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ラスティア群像劇~第1章~  作者: niseimo38
第2章~旅人チェルシー~

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166/206

166、二人の涙、つぼみは決意す

AI作成。セリフ筆者。

翌日。


チェルシーは、この世界に来てから初めて、一睡もできなかった。


世界を背負う――。


その言葉が、胸の奥で重く沈み続けている。


旅を続ける?

無理だ。あの裂け目の真実を知ってしまった今、何も知らぬ顔で歩き続ける勇気はない。


この地に留まる?

それも、できない。

皆の期待を背負う覚悟など、自分にあるとは思えなかった。


夜は長く、月明かりだけが静かに障子を照らしている。


ヒサメがそっと部屋を訪れたことにも、チェルシーは気づかないほど、思考の深みに沈んでいた。


「やっぱり。ふさぎ込んでるわね」


声に顔を上げる。


「え、あ……ヒサメ……」


その声音は、今にも崩れそうだった。


ヒサメはため息をつき、隣に腰を下ろす。


「全く。見てられないわ。……少し、昔話をしようか」


チェルシーは黙って頷いた。


ヒサメの視線は、遠くを見ている。


「私がこの世界に来たのは、約三十年前。この国は、前代未聞の大災害に見舞われていた。最大の裂け目が生じ、何人もの命が向こう側へと消えていったわ」


チェルシーは、ただ耳を傾ける。


「その向こうは地獄絵図。マナは急速に枯れ、命は触れた瞬間に朽ちる。あちらへ行った人は……きっと助からなかったでしょうね」


肩が、びくりと震える。


ヒサメは続ける。


「そんな中、ただ一人だけ、生き残った者がいた」


静かな間。


「それが、私」


チェルシーは、ゆっくりと彼女を見る。


「私は“逃げて”きたの。命からがら、この世界へ。世界を守る? 自分がいればうまくいく? とんだ思い上がり。一瞬で、全部失った」


声は平静を装っているのに、指先はわずかに震えていた。


「改めて聞くわ。あなたは、この後、どうしたい?」


その問いは、優しくもあり、残酷でもあった。


答えの代わりに、チェルシーはヒサメへと身を預ける。


強く、強く抱きしめた。


「ごめん……ごめん……!」


「ちょ、ちょっと!? どうしたの?」


「苦しいよね……辛かったよね……。なのに、また守る道を選んでたんだね」


涙が、ヒサメの肩を濡らす。


「私、ダメだね。でも……ヒサメ。あなたのためなら、私は守れる人になる。だから――」


ヒサメの心臓が、どくりと鳴る。


「な、なに?」


「もう、一人で抱え込まないで」


言葉が、静かに落ちた。


ヒサメは否定しかける。


「そんな、私が……いつ……一人で……」


その声は、途中でほどけた。


気づけば、ヒサメもまた、チェルシーの背を抱き返していた。


夜が明けるまで、二人は泣き続けた。

誰にも見せなかった涙を、ようやく分け合うように。




正午。


太陽が最も高く昇った刻。


社の前に、再び一行は集う。


妖狐は静かに問う。


「チェルシー。改めて聞こう。そなたは、この地で修復師を目指すか?」


迷いはなかった。


「はい」


短く、はっきりと。


ライが片眉を上げる。


「なんだ、いやにあっさり答えたな」


ヒサメが、くすりと笑う。


「そりゃ、チェルシーだもの」


チェルシーも微笑む。


「ね、ヒサメ」


その笑顔は、昨夜とは別人のように澄んでいた。


妖狐は目を細める。


「そうか」


その胸に、遠い記憶がよみがえる。


かつて誓った友。

守ると決めたもの。

未来へと託した願い。


――思えば、それは。


思いのほか、早く果たされていたのかもしれぬ。


社を吹き抜ける風は、どこかあたたかかった。


彼女は決断した。この世界を守るということを。でもそれは、大きなミスリード。

守ると決めたのは、きっと――。

これにて、チェルシー編は完結です。感動のクライマックスを、ありがとう!

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