしまったということになる。

しかし、そうであるのにも関わらず、葵は、麻依の誘いに乗った。護と二人でいる時間が減るというのに、麻依の誘いを断らなかった。

悠樹には、何故葵がそうしたのかが分からなかった。もし、自分が葵の立場にだったら、この件には乗っていなかった。

何故か。出来るだけ護と一緒にいたいからだ。友達付き合いも大切だが、この場合は護に対する思いの方が勝つのだ。

葵も護のことが好きなのだから、より長い時間一緒にいたいと思うはずだ。

その時間を削るということは、それより勝る何かを考えているということなのかもしれない。

もしそうなら。

……葵に負ける……?

護のことが好きだというこの気持ちは、誰にも負けないと自分では思ってる。だが、この時、自分が負けるかもしれないということを悟った。


……悠樹ちゃん……。

護の名前を出した瞬間、悠樹の顔付きが変わった。喜びと不安と驚きが織り混ざっているような表情を、悠樹は浮かべていた。

悠樹から護の話を聞くたびに、悠樹は護のことを好きなんではないかと思っていた。しかし、今、そのふわふわとしていて確証が無かったものが、確実となって麻依は理解した。悠樹は護のことが好きだと。

……悪いこと……しちゃったかな……。

葵からも、たびたび護の話を聞いていた。葵も護のことが好きだ、ということを知っていた。

だけど、葵と一緒に護がいるとは思っていなかった。自分は、自分のためだけに葵を誘った。

……修羅場……?

そんな予感が、麻依の中に生まれた。


「ん…………? 」

自分の部屋にこもり勉強していた氷雨は、自分の携帯に着信が入ったような気がしたので、今、自分の後ろにあるベットに置いてある携帯のほうを振り返る。

携帯は震えていた。着信があった証だ。

「電話だ…………」

メールなら後で見ようと思っていたが、この着信音からして、そうではなかった。

「っしょ…………」

一旦シャープペンシルを手から離し、携帯を手に取る。

「もしもし? 」

「ひぃ。私」

「ゆう姉? どうしたの? 」

「麻依ちゃんの家に泊まることになったから……、今日…………、夜ご飯いらない……」

「麻依さんのところ? 」

「うん」

「分かった。しぃにも伝えておく」

「ありがと」



「麻依さんの家で、何するの? 」

泊まるのなら何か勉強以外のことをするんでしょ? という意味が含まれているような気がした。

「花火」

「花火…………? 」

「うん。七夕だから」

「そっかぁ……。そんな時期か……」

「そう」

「ゆう姉は、何かお願い事するの? 」

「まだ、してない」

「しないの? 」

「後で、考える」

そう言ってみたものの、もうすでに、願い事なんて、一つしかない。無論、護とずっといたいという願いだ。その願いが叶うのであれば、他のことなんてどうでもいい。本当に、それだけのことで良いのだ。

「もう決まってるんじゃないの? 」

唐突に、氷雨はそんなことを言ってきた。

「どうして、そう思う? 」

「ゆう姉のことだから、護さんのことかなって」

「……………………」

「図星なの……? 」

「ん………………」

「そっか。ゆう姉、よく護さんの話してくれるもんね」

「ひぃも来る? 麻依ちゃんの家に」

護が来る。そして、葵も来る。それであるなら、時雨と氷雨が増えたところで、さほど影響は出ないだろうと思われる。

「行かない。邪魔しちゃ悪いから。それに、ゆう姉と麻依さん。そして、護さんと三人でやるわけじゃないんでしょ? 」

「うん、四人でやる」

「なら、余計に行けない」

そう言うのなら、仕方が無い。

「ん…………。分かった」

「楽しんできて。こっちはこっちで楽しむから」

「………………ありがと」

「じゃ、電話切るね」

「うん」


時雨は、氷雨の部屋の前で、氷雨の電話が終わるのを待っていた。

電話をしている相手は、恐らくお姉ちゃんの悠樹。聞き耳を立てていると、途中に護、という言葉を聞こえたから、その可能性は高いと考えられる。

……護さんか……。

中間テストの時期。夜ご飯を食べに来てくれたお姉ちゃんのお友達の男の子。

悠樹が家に男の子を連れて来たのは、これが初めてだった。たとえ、理由があったとしても。

だから、最初、悠樹から家に男の子の友達を呼んで良い? と聞かれた時は、とても驚いた。

それ以降、何回も悠樹の口から護のことを何回も聞いた。毎回、楽しく護の話をしてくれた。

「ゆう姉の好きな人か…………」

片手で数えられるくらいしか会ってない。それでも、護の良さは分かる。悠樹から聞くから、その補正もかかっているのかもしれない。

たとえ、それが無かったとしても、良い人だと言える。

御崎高校。この高校に行けば、護の後輩になることが出来る。今よりも、悠樹の好きな相手を見ることが出来る。

……それも良いかも……。

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