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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜五章〜
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水着選び 第二弾っ! #4

「あ、護君…………」

俺が一歩前に踏み出そうとしたところで、葵は、俺の名前を呼んだ。後ろを振り返ると、葵は顔を赤らめて、モジモジしていた。

「どうした? 」

「えと………、その……ですね…………」

ん? 何か、言うのを躊躇っているようにも見える。葵がこんな風になっているのも、珍しい。

「ん? 」

一旦、目を閉じた葵は、ゆっくりと口を開いて。

「やっぱり良いです……」

「え………………? 」

いつもの葵に戻っていた。少しクールな、多少のことなら物事に動じない葵が、そこにいた。

「今は……、話すべきでは無いかもしれません。今日の目的は、水着を買うことですから」

「まぁ、そうだけど…………」

若干腑に落ちないけど……、葵がそう言うなら仕方ない。

「じゃ、行きましょうか。護君」

俺の隣に来ると、葵はそう言った。

「おぅ」

残り、水着を選ぶことが出来る回数は二回。段々と、選ぶのが難しくなってきている感じがするが、手を抜くわけにはいかない。せっかく選ぶのだから、喜んでもらえた方が嬉しいし、葵達も、そう思ってくれるだろう。

さ、頑張ろ。


「ふぁぁぁぁぁ…………」

一階で、葵の帰りを待っている成美は、大きく伸びをした。それにつられるように、欠伸も出てしまう。

葵が戻ってきたら、次は自分の番。ようやく、自分に回って来るチャンスの時だ。

このチャンスをどう生かすかは、自分次第。そろそろ、他の恋敵(ライバル)との差を、広げにかからないと駄目かもしれない、と成美は考える。

一度、本当に一回だけ、成美は護に告白した。告白した分、少なからず、意識は成美に向いているかもしれない。

でも、護に告白しているのは、自分だけではない。成美が知っているだけで、自分を除いて、葵、心愛、薫、悠樹の四人が護に告白をしている。

今日ここで、他のメンバーから告白されている可能性もあるかもしれない。だって、二人きりになれるチャンスがあるのだから。

だからこそ、頑張らないといけない。護の一番になれるように。

しかし、何をどう頑張るのか。これが、一番難しいことなのだ。どうやって、護に自分を好きになってもらうか。これが分かれば、後は簡単。

「うーん…………」

単純に、好きだと伝えるのが一番良いのかもしれない。だが、こんなにも恋敵がいる今、たったそれだけのことでは無理かもしれない。

「五時前か…………」

葵の番が終わるのを五時半頃だと仮定すると、成美が護と二人でいれる時間は、その時間から六時半までの間となる。

一時間、みっちりと護の隣にいたいが、時間が遅くなってしまってはいけない。

……家に呼ぶ……?

いや、駄目だ。明日が休みなら良かったのかもしれいが、明日は普通に学校がある。それに、病み上がりの護に、無理をさせるわけにはいかない。

「どうしっかな…………」



水着。

身体を隠す面積の大きさだけを考えると、普段の下着と、そう大差無いものかもしれない、と葵は考える。

だが、男の子の前で下着姿になるより水着姿になるほうが、羞恥心は少なくて済む。それは、当たり前の話だ。

しかし、ちょっとだけ、恥ずかしい。護の前で、好きな男の子の前で、水着姿になるというのは。

護が選んでくれるのだから、そのちょっとだけの恥ずかしさは、より増してしまう。

……護君……。

護と出会って、話すようになって、好意を持つようになって、まだ二ヶ月ほどの時間しか経過していない。

心愛や、他の青春部のメンバーとは、同じ位置にいるかもしれない。

しかし、時間によって生み出される信頼関係は、薫には勝てない。

護といつまでも一緒にいたいと願うなら、一番恋敵

ライバル

となるのは、薫なのかもしれない。

それだけ、護と薫の二人の間には、切ろうとしても切ることが出来ない傷ながあるように思えるのだ。

……だけど……。

頑張る。そんなことで、諦めるわけにはいかない。

「あ、これとか…………、どうかな……? 」

すぐ隣にいた護は、葵から離れて、一つの水着を手に取って戻ってくる。


「ビキニ…………、ですね」

俺が葵に選んだのは、柄はボーダーで心愛のやつに似ていて、全体的な水着の形では渚先輩のと似ている、そんな感じの水着だ。

ピンク色で柄はボーダー。ベリーショートパンツというところが、渚先輩に選んだやつと少し似ている。丈は、こっちの方が短いのだが。

「ピンク……、ですか? 」

「あ、嫌いだった……? 」

「いえ…………、そういうわけではないんです……。ただ、私には、こういった明るい色は似合わない気がして……」

「なるほど…………」

やっぱりというか、こう言われるんじぁないかなぁ、とは思っていた。だって、青とか緑とか、そういう見ていて落ち着く色の方が似合っているのは、間違いないからだ。

「でも…………、護君が選んでくれたものです。ここ、試着……、出来ますよね………………? 」

「あぁ」

「なら、一回着てみます。それで、判断してください。私に、似合っているかどうかを」

「分かった」


そんな護と葵の二人を、少し離れた位置から、バレないようにコソコソと観察している二人がいた。

魅散と雪菜だ。

「あれは………………、まーくん……? 」

「そうだね」

お互い、自分達の目に写っているのが、護だと確認し合う。

護の隣にいて、ピンク色の水着を手に持って、楽しげに微笑んでいる女の子の姿もある。

……まーくん……。

「これで、八人目か…………」

「何が、八人目…………、なの……? 」

「ん? 護君が水着を選んであげてる女の子の数だよ」

「え……………………、八人も…………? 」

「そうだよ。雪菜は気づいていなかったみたいだけど」

「……………………」

「仲の良い女の子が多いって話は本当だったんだねぇ……。ねぇ、雪菜? 」

「何………………? 」

「護君の一番になるのは、大変だよ? 」

「が…………、頑張るもん…………」






「ん………………? 」

葵に水着を手渡したところで、何やら背後から視線を感じた。

振り返ってみるが、そこには誰もいない。杏先輩が見にきたりしたのだろうか。

「どうかしたんですか……? 」

「いや……、何でもない」

「そうですか……? 」

「悪いな。試着室…………、近くにあったかな」

何時間もこの場にいるわけだが、どこにあったかなんて、覚えてない。試着室のある場所だけ、頭の中からポロポロ落ちていく。みんなの水着姿だけは、ちゃんと脳裏に焼き付いているんだけど……。何、考えてるんだか……。

