違和感
おかしい。
杏の隣に座っている悠樹は、今の杏の行動を見て、そう思った。
はっきりと、杏は護の名前を呼んだはずだった。その杏の声は、悠樹にも聞こえていた。しかし、護に聞かれて、何も無かったかのような返事をしていた。
いつも通りの杏であるなら、ここで話に割って入ってるはずだ。
いや、そもそも青春部で集まっている時に、杏が話題の中心にいないということ自体が珍しい。
……何か企んでいる……?
いつもよりしおらしい杏を見て、悠樹はそう感じ取ることが出来た。
次は杏の番だ。だから、それを考えていて、静かになっているのなら、何ら問題は無い。
しかし、それにしても、杏は、いつもより静かすぎるのだ。
佳奈の次に青春部に誘われた身として、杏のことは、少なからずよく知っているはずだ。だからこそ、今の杏に恐怖を感じる。何か、やってくるんじゃないか、という恐怖を。
悠樹は、護のことが好きだ。その気持ちは、誰にも負けていないと自負している。
だがしかし、選ぶのは護だ。自分達ではない。だから、皆、振り向いてもらえるように、アタックをしかけているのだ。
「………………よし」
悠樹の耳に、そんな杏の小さな小さな声が聞こえた。この音を聞き取れたのは、恐らく悠樹だけだろう。慌てて他の皆を見てみたが、それに反応を示している者はいなかった。
悠樹は、ゆっくりと杏に視線を送る。
「……………………っ」
杏の目に、覚悟が灯った。
こんなに、気合いを外に出している杏を、悠樹はこれまで見たことが無かった。
瞬時に、悠樹は思った。
……取られる……。と。
……ん……?
護の話に相槌をうっていた佳奈は、一つの違和感を感じた。
……悠樹……?
悠樹は、何故か杏を一点に凝視していた。その悠樹の顔には、少しの恐怖が浮かんでいた。
……そういえば……。
杏は、さっき、護の言葉を予期していなかったかのような返事をしていた。
ボーッとすることなど、誰にでもある。しかし、杏のそれは、その表現では表しきれないようなものだった。
何かを考えているように、佳奈の目には映った。それも、強い意思を持って考えているように。
幼馴染として、友達として、親友として、杏とずっといた佳奈であったが、こんな杏を見たことが無かった。
……何をしようとしてるんだ……?
それゆえ、何故、杏がそうなっているかが分からなかった。
次、水着を選んでもらえるのは杏だ。しかし、ここまで気合いを入れるようなものではないと、佳奈は思っていた。
……杏の中では違うのか……?
何か、ここで決めようとしているようにも、佳奈の目には映った。
……杏……。
同じ気持ちを抱いてる者として、今、杏が何を考えているかが分かった。
護との距離は、それなりに縮まってきているはずだ。家にも来てもらったし、一緒に寝たし、看病もしてもらった。
だから。
……負けるつもりはないからな……。