116、名前
セリフ筆者、ト書きAI作成
研究室の奥にある居住区は、意外にも温かみがあった。
無機質な外観とは違い、木製のテーブルと柔らかな灯りが、どこか家庭の匂いを漂わせている。
夏美「お夕飯できたわよー」
春奈「おお、そうか。チェルシー君、少し休憩しよう。夏美の料理は美味いぞー」
夏美「褒めても何も出ないわよ。今日は良い乳製品が手に入ったから、クリームシチューと苺ヨーグルトにしたわ。バゲットを用意したからそれをシチューにつけて食べてね」
湯気の立つ白いシチュー。
とろりと溶けた野菜と肉。
甘酸っぱい苺ヨーグルトの香りが広がる。
春奈「ありがとう。ちょうど甘い物も欲しかったところだ」
夏美「それじゃ、いただきます。チェルシーさんも召し上がれ」
チェルシー「では、いただきます」
三人で手を合わせる。
春奈「いただきます。PC03。いつか夏美の美味しい料理をたんまり食わせてやるからな」
その言葉は冗談のようで、冗談ではなかった。
しばらく穏やかな時間が流れる。
チェルシーは静かに問いかけた。
チェルシー「ところで春奈さん。“あるプログラム”て何ですか?」
春奈は、スプーンを止める。
春奈「簡単だよ。“心”さ」
夏美「簡単に言うけど、理論が最も通用しないのよねえ」
チェルシー「なるほど」
春奈は語り出す。研究者の顔で。
春奈「心というのは、0と1ではない、間が存在する媒体だ。だからPC03に入れると解析後すぐにエラーを起こしてしまうんだ。かといって容量を上げようにも無限があり得るゆえにいくら容量があっても足りない」
理論としては正しい。
だが、どこか行き詰まっている。
チェルシーは少し首を傾げた。
チェルシー「PC03に心を、ですか。どんな名前の子になるんですか?」
春奈「……あっ!」
スプーンが器に当たり、乾いた音が響く。
春奈「なるほど、つまり心を持つ前段階、自我を持たせるには自身に名前があった方が有利。つまり、設定をつけて後付けで心を入れる。すると、そうだな。熱暴走に耐えるだけのシステムと外装が必要だ。冷却は髪を伸ばして行う。システムは……」
言葉が加速する。
理論が回り始めた。
夏美「あー……始まっちゃった……。チェルシーさん。食器は片づけておきますので、先に休んでいいですよ。あーなるとお姉ちゃん、夜通し考え事しちゃうから」
チェルシー「あ、ああ。分かった」
チェルシーは立ち上がり、研究室の奥へ向かう。
背後では、春奈の独り言が続いている。
「名前を与える……識別ではない、自己定義……Iの座標……」
夜は深い。
研究室の灯りは消えない。
そして――
この場で、理論は形を持ち始める。
まだ完成ではない。
だが確かに、方向が生まれた。
それは数式ではなく、
ひとつの問いから始まった。
「どんな名前の子になるんですか?」
理論外からの変化球! ストラーイク! 春奈の中で何かが目覚めた瞬間ですね。
私たちが何気なく使っている「名前」。私が私であると認識するための名前。




