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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜五章〜
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水着選び 第二弾っ! #1


「そろそろ……、行きますか? 杏先輩? 」

話し込みすぎてしまったのか、気が付けば二時を回っていた。そろそろ、第二弾を始め良い頃合いだろう。

ここに戻ってきたのが一時半くらいだつたはずだから、三十分以上喋っていたということになる。

話していたといっても、話の半分以上は、水着の話だった。まぁ、

それだけ、皆、今日を楽しんでいるということだろうか。俺の選ぶセンスも良いようで、後残っている杏先輩達の水着を選ぶ時も、気合いが入る。

「ん…………、そうだね」

杏先輩のテンションが、いつもより低いようなそんな気がした。次は杏先輩の番だというのに……。もしかして、何か企んでいたりするのだろうか。まぁ、そんなことを考えてても仕方ないのだけれど。

「それじゃ、第二弾の開始だね。パターンは朝と一緒で、一人一時間まで」

「了解です」

杏先輩の言葉に、皆が頷く。

残るは、杏先輩、真弓、佳奈、葵、成美の五人だ。

全員に一時間使ってしまうと、ここを出るのが七時を回るということになる。それだけは避けたい。

だけど、一時間近くは使ってしまうかもしれない。皆、それぞれ違う水着を選んであげたいし、後になればなるほど、選択肢の幅が狭まる。なるべくそうならないように選んできたつもりだが、どうなるか分からない。俺が選んだものを、絶対に気に入ってくれるという保証も無いし。

「じゃ、行ってくるね。さ、護。行くよ」

「あ、はい……」

さっきのしおらしさは何処へやら。いつも通りの杏先輩がそこにいた。

うん。杏先輩はこれが良い。静かにしているより、元気な方が杏先輩らしいし、その方が、こっちも元気がもらえる。先輩が落ち込んでいたりしたら、心配になるし。

まぁ、兎にも角にも、水着だ。水着。

さーて、頭を悩ませにいきますか。


「ね、護」

「どうしましたか……? 」

四階に着くと、杏先輩が距離を詰めながら聞いてきた。

「手、繋ごっか? 」

俺より一歩前に出て、こちらに手を差し出してそう言ってくる。

俺は、その手を握り答える。

「別に構いませんが……、どういう心境の変化ですか? 」

「どういうこと…………? 」

「いつもの杏先輩なら、確認なんか取らずに、俺の手を握りますよね? 俺の姉ちゃんと同じように」

「良いじゃん。気にしない。それより、護はどんな水着を選んでくれるのかな」

何か釈然としないが、まぁ、良いか。こんな、少しいつもより元気な杏先輩を見れるわけだし。

「じゃ、杏先輩は、好きな色とかあります? 」

これの答えによつて、水着の種類はともかく、どんな色で攻めるのかを考えることが出来る。

「好きな色…………? 」

「はい」

「うーん、どうだろう。あまり色は気にしないし…………。強いて言うなら、黒とか? 水着だしね」

「分かりました」

俺のイメージと一致している。これは、選びやすい。

「何、護も黒色が好きだったりするの? 」

「まぁ、それなりには、杏先輩に似合う色だとは思ってますよ」

「私に似合う色……? 」

「えぇ」

「じゃ、期待してるよ」

そういいながら、杏先輩は、俺の手を離したかと思うと腕に抱きついてきた。当たってます、杏先輩。

まぁ、良い感触?を味わえるわけだし…………、まぁ、良っか……。

「護、顔が赤くなってるよ? 」

「俺だって、男ですから」

むにっと。さらに杏先輩は押し付けてくる。む、何するんですか…………。


杏先輩の攻撃に、その柔らかさに散々頭を揺さぶられながら、精神を持っていかれないようにしながら、水着を選んでいた。

ピンクやら、白やら、緑やら、黄色やら。色々試してみたりしたのだけど。

「杏先輩」

「ん? 」

「やっぱり、これが似合うと思います」

「最初にも言ってたやつだね」

「はい」

黒のビキニという点では、薫に選んだやつと一緒なのかもしれない。しかし、違いはちゃんとある。これにはスカートが付いているし、薫のが黒一色だったのに対して、この水着には、白のレースが付いている。

