093、祭りの後
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広場は、もう静かだった。
さっきまで人で埋め尽くされていた場所には、提灯の残り火がゆらりと揺れるだけ。
やぐらの影が長く伸び、夜気がゆっくりと熱を冷ましていく。
遠くで、最後の太鼓が片付けられる音がした。
「終わったわねえ」
やぐらの縁に腰掛けた紫妖狐が、空を見上げる。
九つの尾が、疲れたようにゆるく広がっていた。
「毎年言ってる気がする」
隣に座るライが笑う。手にはまだ酒瓶。
「だって毎年終わるもの、祭りは」
「始まると早いんだよな」
「楽しい時間ほどね」
三人目――少し離れて立っていたヒサメが、静かに歩み寄る。
結界の余韻がまだ彼女の周囲に淡く残っていた。
「町の魔力の流れ、安定しています。今夜はよく眠れそうです」
「おつかれさま、ヒサメ」
妖狐が柔らかく笑う。
「あなたのおかげで、誰も不安にならずに済んだわ」
「いえ。私はただ、薄く覆っただけです。……皆さんの笑い声の方が、よほど強い結界でした」
ライが鼻で笑う。
「違いねえな」
少しの沈黙。
虫の声が戻ってきている。
提灯の火が、ぱち、と小さく鳴った。
「……この匂い、好きだわ」
妖狐が言う。
「酒と、土と、汗と、火薬と。生きてる匂い」
「年寄りくせえこと言ってんな」
「長生きしてるんだから仕方ないでしょ」
ヒサメは、そのやり取りを静かに聞いていた。
視線は広場に落ちている。
「……祭りの後って、不思議ですね」
「何がだ?」
「楽しかった分だけ、少し寂しい」
妖狐の尾が、ゆるりと揺れる。
「余韻ってやつよ」
「滅びた世界には、余韻なんてありませんでした」
夜風が吹く。
誰もすぐには言葉を挟まない。
「終わる前に、終わっていましたから」
ライが酒をひと口飲み、空を見る。
「じゃあ覚えとけ」
「?」
「この寂しさはな、次がある証拠だ」
ヒサメがゆっくり瞬く。
「また来年があるってことだ」
妖狐が小さく笑った。
「ええ。だから私はこの夜が好きなの。終わりじゃなくて、“続きの約束”だから」
遠くの提灯が一つ消える。
夜が深くなる。
「来年はもっと酒を用意させよう」
「踊りも新しい振り付けを混ぜたいわね」
「……結界、花の形にしてみましょうか」
二人がヒサメを見る。
「できるの?」
「練習します」
「真面目だなあ」
「いいことよ」
妖狐は立ち上がる。
尾が夜風にほどける。
「守りましょう」
静かな声。
「来年も、この夜を」
ライも立つ。
「当たり前だ」
ヒサメが頷く。
「はい」
三人の影が、提灯の残り火に揺れる。
広場は静かだった。
だがそこには確かに、
来年へ続く約束が残っていた。
祭りが終わった後ってどこか寂しさが残りますよね。でも、それは次へとつながる約束でもある。
このように廻っているんですね、世界は。感慨深い。




