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ラスティア群像劇~第1章~  作者: niseimo38
第2章~旅人チェルシー~

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165/206

165、世界の根幹

AI作成、セリフ筆者

社へ移動した一行は、自然と歩みを緩めた。

外の潮風とは違う、静かな気配がそこには満ちている。


妖狐は凛と、場の中心に立つ。

ライは腕を組み、堂々と背筋を伸ばした。

ヒサメは恭しく膝を折り、月詠は深く頭を垂れる。

そしてチェルシーは、ただまっすぐに、妖狐を見据えていた。


しばしの沈黙。


やがて、妖狐が口を開く。


「さて、まずは、先ほど話していた“修復師”と“縫界衛士”について話そうかの」


灯籠の火が、かすかに揺れた。


「修復師とは、代々エルフの家系の中でも、特にマナを操る力の強い者が鍛錬を積み、世界各地に生じた裂け目を“縫う”ように修復する者のことじゃ」


月詠が小さく顔を上げる。


「エルフ、ですか?」


ヒサメが静かに補足した。


「中央大陸――世界樹が存在すると言われる大陸に住まう種族。この世界の始まりを知る者たち」


チェルシーは言葉を挟まず、ただその一語一語を胸に刻む。


ライが続けた。


「縫界衛士とは、修復師が裂け目を縫い合わせる間、その身を守る戦士だ。修復の最中、修復師は無防備になる」


月詠は小さくうなずいた。


ヒサメは淡々と付け加える。


「里で最も実力ある者が、その役目を担うと伝えられています」


妖狐は愉快そうに目を細めた。


「ヒサメはよう勉強しておるのう。流石、わしの一番弟子じゃ」


「ありがとうございます」


その声音には、誇りとわずかな照れが混じっていた。


チェルシーが、そっと問いを投げる。


「召喚士は……修復師ではないのですか?」


妖狐は首を振る。


「あの地は少々特殊での。修復師が干渉せぬ代わりに、大精霊がその任を負っておる」


「では、修復師も縫界衛士も、エルフの職業だった?」


「昔の話じゃよ。今はどうか、わしにも分からぬ」


ヒサメは、わずかに微笑んだ。

――“昔の話”。それはつまり、今この場にいる誰かが、その続きを担うかもしれぬということ。


やがてチェルシーは、もう一つの疑問を口にする。


「では……時空のゆがみとは?」


ヒサメは静かに立ち上がった。

妖狐を見る。

妖狐はゆっくりとうなずく。


「それは私が説明するわ」


月詠が目を瞬かせる。


ヒサメの声は、凛として澄んでいた。


「時空のゆがみは、この世界とは空間も時間も異なる、別の次元との接続。取り出す物は複製され、飛び出る人は世界を跨ぐ。でも――」


彼女は指先で、空中に線を描く。


「布の裂け目を想像して。そこを何度も出入りに使ったら、どうなると思う?」


チェルシーの瞳が揺れた。


「……破れる。大きな穴に……あっ」


「そう。それが“裂け目”。時間軸と空間軸が混ざり合い、矛盾が発生する。それがマナの乱れとなる」


月詠は眉を寄せる。


「つまり、世界と世界が……かき混ぜられている?」


ヒサメはわずかに笑った。


「面白い例えね。大体合ってるわ」


そして、その声は少しだけ低くなる。


「本来、この裂け目は一度発生すると元には戻せない。けれど、この世界には“修復”できる者がいる。それがどれだけ貴重で、どれだけ尊いことか――分かるかしら?」


静寂。


チェルシーの胸に、何かが重く沈んだ。


「私は……そんなことを、独学で……」


妖狐が、ゆるりと笑う。


「だから“つぼみ”なのじゃよ」


ヒサメが問い返す。


「つぼみ……?」


「簡単なことじゃ。ヒサメとチェルシー、お主らは“修復師”足りえる存在ということじゃ」


灯火が揺れる。


妖狐は楽しげに笑った。


「クックック……わしが生きておる間に、よもや二人も後継者が現れるとは。まことに愉快じゃ」


ライが一歩前に出る。


「今は二人で一つの花を咲かせるのがやっとだ。裂け目もしばらくは発生しない。ヒサメ、お前はここで鍛錬に励め」


そして月詠を見る。


「お前は、私が直々に鍛えてやる」


月詠は深く頭を下げた。


「は! もったいなきお言葉!」


チェルシーは、少し遅れて口を開く。


「あの……私は?」


妖狐は、柔らかく言う。


「この地を守る気があるなら、歓迎する」


その言葉は、重い。

選択を迫る言葉だった。


チェルシーはしばし沈黙し、やがて顔を上げる。


「少しだけ、考える時間をいただけますか?」


月詠が思わず声を荒げる。


「何を馬鹿な! こんな機会、二度と――」


「馬鹿はあなたよ、月詠」


ヒサメの声音は冷たく、しかし震えていた。


「旅人に、いきなり世界を背負えと言うの? 共に歩むなら支えられる。でも――そうでないなら……」


「ヒサメ」


妖狐の一声で、空気が鎮まる。


「……失礼しました」


妖狐はチェルシーをまっすぐに見つめた。


「いきなり決めろとは言わぬ。だが明日、日が最も高く昇った時、再び問う。その時は、覚悟しいや?」


チェルシーは深く息を吸い、静かにうなずいた。


「ありがとうございます」


ライが踵を返す。


「話は終わりだ。麓まで送ろう」


社の外へ出ると、海の匂いが戻ってくる。

波音が、遠くで静かに打ち寄せていた。


――明日、太陽が天頂に達する時。


それは、つぼみが花となるか。

あるいは、再び旅人として歩むか。


世界は、静かに待っていた。


世界の真実。語られる歴史の重み。すべてを背負う覚悟、あなたにありますか?

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