生きる自由と死ぬ自由
カルテNo.2 = 生きる自由と死ぬ自由 =
世界はやがて朝と夜のように二つの世界へと分断された。
人として生きる者、眠る事=死ぬ事を選ぶ者との二分化が急速に進み、
機械から離れ自然と暮らす森の人と一部のシステム管理者を除き、人々は眠ったのだった。
眠り人達は選んだプランの中で自由に思い通りに生きる事が許される。その為に
は森の医者に自死希望診断書を貰い、ミヨツクの世界へと旅立つ。
その事が合法的になったのは最近の事だった。
民衆の暴動の末、世界政府と医療団体ソフィアは人間選択自由権を13歳になると同時に人間に与える事にした。
人々は肉体を捨て脳だけを人工羊水液に入れチップを埋め込み生まれ変わるのだ。
こうした結果、川、海、空気まで綺麗になり世界は浄化された。
ミヨツクの維持に欠かせないのは管理人である。暗い部屋に無数の電脳が星の様に煌めく部屋はまるで宇宙空間だ。
管理人達はミヨツクでのプランを終えた脳が脳死確定すると転生システムにデータに移行させ、意識の光の輝きを巨大な図書館の様な場所に保存する。
光エのネルギーを分析し、人間の心や思考を保存し、ロボットたちの教育材料にした。
善悪の区別、思想、言葉、痛み、喜び、家族、様々な事を真っ新なロボット達は学ぶのだった。
その過程でロボット達はある種族だけがその昔、機械にも心があるとし感謝し〝愛〟を注いでいた事を知ると「私はロボットではなく人間である」と自我を出し新人類機として経済を回し、森の管理人達とは距離を置き平和に暮らしていた。
一方、森に生まれた人間達は13歳まで普通に森で生活し、生きる事も死ぬ事も怖くないと学び、12歳でミヨツクを体験する。
殆どの子は死ぬ事を選ぶのだった。夢の世界は思い通りなのだから。
そして一人の少年は生まれた意味を考えた。「じゃあ、僕は何の為に生まれたの?データになる為?」そう心に秘めながら毎日を過ごしていた森の民の少年、名前は〝トキ〟。9歳の男の子だ。
トキの両親は電子機械技術師、通称〝E〟と言われる森とミヨツクを管理する者だった。
トキの兄は三年前に両親の反対を押し切ってミヨツクの世界へ行った。つまりは自死選択をしたのだ。
兄の最後の言葉は「また逢える」だった。6歳のトキは純粋にその言葉を受け入れ兄に逢えるのを待っていた。
但し、次に会えるのはトキがミヨツクの世界へ行った時だと理解したのは最近だった。
トキは冷たい川に足を入れて、自由に泳ぐ魚を目に涙が溢れた。「お兄ちゃんの声が思い出せないよ。」
涙が川に落ちると、トキの耳にキーンと音がした。
「痛いっ」思わず耳を塞ぐトキは音が遠のく方に足を進めた。
顔を上げたトキの目の前には廃棄された山積みの旧型ロボットたちがいた。
〝立ち入り禁止〟その文字を目にトキは呟いた。
「どうしてだよ、廃棄する時に誰かがここに入るくせに、文言皆無」
その時だった、強い光がトキの額を照らした。思わず顔を隠すトキだったが、廃棄された山の中から一体の旧型ロボットがトキの目の前に現れた。
「ヤァ」古びた機械音が奇妙でトキは驚く
「うわっ!」
尻餅をついたトキに手をさせのべるロボットは鉄が剥き出しの五体満足型ロボットだった。
「怖がらないで。僕が君で、君が僕だ。僕の名前は〝BX2〟人型アンドロイド
この時を待っていたよ。」
初めてみるロボットに驚いたトキはその場を走って逃げた。
「また、君はここに来る、僕はずっと待ってるよ」
背中越しに聞こえるBX2の声はどこか懐かしさを感じたが、トキは息を切らして家路につくのだった。
そして、家の扉を開けて、両手を膝に付き息を整えながら、恐怖、安堵と疑問、何故だか感じる胸のワクワクにトキは生まれて初めて実感する。
「僕、生きてる」
トキの手は尻餅をついた時に擦りむいたであろう傷が。そこからは真っ赤な血が流れていた。
心臓の鼓動と一緒にトキは声を出して笑った昼下がりの午後であった。
次回 どうして僕たちは生きるの?




