027、流れる者、侵略の始まり
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草が深い。
腰の高さまで伸びた灰緑の草が、風に撫でられて波打っている。
見通しが悪い。伏兵を置くなら最適な地形だ。
リシャビエルは歩みを緩めなかった。
背後では鉄具の擦れる音が規則正しく鳴っている。
彼の隊だ。二十名。
狩猟班の探索範囲を広げた結果、未確認の人影があったという報告を受けての前進だった。
「獣ではなかったんだな」
横に並ぶアフェットが低く答える。
「二足歩行。道具らしきものを所持。衣類は獣皮のみ」
人間か、とリシャビエルは思う。
だが「人間」という言葉の中に、すでに線が引かれていた。
空気が違う。
ここには“手が入っていない”。
踏み固められた道も、伐採跡も、焚き火の灰も見当たらない。
人の匂いが、生活の形を作っていない。
「…いた」
前方、草の切れ目。
二人。
痩せた体。
裸足。
手には石の穂先を縛り付けた槍。
目が合った。
その瞬間、リシャビエルは理解した。
彼らは“警戒”ではなく“恐怖”の目をしている。
つまり、こちらの装備を見ている。
鉄の兜。
胸当て。
刃の光る剣。
彼らはそれを知らない。
一人が叫んだ。
言葉ではない。音だ。
合図か、悲鳴か、その両方か。
後方の草がざわつく。
さらに三人、四人。
石槍を構えた人影が現れる。
包囲ではない。
寄り集まっているだけだ。統率も陣形もない。
「……部族か」
リシャビエルは小さく吐いた。
これは戦ではない。
“接触”だ。
だが、接触はいつも同じ終わり方をする。
石槍が投げられた。
届かない。
間合いを知らない。
一本が隊列前方の盾に当たり、乾いた音を立てて落ちた。
「弓」
短い指示。
後方から弦が鳴る。
鉄の矢が飛ぶ。
一人、倒れる。
何が起きたか理解できない顔のまま、草の中に沈んだ。
静寂。
風だけが鳴る。
残った者たちの目に、さっきまでなかったものが宿る。
恐怖の先にある本能。
逃走。
「追うな」
部下が動く前にリシャビエルは言った。
「数と規模を把握する。ここは“彼らの領域”だ」
そう言いながら、自分の言葉の違和感に気づく。
領域?
ここは空白の地のはずだった。
王はそう言った。
地図にも印はなかった。
だが、今見た。
ここには暮らしている者がいる。
技術も、鉄も、マナも持たないが、
確かにここで生きていた者が。
足元に落ちた石槍を拾う。
軽い。
粗い。
だが、使われてきた痕がある。
「……報告が必要だな」
アフェットが言う。
リシャビエルはうなずいた。
「王に伝える。住民あり、文明段階低位、武装原始的」
淡々とした言葉。
だが胸の奥に、わずかなざらつきが残る。
これは戦略情報だ。
ただの分類だ。
それなのに――
“この地は無人ではなかった”
その事実だけが、妙に重かった。
草原の向こうで、逃げた者たちが消えていく。
リシャビエルは剣の柄に手を置いた。
やがてここに、柵が立つ。
炉が築かれる。
道が通る。
そして誰かが言うだろう。
最初から、人はいなかった
その言葉が生まれる瞬間を、
自分は知っているのだと思った。
新章スタートです! 今回はある王国のお話。
先住民と出会い、侵略し新国を作っていく物語。




