三重奏
速足で歩き始めた羚を追いかけるように、俺は校舎内に入った。
俺より先に学校に着いているはずの薫と心愛の鞄が置いてあったものの、教室にはいなかった。どこにいっているのだろう。
「羚もさ、青春部見にくるか? 」
「遠慮しておく。わざわざ、俺だって人の恋路の邪魔はしねぇよ」
(あ…………?)
「恋路って何だ? まさかお前」
(バレてるのか? 羚に)
「そのまさかだ。安田さん達が、お前のことを好きだってのはバレバレだ。見てたら分かる」
「マジかよ……………………。もしかしてさ、お前以外のクラスメイトも気付いてるのか?」
もしバレているとしたら?
いや、そんな事は無いだろう。そういった雰囲気を、教室内では表出した事はない。出してないとしても羚にはバレてしまっているのだから安心することは出来ないが。
「いや。それは大丈夫だ。気付いてんのは俺だけだと思う」
はぁ、良かった。
ん? 良かったのか? 隠しておくつもりではなかったが、こうやすやすと気付かれてしまうと、少しばかり癪である。それも、羚にバレているのだから。
「何で羚は分かったんだ?」
「だってここ最近、安田さんと一緒に登校してくる時なん、かお互い楽しそうにしてるし、成宮、御上さんと話している時もしかりだ」
羚の言う通りではあった。告白の後、三人とは仲良くなったとは思う。楽しいのも事実だ。
「で? 護は三人の中で誰が好きなんだ? やっぱり安田さんか?」
「薫? 薫は一番付き合いが長いからそういう面から考えるとそうかもしれないけど」
「けど、何なんだ?」
「それだけのことで誰かを選ぶのは難しいわけよ。全員の気持ちを知ってるわけだし………………」
言葉を濁すことしか出来ない自分が、情けなく感じる。
「まぁ、なんだ。大変なんだなぁ。いやぁ、もてる男は辛いねー」
羚は俺を落ち込ませまいとして、気楽に話を持っていこうとしたのだろう。しかし、周りにいた男子数名が「もてる男」に反応した。
「なんの話だ?」 「誰がもててるんだ?」 「俺ももてたい!」
おい、おい。何でみんなそう言う話題だけに反応するんだ。わけが分からん。てか、最後のはなんだ? ただの願望じゃねぇか。
「ちょっとおまえら、声が大きい」
羚が、群がってきた男子どもを静止する。
「だって気になるだろ?」
「違うんだ。これは俺が見た夢の話だったんだ」
「なんだ。そういうことだったのか。つまらん」
目を輝かせていた男子どもは何故かがっかりした様子で、自分達の席に戻っていった。
俺は羚に。
「悪いな。助かった」
と耳打ちした。
「気にするな。俺達、友達だろう? 」
「うん。そうだな」
意外な助け舟だった。羚の意外な一面が見れた。女にしか目がないやつだと思っていたが、違うらしい。