139、日の光の名を得た悪魔
セリフ筆者、ト書きAI作成。
崩れた地底魔城の跡に、まだ白い砂煙が漂っている。
スキアは、遠く地平を見やった。
「チェルシー。ここから一番近い街はどこだ?」
チェルシーは肩越しに振り返る。
「そうだねえ。ここからなら南に**セントビア王国**、ナスティア村があるな」
風が、南から吹いた。
スキアは小さく頷く。
「ありがとう」
チェルシーは軽く手を振る。
「さてと、私はそろそろ行くとしよう」
その背に向けて、スキアは呼び止める。
「チェルシーよ。次に会う時は、友として」
差し出された手。
迷いはない。
チェルシーは静かにその手を握る。
力は強すぎず、弱すぎず。
敵でもなく、契約でもなく、支配でもない。
対等の証。
「楽しみにしてるよ」
そう言い残し、チェルシーは歩き出す。
瓦礫の向こうへ。
やがて、その姿は地形の陰に溶けた。
静寂。
ほんの数分。
だが、不思議と長くも短くも感じる時間。
スキアは振り返る。
「お前たちも、いつまでも下級悪魔というわけにはいかないな。何か、名を授けようと思う」
二体は深く頭を垂れる。
「もったいなきお言葉。すべてはスキア様の命ずるままに」
スキアは、かつて自分を抱き上げた腕を思い出す。
叱責も、庇護も、沈黙も。
すべてが、今の自分を形作った。
「そうだな。私を育てたお前は――ニーチェだ」
風が止まる。
「ご尊名、ありがたく頂戴いたします」
その声は、もう“下級”ではなかった。
レインがもう一体を見る。
「この人は、サン」
名を与えられた悪魔は、穏やかに微笑む。
「レイン様、ありがとうございます」
スキアは三人を見渡す。
兄と妹。
そして、名を得た者たち。
主従ではない。
家族でもない。
だが、それに近い何か。
南の空は、わずかに明るい。
まだ見ぬ世界が、呼んでいる。
スキアは歩き出す。
「では、行くとしよう」
四つの足音が、瓦礫を離れる。
地底魔城は、もはや影だけ。
だが、その崩壊の上に立つ者たちは、確かに生きている。
新たな名とともに。
新たな道へ。
そして――
物語は、静かに続いていく。
下級悪魔さんにも名前が付きました。一つの個が生まれました。それも、二つも同時に。
彼らの紡ぐ物語は、また新たな風を吹き込むことでしょう。でも今は、チェルシーの話を続けたいと思います。




