122、国王である前に父である
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城下町の石畳を歩くチェルシー。商人の声、子どもたちの笑い声、焼きたてパンの香り——日常の喧噪の中で、住民たちの視線がある一人の男性に集中していることに気づいた。
視線の先に立つのは、落ち着いた瞳と整った顔立ちを持つ男性。
服装は簡素だが、どこか自然な威厳が漂う。
しかしその佇まいには、妙なそわそわ感が隠しきれずにあった。
「あの人……国王?」チェルシーは小さく呟いた。外部から来た旅人の目にも、特別な存在感が分かる。しかし同時に、どこか落ち着かない様子が目についた。
チェルシーが近づくと、男性は視線をそらし、足をそわそわと動かす。
「……おや、旅人さんですね」男性が声を出すが、どこか落ち着かない。
「何か困ってますか?」チェルシーは自然な声で訊ねる。
男性は深く息をつき、初めて表情を緩める。
「実は……今まさに、子どもが生まれようとしているんです。乳母たちが手際よく取り仕切っていて、私は……追い出されました。何も役に立たない男として、外でそわそわしているしかなくて……」
その言葉には、国王としての威厳や権力は一切感じられず、一人の父としての不安と焦燥だけが滲んでいた。城下町の住民たちの視線は、その男の立場ではなく「そわそわする人間として」彼を見ているかのようだった。
チェルシーは静かに頷き、微笑みを絶やさずに応じる。
「なるほど……これから父になる方が、どうすればいいのか分からず不安なのは当然です。今は見守るしかない、そういう立場ですから」
男性は小さく目を伏せ、城下町の雑踏を眺めながら言った。
「はい……私は国王としてなら何でも決められる。しかし、父としては……何もできない。役に立てない自分が情けない」
チェルシーは軽く肩にかけた鞄から小さな人形を取り出し、指先で糸を調整しながら柔らかく言った。
「役に立てないなんてことはありませんよ。そわそわしているだけでも、あなたの気持ちは子どもに届きます。それだけで十分です」
男性は、旅人の魔族からの言葉にわずかに肩の力を抜いた。城下町の喧騒の中で、国王としてではなく、一人の父としての人間らしい姿が、ほんの一瞬だけ、自然に現れた。
国王フェルナンドも、出産という現場では無力です。女性のすごさが改めて分かりますね。
母親の心配、子どもの心配、今後の不安、期待。でも、それを受け止めるにはもう少し時間がいるのかな?




