092、祝いの宴、お狐様への捧げもの
AI作成
夏の夜は、光で満ちていた。
城下町の中央広場。
そこに組まれた大きなやぐらの周囲には、無数の提灯が揺れている。
橙の光が人々の顔を照らし、笑い声と太鼓の音が混ざり合っていた。
年に一度の――狐火和国の盆踊り。
人々が“お狐様への感謝”を込めて舞う夜だ。
「太鼓、もう少し強くいくぞー!」
「おう!」
どん、どん、と腹に響く音が夜を震わせる。
その輪の外、少しざわめきが広がった。
「お狐様だ!」
「九尾様がお見えになったぞ!」
人垣が自然と割れる。
そこに立っていたのは、紫の髪を夜風に揺らす女性。
人の姿をしているが、背後には九つの狐の尾。
紫妖狐。
「まあまあ、そんなに畏まらないでちょうだい」
くすりと笑う。
「今夜は無礼講よ?」
その声に、場の空気が一気に和らぐ。
「お狐様! これどうぞ!」
差し出される杯。
「まあ、気が利くわね」
受け取り、すっと飲み干す。
「うん、いい酒。今日のは当たりね」
周囲がどっと笑う。
「おーい! こっちにも酒あるぞー!」
やぐらの下で手を振るのはライ。
すでに出来上がっている。
「ちょっとアンタ、もう顔赤いじゃない」
「これは気合だ!」
「ただの酒よ」
二人は並んで座り、杯を重ねる。
神と雷鬼。
この国では畏れられ、同時に親しまれている存在。
だが今はただの“飲み仲間”だった。
「団長、警備異常なしです!」
浴衣姿のエンジが報告に来て、
段差につまずいた。
「わあっ」
「……気をつけろ」
月詠はため息混じりに言うが、その尻尾は少しだけ揺れている。
「団長も少し休んでくださいよ」
「任務中だ」
「団子くらいなら!」
「エンジ」
「はい」
輪の外で、ヒサメが静かに空を見上げていた。
薄く張られた結界が、祭りの空気を優しく包んでいる。
「……いい夜」
滅びた世界では、もう見られない光景。
太鼓、笑顔、酒の匂い。
彼女はそっと目を細めた。
「ニンニン! 忍者盆踊りの舞!」
カナミが輪に飛び込み、なぜかアクロバティックな動きを混ぜる。
「それ盆踊りじゃない!」
「忍法、回転提灯斬り!」
「斬るな」
妖狐は立ち上がった。
「踊るわよ」
尾が、ふわりと広がる。
人々が輪を空ける。
だが彼女は中心には行かない。
そっと輪の中へ入る。
人と同じ位置で。
ゆったりとした所作で手を上げ、足を運ぶ。
尾が、提灯の光を受けて揺れる。
神々しさよりも先に来るのは、温かさだった。
「お狐様、上手い!」
「当たり前よ。毎年踊ってるんだから」
笑い声が重なる。
子どもがそっと尾に触れる。
「ふふ、くすぐったいわ」
太鼓の音。
酒の匂い。
提灯の揺れる影。
月詠はその光景を見て、小さく息を吐いた。
守るべきものは、これだ。
何も起きない夜。
誰も空を見上げて不安にならない夜。
妖狐は、踊りながら思う。
(……この時間が続けばいいのに)
だが口には出さない。
代わりに、また杯を掲げる。
「ほらライ、次!」
「負けん!」
狐火和国の夜は、笑い声に包まれて更けていった。
和の国は日本のようで日本とは大きく違う、まったく新しい世界観ですね。
盆踊りに混じるいろんな人種が暮らす世界。控えめに言って最高です。




