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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜六章〜
111/384

二人きりでの勉強会 #1

夏。

そりゃ、七月になっているのだから、夏だ。暦の上なら、もっと前から夏になっている。

夏になったわけだから、とても暑い。家の中にいても暑いのだから、外に出ると尚更だ。

だから、あまり夏になると、外に出たくなくなる。しかし、出ないわけにはいかない。

あの六月の水着選びから約一ヶ月。

それ以来、これまでの忙しさは何だったのかというほどに、週末に青春部の皆で遊ぶことが極端に減った。

まぁ、佳奈と杏先輩が三年生なわけだし、受験という大きい大きい壁があるから、あまり遊ぶというわけにもいかないのだろう。

こちら側としても、テストが近くなってきていたわけだし、それの先にある夏休みのために英気を養えたし良かったかもしれない。夏休みになったら、杏先輩が弾けるだろうし、どうなるか分からない。


てなわけで、今日は七月六日。土曜日。テストが十一日から始まるから、今日を含めると、五日前。

全然勉強をしていない。大変だ。

今日から二日間は、一杯勉強出来るだろう。これから、葵と一緒に勉強するわけだから。

無論、葵は俺より勉強出来る。それは、中間テストの時で、確認している。

これから、葵の家に行って勉強することになっている。もうちょっと時間が経てば、葵の家にへと向かわないといけない。

これで、久し振りに土日が潰れるわけだ。

適当に勉強道具を、いつも学校に行く時の鞄に詰め込む。

「さて…………」

そのエナメルバックを肩にかける。

「護、今日は帰ってこないんだっけ? 」

背後から、母さんの声が聞こえる。

「そうだな。姉ちゃんもそうだっけ? 」

「そうなのよ。お母さん、とても暇で」

「そんなこと言われても……」

こればっかりは、仕方ないと思う。

「分かってるわよ。じゃ、楽しんでらっしゃい」

「うん。それじゃ、行ってきます」

「いってらっしゃい」


「本当に暑い………………」

これだけで、活動源力が根刮ぎもっていかれる。

天気予報では三十四度くらいと言っていた。ここら辺は都会だから、アスファルトやらなんやらで

余計に暑く感じるのかもしれない。

早く、葵の家に行きたい。クーラーを付けて、待ってくれているからだ。

さっき、そうメールが来た。

「行こ」

エナメルバックを担ぎ直して、俺は駅に向かった。



「ようやく…………、着いた……」

家を出てから、約一時間ほど。今の時間は十時になろうとしているところ。やっとのこと、葵の家に辿り着いた。この目の前にあるピンポンを押せば、即座に葵が飛んで出てきてくれることだろう。

夏だから仕方ないのだから、途轍もなく暑い。

こうやって歩いている時もそうだが、電車に乗っている時が暑かった。

土曜日、休みの日であるわけだから、自然と人は多いものだ。そんなことをすっかり忘れていた。汗が滝のように流れ落ちてくる。

早く葵の家にいれてもらって、涼しむことにしよう。


「そろそろかな…………」

自分の部屋で、のんびりと護が来るのを待っていた葵は、ゆっくりと部屋にかけられている時計を見上げる。

十時。護と約束をした時間だ。

ようやく、待ちに待った機会だ。

前日とかに急に決めたわけではなく、事前に決めての勉強会。

やっと、この日が来た。

もう高校生であるというのに、今日が、護との勉強会が、護と一緒にいれる、ということが楽しすぎて、昨日から、張り切りすぎていた。勉強もそっちのけで、部屋の片付けをしたり、何となく、美容院で髪をすいてもらったりもした。

