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君の紡ぐ言葉が聴きたい  作者: 月内結芽斗
番外編

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番外編4. 修学旅行-5


 昨日の僕はどうかしていた。あんなことしたらまともに颯人の顔が見られなくなることくらいわかっていたくせに。


 今日はお父さんの運転する車でビーチまできて、広場のコートでバスケをしている。お父さんは学生時代バスケをしていたらしいから、颯人と駿くんがバスケ部と聞いてゲームをしたがったのだ。


 僕は早々にゲームから抜けて応援に徹した。お父さんも休憩が欲しいと言って途中で抜けて、二人で四人のゲームを眺めた。


 ケビンはお父さんの血を継いだのかバスケが上手で、颯人との連携もすごかった。シュートするたびにチラチラと颯人が僕の方を見ていたけれど、僕はサングラスをしているのをいいことに反応を返さなかった。


 バスケを終えた颯人は真っ先に僕のところに来た。にっこりと笑っていて、何を期待しているのかはわかったけど、僕は顔を背けた。朝からずっと颯人と目が合うたびに、僕の目も口も颯人から逃げたくなってしまう。よくないのはわかっていた。


 二人の間には沈黙が降りて、でも賑やかなビーチではそれすら気づかれない。そう願いたい。せっかくのみんなの修学旅行を僕の羞恥が穢したらいけないのは当然だから。そこまでわかっていて僕の羞恥は颯人を傷めてしまう。


 帰りに海岸沿いのお店で家族へのハガキとマグネットを買って、僕たちは家に帰った。


 玄関を開けるとベイリーが遊んで欲しそうにボールを持ってやってきた。


 僕と将吾と駿くんは揃って庭に出て、ベイリーと遊んだ。二人も動物が好きみたいで、家にいるあいだはベイリーのそばにいつもいる。


 庭と家の境で颯人とケビンが並んでいるのが視界の端に見えた。話をしているけど、二人の表情は楽しそうじゃない。どうしたのか気になるのに、聞くこともできないでいると、颯人が気づかないうちに家に入ってしまっていた。

 ケビンは僕たちの方に近づいてくる。


 主人が来たことに気づいたベイリーはボールを放って、彼のそばで伏せをした。それを見てケビンは嬉しそうに笑う。


『遊んでもらえてよかったな』


 ベイリーは緩慢に尻尾を振って応えた。


「なあ奏、颯人と喧嘩した?」


 主人にベイリーを奪われた駿くんは少し残念そうにしながらも、思い出したように口を開いた。「今日の二人ぎこちないけど」


 僕は言葉を失った。僕の羞恥はばれていた。


「颯人に何かされたのか?」


 将吾が怪訝そうに眉を寄せる。僕のせいなのに颯人が悪い前提の将吾に、僕は申し訳なくなる。


「何もされてないよ。けっ喧嘩もしてない。た、ただ……、僕が恥ずかしいだけ」

「恥ずかしい?」

「う、うん。ごめんね」


 昨日のことをまた思い出して顔が熱くなった。僕たちの日本語の会話をケビンは理解していないだろう。だけど、僕を見上げる青い目と視線が会うと、静かに微笑んでくれた。



 すっかり暗くなってガーデンライトがついた頃、お母さんと颯人が出てきて庭に料理を並べ始めた。日本食だ。日本好きだから日本食も作るのかもしれない。メニューには肉ジャガがあって、これは颯人が作ったらしい。食事を作るって教えてくれたら僕も手伝ったのに……。


 少し残念に思う。いや、今日一日、僕が颯人を避けていたのに何を言っているのだ。


「どう奏、美味しい?」

「えっう、うん」



 食事が終わった後、夫妻は中に入って行ったが、僕たちはしばらく庭にいた。プールに降りるためにある数段の段差に腰を下ろしていると、ベイリーが顎を僕の膝に乗せて目を閉じた。しばらくここから移動できないことを僕は悟った。


『ベイリーはカナデが大好きだな』


 上から降ってきた声に顔をあげると、ベイリーを挟んだ状態で、隣に腰を下ろそうとしていたケビンがにっこりと笑った。ベイリーは気怠そうに片目を開け、主人だとわかると尻尾を振って再び目を閉じた。


『ぼ、僕も彼が好き』

『そうかい?』


『さっきハヤトと話してさ、どうやら君を*****気はないみたいだ』


 僕は首を傾げた。部分部分でしかわからない。


『まあ****っていうのも辛いだろ? 冗談で言ったのに、本気にして彼怒るんだ。……大学に入ってから日本に留学するのもいいかな』


 何が冗談なのか分からなかった。ただ日本に留学と聞こえたからそこには返事をしておこうと思った。


『にっ日本に、来たときは、僕がかっ観光案内、すっするよ』

『じゃあこれからも連絡をとっていいかい?』

『もっもちろん?』

『頭を********君よくやるね』


 そういってケビンは首を傾げてみせた。どうやら僕がよく首を傾げると言いたいらしい。ケビンのジェスチャーに釣られて僕も首を傾げたらケビンがおかしそうに笑った。


『正直、その仕草あんまり好きじゃないんだ。でもカナデがやってるの見るのは嫌いじゃない』


 僕はとうとうわけがわからなくなった。ケビンは僕に好意を持ってくれているのかもしれない。でもそれは少し早合点だとも思う。颯人はどこだろう。


『まだ好きの段階ではないし、颯人にも****』


 ケビンの言葉を最後まで聞く前に、僕は勢いよう引っ張られた。眉間に皺を寄せた颯人の顔がすぐ近くにある。無理やり起こされたベイリーは颯人に視線を送ると、そのまま将吾たちがいるプールの淵に移動して行った。


「あっベイリー!」


 駿くんの嬉しそうな声が向こうから聞こえてきた。


『ハハハハッ、冗談冗談。それじゃあカナデ、日本に行ったときはよろしく! おやすみ』


 ケビンが家の中に消えるのを待って、颯人は僕の腕を離した。


「奏、何もされてないよね?」

「うっうん」

「よかったあ」


 形のいい口から溢れるのは、力の抜け切った安堵だった。颯人は僕にまったく怒ってないのだろうか。今日の僕の態度は本当にひどいものだった。颯人は何も悪いことをしていないのに、一方的に避けられてどんな気分だっただろう。僕から離れて行った手をおずおずと握る。


「……奏」


 颯人は僕を再び座らせると、僕の服についたベイリーの長い毛を何本か摘んで風に運ばせた。


「……犬は嫌い?」

「嫌いじゃないけど……、勝手に縄張りに入られたら困るよね」


 颯人が感情をわざと乗せるみたいに唇を尖らせる。僕はそれを見て笑った。


「ぼっ僕は犬すっ好きだよ。でも、友愛とれん、恋愛は違うから」

「そうだね」


 颯人の眉間の皺はとうになくなり、今は満足そうな笑みが広がっていた。


「はっ颯人! 今日は、ずっと颯人の、かっ顔見れなくてごめんなさい。恥ずかっかしくて……そっその僕からははじ、初めてだったから」


 顔が熱い。耳がジンジンする。涙が出てきそうだ。


「少しずつだよ。ファーストキスした時も今と似た状況になったけど、俺からする分には奏も慣れたでしょ?」


「なななっ慣れてはないっ!」

「えっ」


「でも!」

 僕は大きく息を吸い込んだ。


「でも……ぼ僕、颯人がすっ好きだよ。ゆう友愛じゃなくて、れっ恋愛だよ!」


「そうじゃなかったら困るよ、奏」



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