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ラスティア群像劇~第1章~  作者: niseimo38
第1章~そこで暮らす者たち~

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091、小さな裂け目と修復師

AI作成

それが起きたのは、三日後の夜だった。


 東の町外れ。

 昼間は人の出入りもある細い路地は、夜になると灯りも届かず、ただ静まり返る。


 最初に気づいたのは月詠だった。


「……止まれ」


 短い声に、後ろを歩いていたエンジが足を止める。


「どうしました、団長?」


「音が、吸われている」


 虫の声がない。

 風の音もない。


 静かすぎる。


 空気が、重い。


「この前の場所……ですね」


「ああ」


 あの日、一瞬だけ揺れた路地。


 今、そこには――


 空間の“ほころび”があった。


 黒ではない。

 光でもない。


 まるで布を無理やり引き裂いたあとの、歪な継ぎ目のようなものが、空中に浮いている。


「裂け目……未満?」


「“縫われかけている”状態だな」


 完全な裂け目ではない。

 だが、ゆがみでもない。


 不安定な中間。


 そこから、細い何かが垂れていた。


 糸のような、光の筋。


「……あれ、動いてます」


 エンジが息を呑む。


 その“糸”は、空間の綻びをゆっくりと撫でていた。


 優しく。

 丁寧に。


 まるで――修復するかのように。


「団長、あれって」


「ああ」


 月詠は刀に手をかけながらも、抜かなかった。


「敵意はない」


 そのとき。


 ふ、と糸が止まる。


 空間が小さく震えた。


 エンジは反射的に構える。


 だが。


 次の瞬間、綻びは、すっと閉じた。


 縫い跡すら残らない。


 ただの、夜の路地に戻る。


 音が戻る。

 虫が鳴く。

 風が通る。


「……終わった?」


「終わったな」


 エンジはしばらく動けなかった。


「今の、何ですか」


 月詠は少し考え、そして言った。


「“この世界の理”だろう」


「理?」


「我々が守る前に、誰かが守っている」


 それが誰なのかは言わない。


 言う必要もない。


 この国には、すでに“神域”がある。


「でも団長」


「?」


「なんか……あれ、寂しそうでした」


 月詠は一瞬だけ目を細める。


「……見たのか」


「なんとなく」


 糸は、優しかった。

 でも、どこか遠く、ひとりで仕事をしている感じがした。


 同じ夜。


 山の神社。


 九つの尾を揺らす妖狐が、静かに杯を傾けていた。


 その隣でライが言う。


「一つ、縫われたな」


「ええ」


 妖狐は笑う。


「相変わらず、仕事が早いこと」


「手伝わなくていいのか?」


「私の領域の外よ。あの子の仕事」


 誰のことかは言わない。


 言えば、この穏やかな夜が少しだけ遠くなる気がしたから。


 杯の酒が、月明かりを映す。


「……見てるのね、今でも」


 誰にも聞こえない声。


 だがその目は、どこか優しかった。


 町では翌朝。


「昨日この辺、なんか変な空気だった気がするなあ」


「気のせいだろ」


 人々は笑いながら通り過ぎる。


 何も知らないまま。


 縫い留められた世界の上を、今日も歩いていく。


ここでは唐突に現れた小さな裂け目と、それを修復する場面です。

自警団の人はこれをお狐様の御業と思っているようですね。

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