028、王の決断、戦いの幕開け
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天幕の中は、外よりも暗い。
厚い布が光を遮り、中央の卓の上に置かれた油灯だけが揺れている。
地図が広げられていた。まだ空白の多い、大陸西内陸部。
フェルナンドは立ったままそれを見下ろしている。
鎧は外しているが、剣は腰にある。
王というより、まだ“先頭に立つ者”の姿だ。
リシャビエルは一歩進み、片膝をつく。
「報告します」
「聞こう」
声は低いが、急かす響きはない。
戦況ではなく、“状況”を聞く時の声だ。
「西方草原地帯にて、人型集団を確認」
フェルナンドの指が地図の一点で止まる。
「規模は」
「視認は六。逃走した数を含め、推定二十前後」
「武装」
「石製槍。衣服は獣皮のみ。金属装備なし。弓の確認もなし」
「マナ反応は」
「感知なし。扱えない可能性が高い」
天幕の中の空気が、わずかに重くなる。
それは脅威の重さではない。
結論の重さだ。
フェルナンドはしばらく黙っていた。
やがて問う。
「交戦したか」
「向こうが投擲。こちらが弓で応戦。一名確認撃破。こちらの損害なし」
王は目を閉じる。
短い呼吸。
それは悲嘆ではない。
計算の間だ。
「……生存に必要な土地だ」
独り言のように言う。
「水場があり、獣道があり、土壌も悪くない。冬を越えるには最適だ」
リシャビエルは答えない。
それはすでに皆が理解している事実だった。
ここを手放せば、民の一部は冬を越せない。
「共存は可能か」
静かな問い。
リシャビエルはわずかに視線を上げた。
「技術差が大きすぎます」
事実だけを並べる。
「彼らは我々を理解できない。恐怖は敵意に変わるでしょう。
小競り合いは続き、消耗が増えます」
一拍。
「そして数十年後、我々の子が同じ問題に直面します」
天幕の外で、子どもの笑い声が一瞬聞こえた。
フェルナンドの視線が布越しにそちらへ向く。
「……この百人を生かすのが王の務めだ」
その言葉に、装飾はない。
正義も、悪も、入っていない。
責任だけがある。
「掃討する」
決定は短い。
だが、その短さが重い。
「規模、武装、地形を把握し、損耗を最小に抑えろ」
「は」
「苦しませるな」
その一言だけが、わずかに人間の声だった。
リシャビエルは頭を垂れる。
命令は妥当。
判断は合理的。
だが天幕を出る直前、王の声がもう一度届く。
「リシャビエル」
「は」
「……最初に彼らを見た時、どう思った」
予想外の問い。
一瞬だけ、草原の光景がよみがえる。
石槍。
恐怖の目。
鉄を知らない手。
「……脅威ではありませんでした」
正直な答え。
「だが、“ここで生きている者”だと感じました」
沈黙。
フェルナンドはうなずく。
「なら覚えておけ」
声は低い。
「我々が奪うのは土地だけではない」
外へ出ると、空は広い。
兵たちはまだ知らない。
今、彼らの“戦い”が始まったことを。
リシャビエルは空を見上げた。
ここはもう空白ではない。
だが間もなく、
地図の上では空白になる。
王は、侵略を容認しました。これで、先住民は窮地に立ちます。
でも、王たちにとっても生きるための選択。この葛藤はのちにどのように影響するのでしょうか?