商品説明のポップに、小悪魔な格好で云々と書いてあったが、杏先輩がこれを着たら、小悪魔どころではなくなる気がする。

薫に黒を選んだから、杏先輩は違う色にしようと思っていた。しかし、何というか、他の色じゃピンとこなかった。やはり、黒が似合いそうというイメージが、俺の中にはある。

「これが一番似合う? 」

「はい」

「ちと、高い気もするけど…………」

お値段は六千円ほど。うん、杏先輩の言う通り、高い。まぁ、少し買うのを躊躇してしまうのも分かる。もし、俺が杏先輩の立場だったとしても、買うかどうか考えてしまうだろう。

「護が選んでくれたやつだからね。うん、買ってくるよ」

「ありがとうございます」

良かった。これで、後一ヶ月か二ヶ月経てば、この水着を着た杏先輩を見ることが出来るわけだ。水着姿を見れるのは、皆見れるのだけれど。

「私の水着姿…………、そんなに見てみたいの……? 」

「え、あ…………、まぁ……」

「ふふ、護。顔に出過ぎだよ」

「マジですか…………」

「うんっ」

水着姿を見たいという気持ちは間違っていないし、まぁ、良いか。

「じゃ、買いに行くよ」

「それじゃ、エレベーターの所で待ってます」

「私がこの腕を離すと思ってるの? まだ、私の番なのに? 」

「ん………………」

杏先輩は一回も試着していないから、ずっと俺の腕にくっついていたままだった。

このままレジに行くの?

これまで、心愛達の水着を買った時、俺はレジまで付き合わなかった。レジで会計をしてくれる人も女性の方だろうし、何かこんなところを見られると、居た堪れない気持ちになるだろうと思ったからだ。

「分かりました。ついていきます……」

「さっすが、護」

まぁ、別に気にしなくても良いのかもしれない。


レジの所に行くと、案の定、会計を担当しているのは女性だった。

このフロアにはここしか会計をする場所か無いらしく、他の客なども案外たくさんいた。

そんな人達の視線が、俺を捉える。

うーん…………。毎回思うのだが、こういう視線には慣れない。





……あぁ、もう……。

杏が皆の元へ戻ってから、護は苛立ちを覚える。自分に対する苛立ちだ。

無論、杏に返事を出来なかったから。

杏と付き合える。これほど魅力的なことは、そうそう無いだろう。青春部のメンバーは、杏を筆頭に、御崎高校の男子からの印象がとても高い。

そんな青春部に入っていて、その青春部のメンバーの半分以上の人から告白を受けている。そんなことを他の男子生徒に暴露したなら、護の命がどうなるかが分からない。

それほど、青春部の面々と仲良くなれる、告白されるということは、素晴らしいことなのだ。

勿論、護もその事を知っている。だからこそ、迷ってしまうのだ。

一人一人が個性を持ち、一人一人に魅力がある。だから、余計に選べない。皆のことを好きになってしまう。

こんな悩みは、贅沢なのかもしれない。

皆とこのままの関係を続けることが出来るのなら、それが一番良いだろう。しかし、そんなことは出来ない。一人選ばなければならない。いや、そう考えるのが駄目なのかもしれない。

