杏の想い
……ふふっ……。
杏は護といると、護のことばかり考えてしまい、護を思うにつれて起こる様々な感情が、心にまつわりついて離れない。
護と初めて会った時、すなわち、今から約一ヶ月前。自分が護に惹かれることがあろうとは、一切思っていなかった。
護に魅力がなかったというわけではない。もうその時点から、護の隣には、心愛、薫、葵の三人がいた。
その時に、杏は思ったのだ。この男の子を好きになったとしても、その恋は絶対に叶わないと。なんたって、三人の想いの強さが感じられてしまったから。
だから、杏は、三人を応援しようと決めた。今日までの間、それに基づいて行動してきたはずだ。
しかし、気付いたら護のことを好きになってしまっていた。いや、前から好きだったのかもしれない。そんな思いを、知らず識らずの内に心の奥底にへとしまっていたのかもしれない。
はっきりと、この思いを自覚したのは数日前、護の家に泊まった時の夜だ。
一度強く想ってしまうと、もうこの気持ちを変えることは出来ない。だから、他の皆にチャンスを与えつつ、自分にもチャンスが巡ってくるようにと、護と二人きりになれる時間を、最長一時間とした。
もし、今日自分の思いが叶ってしまうのなら、それは麻姑掻痒。そんなに思い通りに進んでしまうと、返って怖くなってしまう。
これまでが上手く行き過ぎていたのだ。
護は、自分がこう言えば、それをしてくれようとする。自分のことを第二に考え、他人のために行動することが出来る、そんな男の子だ。だからこそ、自然と惹かれたのだろう。
「……………………」
隣に座っている護は、楽しげに薫達と話している。護の周りには、常に女の子がいる。折花攀柳、百花繚乱ということだ。
次は自分の番だ。護に水着を選んでもらえる。
……ふぅ……。
杏は、また、誰にも気付かれないように舌舐めずりをした。
この恋は、叶えられるかどうか分からない恋だ。ライバルが多すぎる。しかし、だからといって、弱気になるわけにはいかない。弱気になれば、自分に巡ってくるチャンスは減るし、叶うものも叶わなくなってしまう。
「………………護」
愛おしく、愛おしく、護の名前を口にする。気付かれないようにだ。
まだ、自分の思いに気付かれてはならない。やるならやるで、驚かせてやりたくなる。
「杏先輩……? 呼びました……? 」
「にゃっ………………!? い、いやいや……、何でも無いよ」
「そうですか…………? 」
どうやら、声は護に届いてらしい。
……はぁ……。
いつもの自分であるなら、ここで話に入っていけるほどの行動性みたいなのがあった。しかし、今日の杏はそう出来なかった。
何かが、杏をそうさせていた。