僕が頑張れた理由は何だろう?
僕は小学6年生。毎週木曜日、水泳教室に通っている。
でも、正直言って楽しくない。
お父さんとお母さんに「やれ」って言われるから、なんとなく続けてるだけ。
「もっと上手くなりたい」と思ったことなんて、一度もない。
それでも小学1年生のときから通っているから、クロールもバタフライも背泳ぎも平泳ぎも、一応全部泳げる。
今はタイムを縮める練習をしていて、来週はテストもある。
だけど、どうでもいい。やる気なんてない。テキトーに終わらせるつもりだ。
家に帰ると、お父さんがいた。
最悪だ。お父さんは酒癖が悪くて、酔っぱらうと怒ったり怒鳴ったりしてくる。
僕にとって、お酒を飲んだお父さんは“鬼”だ。本当に怖い。
でも、その時はまだ飲んでいなかった。
「来週、水泳のテストがある」って言ったら、
「テストに合格したらゲームを買ってあげる」って言ってくれた。
うれしかった。
夕食の時間になり、お父さんもお母さんも一緒にいた。
でも、お父さんはお酒を飲み始めた。
「早く食べて、この場から離れなきゃ」
お父さんが“鬼”になってしまうから。
僕は急いで夕飯を食べ始めた。
でも――間に合わなかった。
お父さんは顔を真っ赤にして、突然怒鳴った。
「全力で泳がないと許さないからな!」
びっくりしたし、怖かったし、「面倒くさいな」とも思った。
とにかく早く食べ終わりたかった。
そして、一週間後。水泳のテストの日が来た。
いざやろうと思っても、やる気が出ない。
僕は、人生で「やる気があったこと」がないんじゃないかと思う。
ゲームだってやるけど、途中で「面倒くさいな」と思ってしまう。
結局、その気持ちが勝ってしまう。何をやるにもそうだ。
テストは二人ずつ行われる。
先生が笛を鳴らしたらスタートだ。
「よーい! ピー!」
音が鳴った。
僕はいつも通りのペースで泳ぎたかった。
でも、それだと「本気じゃない」とか「ちゃんとやってない」とか言われそうだから、少しだけバタ足を強くして、いつもより速く漕いだ。
隣のレーンの子は、僕よりずっと速かった。
ちょっと恥ずかしくなって、もう少しだけ頑張った。
でも、結局その子には勝てなかった。
テストは――合格した。
僕が頑張れた理由は何だろう? 報酬があったからかな? それとも、お父さんに怒られるのが怖かったからかな?
恐怖は人を動かすんだろうか。
たとえば、挨拶って正直面倒くさいし、やりたくない。
それでも、お父さんや周りの大人が「ちゃんとやれ」ってうるさいから、仕方なくやっている。
やっぱり、怒られるのが嫌だからやるんだ。