その中から誰かを、一心に好きになれれば良いだけの話だ。

だが、それが難しい。だから、迷ってしまう。こういうスパイラルに陥ってしまうのだ。

……はぁ……。

もし、あそこで杏の案を飲んでいたらどうなっていただろうと、思ってしまう。

仮ではなく本当に付き合うのだから、今のこのスパイラルからは抜け出せるだろう。

しかし、それでは何かが違う気がするのだ。

……決めなければならないよな……。

焦ってはならない、というのは分かっている。しかし、心の中に焦燥の気持ちが溢れてしまう。

「あ………………」

「あ……………………っ」

「わ……………」

気分を切り替えようと前を向くと、そこには、護の前をこそこそと通り過ぎようとしている羚と栞の姿があった。


「羚、それにしーちゃん…………」

まさか、こんなところで出会うことになろうとは、全くと言っていいほど思っていなかった。

「お、おぅ」

「き、奇遇だね……。宮永っち……」

「そうだな」

凛ちゃんと楓ちゃんの姿が見当たらない。今日は、二人で行動しているのだろうか。

「あ、そういえば宮永っち………………」

「ん? どうしたんだ……? 」

しーちゃんは、一回羚の方を見てから俺の方を見る。

俺の目からは、しーちゃんが、羚に何か確認を取ったようなそんな気がした。

「私と羚君……。付き合うことになったの

「へぇ…………、そうなんだ……」

へぇ、羚としーちゃんが付き合う…………。

「はぁ……!? マジで…………!? 」

「そんなに驚かなくても良いだろう……? 」

「う、うん。マジだよ、宮永っち」

二人の反応を見る限り、どうやら本当のことらしい。

びっくりし過ぎて、頭が少し混乱している。

しーちゃん、楓ちゃん、凛ちゃんの三人が、羚のことを好きだということを、何処と無く俺は感じ取っていた。

だから、羚が誰を選ぶのか、ということに、ちょっとばかり興味があった。こんなすぐに分かることになろうとは、思っていなかった。

「二人も…………、水着買いに来たのか? 」

「本当は服を買いに来たんだけど、もうすぐ夏だし、水着を買ってみるのも良いかなって思ったの。羚君もいることだし」

「なるほどな……」

水着を買いに来た理由は、俺達の理由とさほど変わらない。皆、考えることは同じだろうか。

「護がここにいるってことはさ、他の青春部の人達もいるのか? 」

「あぁ、全員いるな」

「ということは、全員分の水着姿を、護は見れるってことか? 」

「まぁ、そうだな」

「羨ましいな…………。お前……」

「羚君………………? 」

いつも通りの羚の発言に、しーちゃんは、羚の手を強く握るという形で反応した。他の女の子に気を取られないで、という意思表示だろう。

「わ、悪い悪い………………」

「もう、羚君ったら…………」

まぁ、しーちゃんがそういう行動に出る理由も分かる。だって、羚は、もうしーちゃんの彼氏なのだから。

俺が青春部の中の誰かと付き合うことになれば、その俺の彼女となってくれる人は、ヤキモチを焼いてくれるのだろうか。

もしそうなったら、どうなるのだろうか。

「宮永っち…………? 」

「あ、悪い…………」

ボーッとしてしまつた。

「それじゃ、俺達はこれで」

「そうだな。邪魔して悪かった」

「気にしないで、それじゃ、また明日学校でね」

「おぅ」


「護。おまたせ」

羚達が去ってすぐ、真弓がやって来た。

そうだ。次は、真弓の水着を選ぶ番だ。気持ちを切り替えなくてはならない。告白云々の件を、早急に考えなくてはならない、ということは分かっている。

「さっきのはお友達? 」

「えぇ」

「見た感じ、カップルになりたてって感じだったけど」

「そうですけど…………、よく分かりましたね」

「分かるもんだよ。恋をしている人ってのはね」



レジからそそくさと退散し、エレベーター近くのベンチに戻り、俺は一息をついた。

「まだ…………、時間ありますね……」

残り時間は二十分ほど。さて、どうするか。

「護は……、どうしたい? 」

「どうしたいって言われても…………」

何かすると言っても、話をするくらいしかすることが無いと思う。

「じゃ、一つ聞きたいことあるんだけど…………。良い……? 」

「えぇ……。良いですよ」

何を聞かれるのだろうか。

「護は…………、誰かと付き合ったことある……? 」

「へ……? いや、別に無いですけど…………」

