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ポンコツプロポーズにOKしたら国境を越える事になった件

この物語は『賽の河原に花束を』のエピソードを

別の角度から書き直したものです

休日の朝、特に買う物はなかった。


でも家でじっとしていると、なんとなく落ち着かない。


普段なら外出など必要がない限りしない我が、

今日は妙に街へ出かけたくなった。

何か、いつもとは違うことが起きる気がしたのだ。


身支度を整えていると、ルームメイトのユゥドンが

声をかけてきた。


「メイファ、どこかに出かけるの?

 行き先が決まっていなければ、一緒に行かない?」


ユゥドンは広州で知り合った同郷の友人で、

我より一つ年上。

2年前からルームシェアをしており、日本料理店で働いている。

休みが重なると、街に出て遊ぶことも多い。


彼女の提案には、少し安心感と少しのワクワクが混ざっていた。


「どこに行くの?」


「お店で仲良くなった人遊ぶんだけど、

 一緒に行かない?」


「どんな人?」と確認ーー


「日本人、カタコトの中国語が面白い」


軽く眉をひそめながらも、我は好奇心に勝てなかった。

日本のアニメの話を聞けるかもしれないー

そんな軽い期待があった。


バスを乗り継ぎ、30分ほどで待ち合わせ場所に着く。

ユゥドンが一人の男性を紹介した。


背は中肉中背よりやや細めで、短く整えた髪に眼鏡をかけている。

お兄さんとおじさんの中間くらいの見た目で、真面目そうな雰囲気を漂わせていた。

お世辞にもイケメンではなかった。


自己紹介はぎこちなく、それでも微笑ましい。


「チェンチャンシェンション」


彼の名前を中国語で発音すると、中国人の我でも難しく、口に出すたびに舌を噛みそうになる。


街を歩きながらの会話――中途半端な彼の中国語と、返事をするのが精一杯の我の日本語――どこか噛み合わず、つい笑ってしまった。


「緊張してるんだろうな」


彼は聞き取ろうと必死になっている。

我は彼が聞き取りやすい様に短く話す。

まるで幼児と話している様だ。


見た目は立派な大人なのに

幼児の様なカタコトのギャップが

無性に楽しく感じた。


我も頑張って日本語を話そうとするが

自分で聞いても「意味わからん」のに

彼は聞き逃さない様に必死になっている。


無理に日本語で話すのをやめた。

彼に伝わる様に簡単な中国語で話す方が

自然にいられたからーー


その日は軽く食事をして別れた。

帰り道、布に包まれたような温かい余韻が、

我の足を軽くした。


「まあ、面白い一日だった」と自分に言い聞かせる。

でも心の片隅では、少しの期待と不安が渦巻いていた。



それから毎週末、彼から連絡が来た。

街で食事をしたり、散歩をしたり、些細な会話を重ねるだけでも、心が満たされていく。

不器用だけれど、真剣に我を見てくれるその姿は、日常の中で小さな支えとなった。


ある日、彼の家で手料理を振る舞うことになった。

キッチンで野菜を切っていると、後ろから彼がそっと覗き込む。


「この野菜は初めてみるね……」


声は小さく、慎重で、どこか不器用。

その姿に、思わず微笑んでしまった。

不器用だけど誠実で、どこか守ってあげたくなる。


食事が終わり、片付けをしていると、彼が突然顔を赤らめて告げた。


「メイファ、好きです、結婚して下さい」


胸の奥が、一瞬止まった。


我が夢見ていたプロポーズは、


夜景の美しい川沿いで、

満月の光のスポットライトの下、

両手いっぱいの花束と大きな宝石の指輪――


そんなロマンチックなものだった。


でも目の前のプロポーズは、あまりにも事務的で、

少し笑いがこみ上げる。

驚き、戸惑い、少し苛立ちも覚える。


「ほんの少しでもロマンチックだったらいいのに」と心の中で毒づいた。


それでも彼の顔を見れば、青ざめて倒れそうな様子が痛々しい。


「イヤ」と言えば、彼は本当に倒れてしまうかもしれない――


それでも、断る理由は思い至らなかったーー


不器用でも真面目で、悪い人じゃない――

そう思うと心が落ち着く。



「…好的(良いよ)」


答えた瞬間、彼の顔が安堵で緩み、

フラフラとよろめく。

思わず手を取って支えると、少し笑いがこみ上げる。


「変なプロポーズだけど、まあ、何とかなるか」と

心の中で呟いた。

これが、我らしい受け止め方だと思った。



帰宅しても、現実感はなかった。

布団の中でじっと考える。結婚は良い。

でも、将来はどうなるのだろう。

日本に行くのか、広州で暮らすのか。

まだ何も決まっていない。


それでも胸の奥には、小さな希望が芽生えていた。

彼と過ごす時間は、些細なことでも温かく、

日常の中に幸せがある。



……何でプロポーズOKしたんだろう、謎だ。



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