葵は、ベットに座ったままの姿勢で、自分の姿を見下ろす。

ミルキーカラーでクラシカルなローズ柄のキャミソールで、同じ柄のショートパンツ。部屋着である。夏だから、いつもより露出度は高い。

護が来るのだから、もう少し別の服装でも良かったのかもしれない。

でも、自分の部屋に呼ぶのだ。わざわざ、気取る必要はない。いつもの自分を見せればいいのだ。

ピンポーン。

と、静かだったこの部屋に、護の来訪を告げる音が鳴る。

「あ、来たっ! 」

葵はサッと立ち上がり、素早く、家前で待ってくれている護の元にへと足を運んだ。


「護君」

俺がチャイムを鳴らしてから、数十秒。葵が出てきてくれた。おぉ、思っていた通り、すぐに出てきてくれた。

「おぅ」

家の門を開けて、俺は葵の前に行く。

「…………、暑いですね」

青く澄み渡っている空を見ながら、言葉通り、本当に暑そうに言う。

「そうだな……」

俺も、その葵の言葉に同意する。

「クーラー効かせてありますから、部屋、行きましょうか」

「うん、ありがとう」

「いえいえ」

葵の後に続いて、俺も家の中に入った。

やっと、涼しむことが出来る。いやぁ、しばらくは、勉強する気が起きないかもしれない。

「冷たいお茶持ってきますから、座って待っていてください」

「あぁ、分かった」

そう言って、俺を案内してくれた葵が部屋から出て行ってしまったので、俺は、葵に言われた通り適当に腰を下ろした。

部屋の大きさ的には、俺の部屋より少しばかり小さいのかもしれない。しかし、必要以上の物を置いていなくて、綺麗に整頓されているためか、広く感じてしまう。

帰ったら、部屋の片付けをしないといけないかもしれない。色んな物が、手の届く範囲に散らばっている。

特に、机周辺が結構散らかっている。心地よく勉強するためにも、片付けなければならない。

「そういえば…………」

葵の家に来るのは二回目だが、今のように、葵の部屋で一人でいることはこれが初めてだ。

まぁ、あの時は青春部の皆で集まって勉強会を開いたわけだし、葵の部屋に入ったのは、俺と成美がポッキーゲームをした後だったような気がする。

そんな色々あった勉強会からそんなに日日が経っていないのに、随分前にやったような気さえする。

これまでの間、短期間でたくさんのことがあったからだろう。

「ふぅ……。涼しい…………」

どれくらい前からクーラーを付けていてくれたのだろうか。この部屋は、結構涼しくなっていた。生き返る。

まぁ、この涼しさで余計に勉強する気が無くなってしまうような気がしないでもない。

勉強をするという名目でここに、葵の家にお邪魔させてもらってるわけだから、勉強をしないわけにはいかない。


台所まで早足で向かった葵は、勢いよく冷蔵庫のドアを開ける。

無論、護に出すためのお茶は、きちんと、昨日から準備してある。その辺は抜かり無い。

お盆を取り出してきて、その上に、同じ大きさで同じ柄のコップを二つ乗せた。そこに、冷えているお茶を注ぎ込む。

「よしっ………………」

しん、とした部屋に、葵のやる気に満ちた声が自然と響く。

勿論、この家にいるのは、葵と護の二人だけだ。恐らく、そのことに、護はまだ気付いていない。

親が帰って来るのは、明日の夜。その頃には、護を家に帰さないといけない。けど、それまでの間なら、ずっと護と一緒にいることが出来るのだ。誰にも邪魔されることなく。

そうなるように、葵は計ってきた。

わざと、自分から青春部の皆には勉強のことを口にしなかったし、心愛や薫から一緒に勉強しようとの誘いも受けなかった。自分の勉強だけで精一杯なのだと、葵はそう解釈する。

だから、今日。葵と護が二人きりでいることに、明日の夜までずっと一緒にいることを、青春部の皆は誰も知らない。

ここからは、自分の番。自分の好きなように、護との距離を詰めることが出来る。

勉強会と言ったが、そんなのは形だけ。いや、勉強しないといけないのは分かってるのだが、今日と明日の目的はそれではない。勉強なんて、二の次、三の次だ。

今は、護との距離を詰めることだけに、意義があるのだから。

「すぅ…………、はぁ…………」

自分の部屋の前にまで戻ってきた葵は、そこで深呼吸をした。

今両手が塞がっているから、自分からこの扉を開けることは出来ないが、護に頼みさえすれば、この扉は開く。それから後は、誰にも邪魔されない。自分と護との時間がそこから始まる。

