166、二人の涙、つぼみは決意す
AI作成。セリフ筆者。
翌日。
チェルシーは、この世界に来てから初めて、一睡もできなかった。
世界を背負う――。
その言葉が、胸の奥で重く沈み続けている。
旅を続ける?
無理だ。あの裂け目の真実を知ってしまった今、何も知らぬ顔で歩き続ける勇気はない。
この地に留まる?
それも、できない。
皆の期待を背負う覚悟など、自分にあるとは思えなかった。
夜は長く、月明かりだけが静かに障子を照らしている。
ヒサメがそっと部屋を訪れたことにも、チェルシーは気づかないほど、思考の深みに沈んでいた。
「やっぱり。ふさぎ込んでるわね」
声に顔を上げる。
「え、あ……ヒサメ……」
その声音は、今にも崩れそうだった。
ヒサメはため息をつき、隣に腰を下ろす。
「全く。見てられないわ。……少し、昔話をしようか」
チェルシーは黙って頷いた。
ヒサメの視線は、遠くを見ている。
「私がこの世界に来たのは、約三十年前。この国は、前代未聞の大災害に見舞われていた。最大の裂け目が生じ、何人もの命が向こう側へと消えていったわ」
チェルシーは、ただ耳を傾ける。
「その向こうは地獄絵図。マナは急速に枯れ、命は触れた瞬間に朽ちる。あちらへ行った人は……きっと助からなかったでしょうね」
肩が、びくりと震える。
ヒサメは続ける。
「そんな中、ただ一人だけ、生き残った者がいた」
静かな間。
「それが、私」
チェルシーは、ゆっくりと彼女を見る。
「私は“逃げて”きたの。命からがら、この世界へ。世界を守る? 自分がいればうまくいく? とんだ思い上がり。一瞬で、全部失った」
声は平静を装っているのに、指先はわずかに震えていた。
「改めて聞くわ。あなたは、この後、どうしたい?」
その問いは、優しくもあり、残酷でもあった。
答えの代わりに、チェルシーはヒサメへと身を預ける。
強く、強く抱きしめた。
「ごめん……ごめん……!」
「ちょ、ちょっと!? どうしたの?」
「苦しいよね……辛かったよね……。なのに、また守る道を選んでたんだね」
涙が、ヒサメの肩を濡らす。
「私、ダメだね。でも……ヒサメ。あなたのためなら、私は守れる人になる。だから――」
ヒサメの心臓が、どくりと鳴る。
「な、なに?」
「もう、一人で抱え込まないで」
言葉が、静かに落ちた。
ヒサメは否定しかける。
「そんな、私が……いつ……一人で……」
その声は、途中でほどけた。
気づけば、ヒサメもまた、チェルシーの背を抱き返していた。
夜が明けるまで、二人は泣き続けた。
誰にも見せなかった涙を、ようやく分け合うように。
正午。
太陽が最も高く昇った刻。
社の前に、再び一行は集う。
妖狐は静かに問う。
「チェルシー。改めて聞こう。そなたは、この地で修復師を目指すか?」
迷いはなかった。
「はい」
短く、はっきりと。
ライが片眉を上げる。
「なんだ、いやにあっさり答えたな」
ヒサメが、くすりと笑う。
「そりゃ、チェルシーだもの」
チェルシーも微笑む。
「ね、ヒサメ」
その笑顔は、昨夜とは別人のように澄んでいた。
妖狐は目を細める。
「そうか」
その胸に、遠い記憶がよみがえる。
かつて誓った友。
守ると決めたもの。
未来へと託した願い。
――思えば、それは。
思いのほか、早く果たされていたのかもしれぬ。
社を吹き抜ける風は、どこかあたたかかった。
彼女は決断した。この世界を守るということを。でもそれは、大きなミスリード。
守ると決めたのは、きっと――。
これにて、チェルシー編は完結です。感動のクライマックスを、ありがとう!