小学校や中学校の時から、女の子と遊ぶことは多かったが、付き合うというところまで進展したことはなかった。

高校になってからも、受けた数々の告白を保留の形にしてしまっている。返事をしなければならないのは分かっているんだけど。

「そうなんだ……。じゃ、薫達から受けた告白には、まだ返事してないんだね……」

「まぁ、そうなりますね…………」

「何れにしろ、返事はしないといけないわけだよね? 」

「はい……」

「誰かとは、付き合うことになるわけだよね…………」

「えぇ」

俺にその中から選べるほどの判断力が出来るか。一心に好きになれる人が出来れば。だ。

杏先輩は、一体何が聞きたかったのだろうか。俺の覚悟? みたいなのを、確かめようとしたのだろうか。分からん。

「じゃ、試してみない………………? 」

「何を…………、ですか……? 」

「だから…………っ」


杏は、覚悟を決める。試してみる、と言った手前、そんな覚悟は必要ないのかもしれないが……。

「私と付き合ってみない……? 今後のために」

「へ……? え、あ………………」

こちらが思っていた通り、護は困惑している。もし、立場が逆であるなら、護と同じ感情を抱くだろう。

本来なら、実際に付き合いたい。しかし、今すぐにはそれは実現しない。

そうであるなら、今だけという形で付き合ってみるのも悪くない。その間に、自分を好きになってもらえば良い。ただ、それだけの話だ。

これが本音。しかし、今、この本音を言うわけにはいかない。ここは、建前が必要。

「実際に付き合う時に失敗しないように、私と練習しようってこと……」

「で、でも………………」

「私じゃ…………、不満……? 」

「そういうわけじゃないんですけど………………」

そう言葉を作った護は、頭をかきながら言葉を続けようとする。

「………………ん? 」

「杏先輩は………………、それで良いんですか……? 」

「良いよ」

嘘だ。

そんな仮初めの関係で満足出来るほど、この気持ち、この護に対する気持ちは薄いものではない。

だけど、今はこれで満足。

それだけ、杏にとって護の存在というのは大きいものである。しばらく経てば、仮じゃ満足出来なくなるのかもしれない。

しかし、今はこれで良い。これ以上のことは望まない。

「本当に…………、良いんですか……? 」

護は、まだ迷っている。そうさせているのは、自分だ。

「うん、私を練習台にしてくれて構わないよ」

嘘、嘘、嘘、嘘、嘘、嘘。

杏は、嘘を重ねる。少しだけ、嫌な気分に陥る。

しかし、それを表に出すわけにはいかない。それを感じられてしまうと、仮の関係にすらなれない。だから、明るく振る舞う。また、嘘に嘘を重ねるというわけだ。

「杏先輩と付き合えるなら、それは嬉しいですけど……」

「けど…………? 」

「いえ……、やっぱり良いです」

護は、何かを渋っている。そうなる気持ちも分からなくはない。

「本当に付き合う? 仮じゃなくてさ……」

これ以上、杏は嘘を重ねることが出来なくなった。今言うつもりではなかったことまで、口走ってしまった。付き合う、という言葉を。

杏は、護の顔をじっと見つめる。護の真偽を問うように。自分の想いを伝えるかのように。

「私は…………、護のこと好きだから」

言ってしまった。ムードのへったくれもあったりしない。

「先輩………………」

「嘘じゃないよ。私は三年で護は一年。この差は大きいものかもしれないけど、私はそれでも良いの。護が葵達や悠樹、そして成美から告白を受けているのも知ってる。その上で、私も含めて考えてくれると、嬉しいかな」

「………………先輩」

「どう…………、かな? 」


Α


「さ、さっきも言いましたけど、先輩と付き合えるのは魅力的です……。だけど……、保留にさせてくれませんか? 俺にはまだ…………、皆の中から一人は選べないです……」

「まぁ、そうだよね。皆可愛いからね」

「はい…………」

告白をした六人。そして、まだ告白をしていない二人を含めると、本当に選べないと思う。

この中から選べというのも、至難の技。

裏を返せば、まだ一人と決められていないということ。誰にもチャンスがあるということ。

「なら、待つから。いつまでもいつまでも…………」

「ごめんなさい…………」

謝罪の言葉が、護の口からゆっくりと発せられる。

「謝らないで。私は、私達はいつまでも待つよ」

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