表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラスティア群像劇~第1章~  作者: niseimo38
第1章~そこで暮らす者たち~
73/112

073、砂に眠る声

AI制作

荒野は、いつもと同じ顔をしていた。


果ての見えない地平。

風に削られ続ける大地。

命の痕跡すら、砂に飲まれて輪郭を失っていく場所。


だがその日、ヘルガイトは足を止めた。


「……騒がしいな」


ラジリーが周囲を見回す。

「え? 何もいなくない?」


ピーゼンは首をかしげる。

「音は、風だけです」


サキは胸元に手を当てる。

「でも……なにか、たくさん……」


トスクは静かに目を細めた。

「ここは、長い時間が積もっていますね」


足元。

ただの砂。

だがそこには、砕けた石、朽ちた骨、風化した何かの破片――


無数の“かつて” が混ざっている。


ヘルガイトはしゃがみ、砂をひと掬いした。


さらさらと零れ落ちる粒。


その一粒一粒に、微かな“残り香”がある。

消えきらなかった記憶の気配。


「……なるほど」


彼の闇が、わずかに揺れた。


「お前たち、聞こえんか」


誰も答えない。

だが、サキだけが小さく頷いた。


「……寂しくないのに、ひとりみたいな感じがします」


ヘルガイトは立ち上がる。


風が強くなる。

砂が舞い上がる。


「散りすぎだ」


その一言と共に、黒い霧が広がった。


荒々しくない。

包み込む夜の色。


闇は砂の上を撫でるように流れ、

地面一帯が静かに震える。


ピーゼンが息をのむ。

「……集まってる」


砂が、流れに逆らって動き出す。


粒が、粒を呼び、

風に抗い、

一点へと寄っていく。


それは力で縛られたのではない。


呼ばれた のだ。


ヘルガイトは低く告げる。


「長く在りすぎたな」


砂の渦の中心に、輪郭が生まれる。


肩。

腕。

長い髪の線。


大人の女性の姿が、ゆっくりと形作られていく。


トスクが小さく息を吐く。

「……ああ」


サキは無意識に一歩前へ出る。

「きれい……」


最後に、目が開いた。


深い。

だが濁りのない色。


彼女は、最初から目覚めていたかのように、穏やかに周囲を見渡す。


驚きはない。

恐れもない。


ただ、長い旅の途中で少し立ち止まった人のような顔。


ヘルガイトが言う。


「名をやる」


その声に、彼女は視線を向ける。


わずかに、微笑む。


「……ええ」


まるで、続きを知っていたかのように。


「コーエンだ」


その名が落ちた瞬間。


風が止む。


砂の音が消える。


荒野が、一瞬だけ静まり返った。


コーエンは目を閉じ、静かに息を吸う。


「……懐かしい呼び方ですね」


ラジリーが目を丸くする。

「え、初対面だよね!?」


彼女は小さく笑った。


「ええ。でも、ずっとここにいましたから」


サキが近づく。

少し緊張した様子で。


「その……体は、大丈夫ですか?」


コーエンは彼女を見る。

その視線は、包むように優しい。


「あなたの方が、まだ揺れていますよ」


サキははっとして、自分の手を握る。


ピーゼンはそっと言う。

「あなたは……何ですか?」


コーエンは考えるでもなく答えた。


「通り過ぎたものの、置き土産です」


トスクが静かに頷く。


ヘルガイトは腕を組む。


「立てるか」


「ええ」


コーエンは自然に立ち上がる。

足元の砂が、彼女を支えるように固まる。


だが次の瞬間、足跡は残らない。


サキがそれに気づき、少しだけ寂しそうに笑う。


コーエンはその表情を見て、そっと言う。


「私は流れます。でも今は、ここに」


ヘルガイトと視線が合う。


一瞬の沈黙。


彼女は、ほんのわずかに頭を下げた。


「呼んでくださって、ありがとうございます」


それは主従の礼ではない。


再会の挨拶 だった。


荒野の風が、また吹き始める。


だがその音は、もう寂しくない。


砂はただの砂ではなくなった。

そこには“誰か”がいる。


そして彼女は、仲間の列の後ろに静かに並ぶ。


世界そのものが、歩き出した瞬間だった。

ついに、荒野そのものを仲間にしました。砂の化身「コーエン」。

長き時を見てきた彼女はあらゆるものを包み、守る存在。

彼女が歩くとき、荒野はもうただの砂ではありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