015、吐き出された者
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潮の匂いが、最初にあった。
視界は白い霧に覆われ、足元の感触だけが現実を伝えてくる。
濡れた砂。柔らかく、冷たい。
次の瞬間、世界が音を取り戻した。
ざあああああ―――
寄せては返す波の音。
風が、衣服を、髪を、容赦なく揺らす。
橘敬三は、ゆっくりと目を開けた。
目の前に広がっていたのは、果ての見えない海だった。
空は広く、雲は高い。
見たことのない色の海。
見たことのない空気の重さ。
背後で、誰かが咳き込む。
「……ここ、どこだよ……」
荒波恭一の声だ。
震えている。寒さか、状況か。
敬三は答えない。答えられない。
代わりに、自分の手を見る。濡れている。砂が張り付いている。
生きている。だが、あの場所ではない。
視線を横に動かす。
花子が起き上がろうとしている。
砂に手をつき、周囲を見渡し、そして敬三と目が合う。
何も言わない。
だが、その目が問うていた。
――生きてる?
敬三は小さく頷く。
そのやり取りを合図にするように、周囲で人が動き始めた。
石川拓斗が上体を起こし、
金田丑三が空を見上げ、
月代萬月はすでに立ち、剣の柄を確かめている。
少し離れた場所では、神楽一番がゆっくりと膝をつき、砂を掴んでいた。
指の間から砂がこぼれ落ちる。
「……地面は、ちゃんとしてるな」
現実確認の言葉。
誰も笑わない。
笑える状況じゃない。
振り返る。
そこには――何もなかった。
街も、船も、建物も、道も。
あるのは、海岸線と、草の生えた緩やかな丘、そして空だけ。
世界から切り離されたような場所。
そのとき。
空気が、わずかに震えた。
全員が同時にそちらを見る。
何もない空間が、ゆらり、と歪む。
水面に石を落としたときのような波紋が、空中に広がる。
そして、ふっと消えた。
静寂。
敬三の喉が、わずかに鳴る。
「……あれが、俺たちが出てきたやつだな」
誰も否定しない。
ここは“辿り着いた場所”ではない。
“吐き出された場所”だ。
風が強くなる。
潮騒が大きくなる。
世界は何も語らない。
歓迎も、拒絶もない。
ただ、ある。
敬三は海を見る。
長い、長い時間を生きてきた海の顔だ。
優しさも、怒りも、すべて飲み込んだ顔。
その海に向かって、低く呟いた。
「……生きるぞ」
宣言でも、決意でもない。
確認だ。
それが、この場所で最初に生まれた言葉だった。
そしてここから、文明は始まる。
いよいよ新章、漁師たちの物語の始まりです!
突然迷い込んだ彼らに待ち受けているのは、いったいどのようなものでしょうか?