「ありますよ。行きましょうか」

「だな」

まぁ、背後の視線が気になるのだが、放っておこう。誰が見てるかは知らないが、気にしないでおこう。


「ま、護君………………」

試着室に入った葵は、カーテンを閉め、すぐに護に声をかけた。

「ん? 何だ……? 」

「そこにいてくださいね……? 」

「あぁ、分かってるよ」

護がずっと待ってれる、ということは分かってる。しかし、何となく、そう言いたくなった。ただ、それだけのことなのだ。

護がこのカーテンの向こうにいる、ということを意識しながら、葵は、自分の服に手をかける。

護が近くにいるということは、今であるなら、護に対してどんな姿でも見せられるということだ。水着姿以外で。

ただ、そうした場合、護からどんな反応が返ってくるのかが分からない。そんなことをする気も無いんだけど。

……護君……。

胸の裡で、想う人の名前を繰り返す。ただそれだけのことで、この胸の中は温かくなっていく。もっと近くに護がいるなら、尚更だ。

今思えば、男の子を好きになったのは、護が初めて。

それまで、男の子と話す機会すらあまり無かった。自分から話そうとしなかったのもあったのかもしれない。

中学の時と同じように、クラス委員長に立候補した葵。その時に、男の子側のクラス委員長として立候補していたのが、護だった。

その時の葵に、どんな気持ちが作用したのか。それは、本人であっても分からないが、その時だけ、少しくらいは話してみようと思ったのだ。一年間、共に委員長として頑張る間柄として。

最初は、それだけの関係性にすぎなかった。

しかし、今は違う。気が付けば、惹かれていた。

本当に、気が付けば、、、、、だったので、理由は分からない。

だけど、この好きだという気持ちは負けない。負けられない。ライバルが多いからこそ、頑張れる。挫けそうになる時も、少なからずある。

しかし、そういう時は、護のことを考える。護のことを想うと、それだけで頑張ることが出来る。護の一番になろうと頑張れる。

「護君………………」

今度は、静かに声を発する。より、自分の想いを高めるために。護に想いを伝えるために。



「そろそろ…………、かな」

腕時計をずっと見ていた成美は、五時半になったところで、ゆっくりとその身体を持ち上げた。

ようやく、自分が護と二人きりになることが出来る。

いつでも、どんな時でも、護と二人きりになれるわけではない。二人きりになるためには、自分からチャンスを作るか、今回のようにチャンスを活用しないと、二人きりになることは、絶対に出来ない。

「さてさて…………」

エレベーターの先を見て、葵の姿を探す。まだ、確認することは出来ない。

恋愛。恋。今の成美は、護に恋をしている。護のことが好きだ。

もうすでに、自分の気持ちは護に伝えている。だから、もっと、自分のことを護に好きになってもらわないといけない。

この好きだという気持ちが相手に伝わり、付き合うことが出来た時、初めて、他の恋敵

ライバル

に勝てたということになる。そうなれば、必然的に、その恋を叶えることが出来た勝者と、叶えることが出来なかった敗者に分かれる。

当たり前だが、勝者は一人。敗者は七人だ。この敗者は、今後、増えていく可能性があるかもしれない。いや、護のことだから、増える。そう思える。

「成美先輩。おまたせしました」

「お、おかえりおかえり」

はっとして顔を上げると、そこには、ここを出発した時よりもにこやかな顔をしている葵がいた。

「やっとですね」

「本当だよ。待ちくたびれた」

「それじゃ、いってらっしゃいです」

「うんっ。行ってくる。私が帰ってきたら、もう帰る感じかな? 」

「どうでしょう……。恐らく、そうなると思います」

「まぁ、時間も遅いからね」

「ですね」


「ふぅ………………」

俺は、ふぅ、と一息ついた。葵の番が終わったので、これで八人消化したことになる。残るは、後成美だけだ。

成美の水着を選び終わった頃には、六時半くらいになっているだろう。

それから、どっかに寄ったりはしないと思う。明日が休みであるなら、そういうことにもなるかもしれないが、残念なことに、明日は普通に学校がある。今日は、学校の創立記念日や何ならで休みだっただけだ。

朝からずっと皆といたから、休みの日っていうか、いつも通りな感じという雰囲気が漂っていた。

学校にいても、休みの日でも、どちらであっても、青春部の誰かといることには変わりない。やはり、俺にとって、青春部は、とても大きな意味を為している。もし、青春部に入っていなかったら、どんな部活に入っていたのだろうか。見当もつかない。まぁ、中学と同じように部活に入らず、薫のハンドボールを応援していたと思う。

薫がハンドボールをあまりしなくなってしまったためか、俺もハンドボールをしなくなってしまった。久し振りにしてみても良いかもしれない。まぁ、そんな時間があるかどうかは分からないけど。

「護っ!! 」

「わ……っ」

ベンチに座っていた俺の背後から、成美が抱きついてきた。

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