水着選び 第二弾っ! #5
成美の顔がすぐ近くにある。互いの息がかかりそうなほどの距離だ。
成美は俺に抱きついてきているわけだから、俺が後ろを向いたらそんな風になるってのは、分かり切っていることだ。
はて……? 何で、抱きつかれているのだろうか……。まぁ、嫌な気はしないから良いんだけど、心臓はバクバクだ。
姉ちゃんに抱きつかれたくらいでは、慣れてるからそこまではならないのだが、その他の人に抱きつかれるというのなら、話は別だ。
いかんせん、こういう公の場所で抱きつかれると、余計に恥ずかしさが増してしまう。
繰り返すが、嫌な気はしない。
「待った? 護? 」
成美は、俺に抱きついた、その体制のまま喋りかけてくる。
「いえいえ」
葵が戻ってから成美が俺の背中に抱きついてくるまでの時間は、十分ほど。待った、というほどの時間ではない。これまでも、間が空く時は、これくらいの時間はかかっていた。
「ん、ねぇ、護…………? 」
「なんですか? 」
「何にもない。呼んだだけ」
そう言うと、成美は、ぎゅぅっと、俺に抱きつく力を強めてくる。それに合わせるように、成美の柔らかいそれが、より俺の背中に押し付けられる。
成美は、中腰になった状態で、護にへと抱きつく。
今日はいつもより暑い日であったが、そんな暑さなど気にならなかった。護を想う気持ちが、それに勝ったから。
護のことが好き。
これは、何年経とうと、変わることのないものだ。もし、叶わないことがあったとしても、諦めるなんてことは出来ない。
勿論、一番にはなりたい。その思いは誰もが持っていて、頑張っている。
だから、今日のこの与えられた一時間はチャンスだ、と言うことが出来るのだ。
「護……? 」
「はい? 」
「今日は、楽しかった…………? 」
「えぇ。まぁ、最初は、女の子の水着なんて選んだこと無かったですし、戸惑ったりはしましたけど」
「今は、もう大丈夫ってこと? 」
「八人分、こんなに一気に選びましたからね………」
少し照れながら、護は笑みを浮かべる。
「病み上がりだったわけだけど……、大丈夫? 体調悪くなったりしてない…………? 」
「あ、それは大丈夫ですよ。ピンピンしてます」
「そう、心配したんだよ……? 」
護が風邪をひいた、と聞いた時は、かなり驚いたものだ。とても心配だった。
「すいません。滅多に風邪は引かないんですけどね」
「そうなんだ」
「はい。それより…………、成美」
「ん? 」
「そろそろ……、水着、買いに行きませんか……? 」
「そ、そだね」
護の背中が、護の近くにいることが、温かくて、本来の目的を忘れるところだった。
少々名残惜しかったが、成美は、ゆっくりと護の背中から離れた。
「じゃ、行こっか」
「はい」
……さて……。
どうしようか。
ずっとこの水着のフロアにいるもんだから、どんな感じの水着がどのあたりにあるとか、大体雰囲気としては捉えている。成美には、これが似合いそうだ、という水着も選ぶことが出来ている。
しかし、一つ問題がある。
ビビっときたものを手に取ろうとしたのだが、その水着の柄もボーダーだった。
これを選んでしまうと、ボーダー柄が三人になってしまう。
心愛に選んだのは、白とピンクのボーダー。葵に選んだのは、ピンクの濃淡があるボーダー。
そして、今、成美に選んだのは、緑色のボーダーの水着だ。
渚先輩のやつと同じように、上はホルターネックになっている。渚先輩のと違う点は、フリルがたくさん装飾されていることと、ショートパンツ型ではなく、ミニスカート型になっているところだ。
結構考えて皆の水着を選んでいたつもりだが、最後の最後で、こうも悩むことになろうとは思わなかった。
「護、良い水着あった? 」
少し遠くで水着を探していた成美が、こちらにへと向かってくる。
「うーん……。まぁ、良いのはあったんですけど…………」
「どうしたの? 私はこれ、とても良いと思うんだけど」
「柄が被るんですよ。葵と心愛のと」
「あぁ、なるほど…………」
「だから、別のが良いかなって……」
俺は手に持っていた水着を、定位置に戻そうとした。
「それ……、戻しちゃうの? 」
成美が止める。
「駄目ですか……? 」
「ダメってわけじゃないけどさ……。別に、柄とか気にしなくても良いんじゃないかな? 」
「そうですか? 」
まぁ、もうすでに、葵と心愛の水着の柄が被ってるわけだし、今更なのかもしれない。あ、決して、手を抜いてるわけじゃないからな?
「うんうん。同じ髪型の人がいても、気にしないでしょ? それと一緒」
「はぁ……」
今のを了承のものだと感じ取ったのか、成美は、俺から水着を取る。
「じゃ、買いに行くよ? 」
「もう行くんですか? まだまだ、時間残ってますよ? 」
三十分ほど残っている。
「それは、私とまだ一緒にいたいってこと? 」
成美は、俺の顔をのぞきこんでくる。いや、まぁ……、それは間違っていないんですけど……。
「まぁ、そんなことは置いといて、明日も学校があるから、時間遅くなったら大変でしょ? 二人きりになることは出来ないかもだけど、学校でも、護と一緒にいることは出来るから」
「まぁ、そうですね」
「ささ、行くよ? 」
そう言うと、成美は俺の腕に自分の手を絡めた。
「わ、分かりました」
上機嫌な成美を横に見ながら、レジに向かうのだった。あ、杏先輩の時と同じ店員さんに会うことになるのか……。