「うーん…………」

勉強。勉強するためには、雰囲気が必要かもしれない。

今の格好ではなく、それなりの格好をしてみても良いのかもしれない。例えば、女教師みたいな服とか。

しかし。

「そんな服あったかなぁ…………」

ふと、思い付いた案。そんな服をこの家で見た覚えが無い。もしかしたら、親の部屋とかにあったりするかもしれないが、探している時間は無いのかもしれない。

「ちょっと…………、着てみたいかも……、しれません」

そんな思いを胸の中に閉まって、葵は待っている護に、扉を開けてもらえるように声を作った。


護と葵が二人きりでいる裏。

心愛と薫。杏と佳奈。成美と渚。

この三つのペアも、二人きりで勉強をしていた。この輪に入っていないのは、悠樹だけ。

しかし、勉強していないわけではない。悠樹も二人きりで勉強している。

「麻依ちゃん………………」

悠樹は、自分の向かいに座っている自分の友達、芹沢麻依に声をかける。

ちなみに、勉強しているのは、麻依の家。御崎駅から数十分の離れた位置にある住宅街の一角にある家だ。

「……………………ん? どうしたの……? 悠樹ちゃん……? 」

声をかけられた麻依は、クッとかけている眼鏡を押し上げて、ゆっくりと悠樹の顔を見据える。髪の色は杏色で長さは長く、後ろで三つ編みに結っているそんな少女だ。

そんな麻依には、どこからか悠樹と似たような雰囲気を受ける。

「ここ……、教えて…………? 」

「国語………………? あたしも、国語苦手だよ……? 」

「そう、だっけ…………? 」

「…………うん」

互いの口から、ゆっくりと言葉が紡がれる。

「なら……、一緒に考えよ? 」

「ん…………。了解だよ」

ゆっくりと麻依は立ち上がり、悠樹の隣に座る。お互いの肩がぶつかるそんな位置にだ。

「ここ……、なんだけど」

悠樹は、その自分が分からない箇所を指で指し示す。

「んと………………、この時のお嬢さんの心情だよね」

「そう……。何でそっちに加勢したのかが分からない…………」

「これって……、主人公の気を惹きたかった…………んじゃないのかな……? 」

「なるほど」

「だから…….、主人公じゃない方についたんだよ」

「分かった。ありがと」

「ううん……。こちらこそ」





「あ……、そうだ、悠樹ちゃん…………」

悠樹の向かい側に座り直した麻依は、何かを思い出したように悠樹に話しかける。

「ん……? 何………………? 」

「明日、七夕……、だね」

「あ…………、うん」

今日は七月六日。明日が七夕の日であることを、悠樹はすっかりと忘れていた。

……七夕……。

短冊にお願い事を書いて、それを笹の木にくくりつける。彦星と織姫が、一年に一回会える日だ。

「青春部で……、何かしないの…………? 」

「しない…………、と思う」

「そうなの………………? 」

「……うん」

テスト前だから部活動が停止になる前の日。いつも通り部室に集まって、勉強したり、色んなことをしていた。

しかし、土日に皆で勉強しようだとか、七夕の日に集まろうだとか、そんな話題は一切持ち上がることが無かった。

特にイベント事が好きな杏が、七夕という大切なイベントを忘れてるわけがない。あの時は言わなかっただけで、今日、連絡が入ってくる可能性もある。

「じゃ、二人で…………、何かする……? 」

「別に良いけど……」

「……ありがと。決まりだね。それと、もう一つ………………」

「…………? 」

「今日……、泊まっていかない……? わざわざ、明日また集まるのもあれだし…………」

「分かった」

悠樹は、すぐに麻依の案に頷く。

本来なら、護といたい、という思いもある。しかし、前日である今日、もう明日の予定なんて埋まっているだろう。埋まって無かったとしても、それは勉強をするからだろうから、邪魔は出来ない。

