表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラスティア群像劇~第1章~  作者: niseimo38
第1章~そこで暮らす者たち~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/206

090、自警団の役割

AI作成

 東の城下町は、昼の陽に包まれていた。

 商人の呼び声、子どもたちの笑い声、鍛冶場の金属音。

 どれもが混ざり合い、この国の平穏を形作っている。


「異常なし。南門、問題ありません」


 低く落ち着いた声が通りに響く。


 門前に立つ侍――月詠は、町を見渡していた。

 袴姿に帯刀。背後では大きなリスの尻尾が、陽光を受けてゆったりと揺れている。

 その姿は、この国ではすでに“安心の象徴”だった。


「団長ー!」


 遠くから駆けてくる足音。


 石畳を全力疾走してくるのは、同じく侍姿の魔族の女性、エンジ。


「報告書、持ってきました!」


 勢いよく止まろうとして――


 ずるっ。


「うわっ」


 見事に足を滑らせ、前方へ転ぶ。

 紙束が空中に散った。


 月詠は無言のまま数歩進み、舞う書類を正確に受け止める。


「……怪我は」


「ありません!! 心が少しだけ折れました!!」


 きりりとした顔立ちに似合わぬ台詞だった。


「北通り、屋台の火の扱いが雑。後で注意を」


「はい!」


「西の山道で光を見たという報告が二件」


 エンジの表情が引き締まる。


「裂け目関係の可能性は?」


「不明。だが急を要する気配はない。巡回を増やす」


 判断は早く、迷いがない。

 月詠は不安を広げず、しかし見逃さない。


 二人は通りを歩く。


「お侍さん、団子いるかい?」


 屋台の主人が声をかける。


「勤務中だ」


 月詠が静かに断る横で、


「一本だけならバレませんって!」


「エンジ」


「はい」


 団長の尻尾がわずかに膨らんだ。緊張の合図だ。


 そのとき。


 空気が、ほんの少し揺れた。


「……団長」


「ああ」


 人通りの少ない路地の奥。

 陽炎のような歪みが一瞬だけ現れ、すぐに消えた。


 静寂。


「報告は?」


「まだ上げるほどじゃない。でも」


「記録だけ残す」


 月詠は短くうなずく。


「九尾様の領域に近い。向こうが気づいている可能性が高い」


 エンジは小さく息を吐いた。


「ほんと、この国って不思議ですよね」


「?」


「危ないこと、起きそうで起きないっていうか」


 月詠は少しだけ空を見上げた。


「起きる前に、止まっているのだろう」


 それ以上は言わない。


 背後から、やけに元気な声が降ってきた。


「ニンニン!! 忍者参上!!」


 屋根の上でポーズを決めるカナミ。


「また来たか」


「自警団の巡回に同行するニン!」


「任務は」


「ありません!」


「帰れ」


 夕暮れ。

 町はいつものように穏やかだった。


 エンジは夕日を見ながら呟く。


「今日も何もなくて良かったですね」


 月詠の尻尾が、ゆったりと揺れる。


「ああ」


 その“何もない一日”が、

 どれほどの監視と判断と備えの上に成り立っているのかを、

 町の人々は知らない。


 だが、それでいいと――彼は思っていた。

神域とはちがう、その地に暮らす住人側の人たち。

彼ら自警団は今日も国の平和のために見回りを欠かさない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