「本当に…………、良いの? 」

「うん」

「ありがと」

「ん……」

……しぃとひぃに後で連絡……。

今日の夜に帰るはずだったが、一日延びることになった。連絡しておかないと、後で二人から何を言われるか分からない。

「……………………、七夕……」

誰にも気付かれないようにと、悠樹は言葉を発した。

七夕を意識してしまったからか、護といたい、という思いが強くなってきた。しかし、今回は、叶わない思いなのかもしれない。

……会いたい……。

それだけを、ただ、悠樹は想った。


「護君、開けてもらって良いですか? 」

扉の向こうから、葵の声が聞こえる。

お茶を持ってきてくれたわけだから、両手が塞がっていて扉を開けることが出来ないのだろう。

「分かった、ちょっと待ってて」

腰をあげて、扉を開けてやる。

「ありがとう」

「こちらこそ」

葵がその持ってきたものを机の上に置いたのを確認してから、俺は開けた扉を閉めた。

「はい、どうぞ。護君」

「おぅ、サンキューな」

冷たいお茶を葵から受け取る。

あぁ、コップが冷たい。それだけでも、暑さは少し和らいでくれる。

その冷たいお茶を喉に通す。

「ふぅ、生き返る」

「ふふ。本当に暑いですね」

「あぁ」

飲み干した後のコップをお盆の上に戻して、葵の言葉に頷いた。

「夏…………ですね」

「夏だな…………」

この部屋の中はクーラーが効いているから涼しいが、窓の外に目をやると、その先には太陽があり、どんどんとアスファルトの地面を、これでもかというほどに熱くしている。

こんなに地球も照らしてくれている太陽さんも、毎年毎年、こんなに頑張っていると大変だろう。少しくらい、休んで欲しいものだ。うん、切実に。

「勉強しないとですね」

「あぁ、そうだな……」

ここに来るまでの間に、汗と一緒に勉強する気も流れていってしまったかもしれない。いや、勉強さないといけないのは分かってるんだけど。

俺は、ぐるっとこの葵の部屋を見渡してみる。

「あ………………」

「どうしました? 」

「明日、七夕だな」

七月七日。カレンダーにも、ばっちりと七夕と記されている。俺も、この部屋に掛けられているカレンダーを見て思い出した。すっかりと忘れていた。

「そうですね。でも、杏先輩、何も言ってませんでしたよね……? 」

「そういえばそうだな」

杏先輩は、こういうイベント事には敏感だと思っていたが、違うのだろうか。ただ、忘れていただけかもしれない。

「どっか出かけます? お祭りとかもあるかもしれませんし」

「良いかもな。でも、あったかな…………」

七夕の日にお祭りをやれば良いと思うんだが、この辺り一帯で開かれるお祭りは、七月末にある夏祭りと一緒くたにされているのだ。

まぁ、別々でやるより一緒にやった方が、屋台云々の出費も抑えらるし、その祭りに足を運ぶこちら側のお金の出も減るから、別に構わないんだけど。

「ここの周りは無いですね。ちょっと遠出出来ればありますけど」

「なら、今日明日ではいけないな。それに、行くなら皆で行く方が楽しいだろうし」

「ですね。あ、でも…………、花火くらいはしますか……? 」

「花火…………? 」

「はい。線香花火とか、探したら置いてあると思いますから」

「それなら、やろうか」

「はい」

勉強してご飯食べたり、それだけでは面白くないし、休憩だって必要だ。夏の風物詩である花火を楽しむのも良いことだ。


……花火です……。

無論、護と二人でだ。

本当なら、二人だけで七夕祭りに行きたかった。

でも、近くでは無いし、護は、皆で行くことを望んでいる。そうなら、仕方が無い。無理に、自分の意見を通す必要はない。

楽しむだけなら、ここでも出来る。線香花火くらいなら、部屋の何処かを探せば見つかるだろうし。

それに、皆より先にこういうイベントをやっておけば、多少の優越感も得られる。皆より、少し距離を詰められる。

「じゃ、勉強しましょうか」

「おぅ」

これからの予定も決めることが出来た。後は、その時間が来るのを待っていれば良い。






……ふぅ……。

心の中で、葵は息を吐く。

勉強をし始めてから、まだ十分くらいしか経っていない。でも、葵にしてみたら、もっと経っていてるような、そんな気がしていた。

勿論、勉強しているわけだから、どちらかが口を開かない限り、その場には無言の空間が生まれる。二人の間に発生する音は、時計が時を刻む音、シャープペンシルで文字を書く音、それくらいのものだけだった。

集中しないといけない。それくらいのことは、葵だって十分に分かっている。

でも、護と二人きりで、自分の部屋に護がいる。これで、勉強に集中しろ、というほうが無理なものだ。

どうしても、葵の頭の中は勉強のことより護のことで一杯になってしまう。

この場には、護と葵の二人しかいない。ということは、何でも出来てしまう。ここで何をするかは、葵の自由なのだから。

だけど、何をするべきなのかが分からない。護の一番になるために、何が出来るのかが分からない。

……もしかしたら……。

この悩みは、青春部の皆が持ってる悩みなのかもしれない。

好きになった理由は違えど、皆護のことが好きだということに変わりはない。だから、余計に考え込んでしまうのかもしれない。

葵は、恋愛を行き当たりばったりなものと思っている。気付いたら好きになっている。その人の魅力に引き寄せられる。と。

護の魅力を漢字一文字で表すと、絶対に「優」だ。誰に対しても、護は、これを基準として行動しているのではないかと思えるほどに。

護を好きになったものは、少なからずこの「優」を、身を以て体験している。だから、護の隣にいると、一緒にいると、心を落ち着けることが出来るのだ。ずっと隣にいたいと思うことが出来るのだ。

……護君……。

「なぁ、葵」

「………………、何ですか? 」

一瞬、反応に遅れてしまう。

「まだ勉強し始めたばっかだし、こんなこと言うのも何なんだが……、昼ご飯、どうするんだ? また、葵の母さんが作ってくれるのか? 」

「いえ、私達で作ります」

「俺達で………………? 」

「はい。だって、今、お母さんいないですから」

「そうなのか? まぁ、静かだったしそうかもとは思ってたけど……」

「今この家にいるのは、私と護君だけです」

「じゃ、仕方ないな。悪い、勉強の邪魔して」

「気にしないでください」


この時の護は、また知らなかった。葵の両親が、明日の夜まで帰ってこないということに。



「麻依ちゃん…………」

「何? 」

家に泊めてもらう。

そう決定したなら、それをどう楽しむかが重要だ。勉強もしないといけないが、今は横に置いておく。

「七夕だから……、何か楽しいこと…………、しよ? 」

「楽しいこと………………? 」

麻依は、首をかしげる。

「うん。花火とか…………、どこかお祭りに行ったりとか…………」

「あ、楽しそうだね…………」

「うん、どう、かな…………? 」

「そうだね。この辺り今はお祭りやってないし………………、花火で良い? 」

「うん。 じゃ、千歌ちゃんと唯さんも一緒に」

「分かった」

千歌は麻依の一つ下の妹。唯は麻依の一つ上の姉だ。唯は麻依と同じくおとなしめで、千歌は正反対で活発な元気な女の子だ。

やるなら、人数が多い方が楽しい。ここに護もプラスされたら、もっと楽しくなること間違いなしなんだけど、今回は無理である。

「あ…………、でも…………」

「どうかしたの…………? 」

「唯ねぇ、図書館行ってる…………。そして、千歌は遊びに行ってる」

「それなら……、仕方ない…………」

悠樹は、千歌と唯とも仲が良い。だから、二人が花火に参加出来ないことが分かった。

唯は本を読むのが好きで、一旦図書館なんて場所に入ってしまったら、そこに根を生やしたように閉館時間まで動かなくなる。そして、千歌は、遠出することが多く、場所を聞いてみると三つ四つ隣の街まで行っていたりしていたこともあったりした。

「じゃ、葵ちゃんでも誘おうかな…………? 」

「葵ちゃん…………? 」

悠樹は葵を知っている。御上葵。同じ青春部の部員、そして同じ男の子を好きになっている。

……そっか……。

悠樹は思い出した。葵の家がこの辺りだったということに。この麻依の家に来る時、どこかで見たことがあると思っていたら、こういうことだったのだろう。

「知ってるよね…………? 同じ青春部だし」

「うん、知ってる…………」

「じゃ、誘っても良い…………? 」

「別に構わない……」

「ありがと。メールしてみるね……」

「分かった…………」

葵を誘うことを承諾したが、何か違和感を感じた。

ここ、麻依の家で勉強していたこと。七夕が近いこと。近くに葵の家があること。そして、互いに共通する護の存在。この四つ全てが、偶然に重なっているとは思えなかった。

麻依はベットの上に放ってあった携帯を取り出し、メールを打ち始めた。葵のことだから、勉強中であったとしても、護といたとしても、すぐに返事が返ってくるだろう。

……うーん……。

ちょっとだけ、何かまずいような気がした。


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